第17話
四畳半。君なら何を入れる?
俺? そうだなぁ――。
「鞭の素材違いの予備を作ろう! そんで全部入れるんだぁ。アクリルシールドの予備も! ベッド……さすがに三人分は無理か。ならマットレスだ! マットレス入れよう! 食料だってつめ放題! あ、工具も必要だな。他に使えそうなのとか何かないかなぁ。そうだ! 野菜だ。野菜のプランターも詰め込もう!!」
入れたいモノがたくさんあって困っちゃうね!
「で、でも、本当に重くないんですか?」
「んー。俺も生で見たのは初めてだからねぇ。ちょっと重い物を入れてみよう」
2Lの水が6本入った箱を二つ入れ、ダンボールの蓋をする。
「わっ。ポケットに戻った」
「うん。これ、どこにでも付けられるから」
セリスさんに手渡し、彼女はそれを
二箱分の水。本来は重いんだけどね。
「重い?」
「……凄い。本当に重くない」
「え? 私にも持たせてぇ――わわっ。すっごーい!」
それから俺たちは有頂天になっていろいろ詰め込んだ。
ダンボールの高さは60センチほど。マットレスだって余裕で入る。
たださすがにかさ張るし、俺たち三人が同時に寝ることは無いのでダブルサイズを一枚入れた。
その上の隙間に毛布や、バーベキューで使う折り畳みテーブル、そしてクッション性のあるレジャーシートも何枚か乗せた。
一つあればいいのは分かっている。だが食事の用意をしている最中に、どうしてもその場から逃げなきゃならない状況になったとき――。
片付ける余裕なんて無い。
そんな場合は捨てて行くしかない。だから予備をいくつも持って行くのだ。
「それを可能にしてくれる、夢の四畳半!!」
「四畳半、凄いですぅ~」
「……四畳半を強調しなくても……」
「ふぅ~。まだ余裕はありそうだな」
「予備の装備も入れなきゃいけないんでしょぉ?」
「あぁ、そうだった」
食料と水は二週間分。他にも使えるかも? と思われるものは片っ端から詰め込んだ。
それでもまだ少しだけ余裕はある。
アクリルシールド10枚だって余裕で入りそうだ。まぁ薄いしな。
鞭はそれこそ、隙間があればどこにでも入れられるし。
ダンボールの蓋を閉めると、瞬時にポケットへと戻る。
残念ながら、身に着けることが出来るのはゲットした人のみだ。
セリスさんが腰から下の純白エプロンを付け、そこにポケットをくっつけた。
じょ、女子高生の、しかもハーフ美少女のエプロン姿……なんて神々しい。
「よ、よし。予備の盾と武器を入れたら、いつでも出発できるぞ」
「一気に脱出しますか?」
「いや、その辺りは地下24階層と、上の23階層を調べてからにしよう。もし各階層そのものが広大だったら……2週間分の食料でも足りなくなるかもしれない」
その時は23階の階段に、本物のダンボールに詰め込んだ食料だけを置いて店まで引き返すつもりだ。
一階層の攻略に掛かる日数を計算し、追加の食料を持って再出発する。
22階、21階と、階段に食料を置いては店に引き返し補充。それの繰り返しだ。
「まぁどのくらい広いのか分からないが、図鑑のマッピング機能があれば、二度目は道に迷うことなく一直線で目的地まで向かえる。生きてさえいれば、必ず地上に出られるよ」
そんな話をすると、二人の目から珍しく光る物が見えた。
初日以来、二人が涙するのはこれが二度目かもしれない。
これまで二人はずっと頑張って来た。
泣き叫ぶことも、不安をぶちまけることも無く……だけど二人はまだ学生なんだ。
冒険家になろうと思っていた訳じゃないだろう。そんな子が、よくここまで頑張ってくれたと思う。
「出発は予備の装備が出来てからだ。もう二日は掛かるだろうから、それまでは体力の温存をしよう」
「分かりました。でも……全然疲れてないんですよね、私」
「あぁ、セリスさん、それね――」
ここで彼女の『ラジオ体操』効果を説明した。
あの時あまりにも茫然とし過ぎて、彼女には見えていなかったようだ。
ラジオ体操をすれば、前日の疲れも取れる。
それがそのままの意味であったなら、彼女が疲れていないのも頷ける。
「これ……効果としてどうなんですか?」
「どうって、良いに決まってるよ! ダンジョン内で連泊なんて、精神的にも肉体的にも疲労して当たり前なんだ! その疲れがラジオ体操だけで取れるって、毎日100%のパワーで戦えるってことじゃないか!」
「なるほど……確かにそれはいいですね。僅かな疲れから生じる気のゆるみが、こういう所では死に直結するんだろうし」
その通り。
同じ意味で大戸島さんの『どこでも睡眠』も効果絶大だ。
そういうスキル、俺も欲しかった。
ま……。『順応力』のおかげで、精神的なプレッシャーとか疲れから解放されつつあるけどね!
慣れるって素晴らしい!!
二日掛けて鞭4本、アクリルシールド4つ、薙刀棒5本を用意。
それらを詰め込み、いざ出陣!!
予備のシールドはポケット内だが、メインは俺が持ち、敵を感知して近づいてから彼女らに渡す。
更にリュックを背負い、対ナメクジ用のスプレーを3本入れている。
塩で撃退するのもいいが料理にも使いたい。そこで見つけたのが園芸コーナーにある、ナメクジ駆除用スプレーだ。
試してみたが効果あった。
予備はポケットの中。
他にも害虫系モンスターが居ないとも限らないので、いくつかの薬品はポケットに入れてある。
「という訳だけど、出発は明後日にしようと思う。明日は俺もゆっくり休ませて貰おうと思ってね」
「浅蔵さん、ずっと頑張ってましたもんね」
「いっぱいお疲れ様です~」
二人はいいよね。
寝るだけ体操するだけで、疲れが吹き飛ぶんだからさ。
そんな訳で、いろいろ作ったりなんたりで目も疲れたから、明日は一日俺がゆっくり休ませて貰うことにした。
昼寝もさせて貰って、十分に疲れを取っておこう。
あぁ……どこでも安眠……そんなスキル、授からないかなぁ。
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