第16話

「浅蔵さぁん。この『捕らわれのダンジョン人』ってなんですかぁ?」

「え? ――まずい。モンスターがこっちに来てる」


 しかも早い!

 いや、24階のあいつらが遅いだけで、特別早いって訳じゃない。

 だが真っすぐこちらに向かって来ている。


「二人とも、階段に行くんだっ」

「はいっ」

「あ、待って! 私、スキルの効果見てませんっ」

「俺が見た! 早くっ」

「浅蔵さぁんっ。う、後ろぉ」


 げっ。やっぱ早い!

 急接近する気配に振り向くと、物凄い形相で跳ねてくる・・・・・影が見えた。


「カンガルーですよ! 浅蔵さぁん、カンガルーです! 動物園から逃げてきたんですかねぇ?」

「そんな訳ないだろう! セリスさん、諦めて逃げるんだっ」


 カンガルーかよっ。道理で速い訳だ。

 二人が逃げるまで時間を稼がないと!


「鞭はなぁーっ、しばくだけやないんばいっ!!」


 カンガルーがその強靭な足で地を蹴り、飛ぶ!

 直線的過ぎるんだよ!


「シッ――」


 右に躱すと同時に鞭を振るう。

 足と、そして太い尻尾を絡め、奴を転倒させることに成功した。


 これぞインディーに憧れた俺の真骨頂!


「さあぁ、二人とも今のうちに――え?」


 階段に走れ――そう言おうとしたんだが。


「はぁっ!」

「えぇーい!」


 鬼気迫る勢いで、二人はカンガルーに向かって走った。

 

 包丁の刃――もう見た目は完全に薙刀なそれを、セリスさんはカンガルーの目を狙って突き出す。

 薙刀は狙いたがわずカンガルーの右目を貫いた。

 大戸島さんも同じように目を狙ったのか、だがそれは狙いが外れ、だがそれが功を奏した。

 カンガルーの長い首を刃がすり抜け、鮮血がほとばしる。


 俺……逃げろって言おうとしたのに。何故こうなったんだ?


「浅蔵さん、やるんですよね!?」

「え……あ、うん。やろうっ!」


 もしかして俺が鞭を使ったから、勘違いされたのか!?

 俺のせい? ねぇ、俺のせい?


『カフッ』

「おっと、振りほどこうたってそうはいかんっ」


 ぐっと鞭を締め上げ、カンガルーを逃がさないよう踏ん張る。

 くぅ。さすが25階モンスター。パワーがある。奴の足と尻尾は封じたが、腕は健在だ。

 カンガルーと言えばパンチだろう。動物のカンガルーのパンチだって、当たり所が悪ければ死ぬらしいしな。

 見た目がカンガルーでも、あれはモンスターだ。

 本来有るはずのない角だってあるんだしな!


 しかし――。


「くっ――ち、力負けしそうだ……倒せそうか?」

「皮膚が思ったよりも固くって、深く刺さらないんですっ」

「早く死んでぇ。早くぅ」


 起き上がろうとするたび鞭を引っ張って、態勢を崩させる。

 何分そんな攻防を続けただろうか――。


「これでっ!」


 セリスさんが気合の声を共に、薙刀を振るう。

 ずっと同じ所を狙っていたのか。遂にカンガルーの首からは大量の血液が溢れ出た。


『カッカッ、ガボァッ』


 盛大に吐血したカンガルーは暫く痙攣したあと、コトンっと糸が切れたように動かなくなった。

 すると――。


「え? 何て言ったと? ポケットがどうしたと?」


 セリスさんが見えない誰かと会話している?


「セリスちゃん、どうしたと?」

「うん、なんだかね、女の子の変な声がね、おめでとうって……」


 変な声?

 ボーカロイドの事か?


 カンガルーの足から鞭を解放し、巻き戻しながら彼女の下へと向かう。


「ポケットって、セリスちゃんが持ってるそれぇ?」

「え? あぁ、うん。これみた――えぇ!?」

「なんっ――ポケットォォっ!?」


 おおおお、おいおい、ポケットってまさか……みんな大好き四次元ポケット!?

 しかも本当の意味でのポケット!!


「ど、どのサイ――うっ。カンガルーがまた近づいてきている。しかも二体だ。逃げるぞっ!」

「は、はいっ」


 俺の鞭は一本。動きを封じれるのは一体だけ。

 かなりのパワーがあったからなぁ。あんなのの攻撃をまともに食らったら、骨折じゃ済まないかもしれない。

 逃げるが勝ち!


 そして――。






「セリスさん! ポケットのサイズは!?」


 ホームセンターへと引き返してきた俺たちは、それぞれのマイ椅子に腰かけ一息――つくことなく、俺はセリスさんに詰め寄った。


「え? サ、サイズですか?」

「そう! ポケットはね、四次元ポケットなんだよ!!」

「は、はぁ」


 ダンジョンモンスターはたまにアイテムを落とす。

 だいたいは体の一部分を剥ぎ取った素材だったりするんだ。

 まぁこのポケットも、カンガルーからと考えれば、体の一部分なのかもしれない。

 あれ? あいつ、雌だったか??


「そんなドロップアイテムの中に、アイテムボックスと呼ばれる魔法アイテムがあるんだ」

「魔法、ですか?」

「まぁそう呼ばれてるってだけ。実際、魔法みたいなアイテムなんだよ。なんせね、アイテムを大量に入れられるってのに、重さが感じれられないんだ」

「軽いんですかぁ?」

「いや、重さが感じない。つまり、無いんだ」


 その外見が三種類。

 セリスさんが拾ったポケットタイプ。腰に下げるポーチタイプ。そして大容量の鞄タイプだ。鞄タイプには、肩掛けとリュックの2パターンある。

 ポケットが一番容量が少なく、鞄だと無制限に近い。


 だが一番容量が少ないとはいえ、最低でも畳半畳分はある。

 重たい水や食料。頑張れば寝袋も数人分入るだろう。

 それらが持っていることも忘れるぐらい軽くて小さくまとめられれば、どんなにダンジョン攻略が楽だろうか!


「はぁはぁ、――という訳なんだ。どんなに凄いアイテムか、はぁ、分かってくれたかな?」

「わ、分かりました。浅蔵さん、落ち着きましょう?」

「セリスちゃん、凄ぁ~い! それで、どのくらいの大きさなの?」

「あの、それは……突然だったからビックリして。声の内容もあまり覚えてないのよ」

「へぇ。俺はそんなアイテム、一度もドロップしたことなかったんだけど。ボーカロイドのアナウンスがあるって、本当だったんだな。まぁ大きさに関しては、実際に広げれば分かるから」

「広げるんですか?」


 言ってから俺は、二人を店内の方へと連れて行った。

 ポケットを広げる・・・為だ。


「ポケットの口を引っ張って、みよーんって伸ばすと広がるんだ。えぇっとね、実際には大きなダンボールが出てくるって話なんだ」

「ダンボール? ますます分からなくなった」

「まぁとにかく広げてみよう。大きい場合の事も考えて、この辺りの広い所に向かってやってみてね」

「わ。分かりました」


 セリスさんがポケットの口を、みよーんっと広げる。

 俺も実際に見たことがある訳じゃない。ただ動画で配信されているのは見たことがある。

 それだと、ポケットの口をみよーんってすると――。


「はわっ! ほ、本当にダンボールになった!」

「おおおぉぉぉ! こ、これは!!」


 四畳半の巨大ダンボールになったぁー!

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