第50話
地面の揺れはそれほど大きなものではなかった。震度2か3弱ぐらいだろうか。
ただ揺れた時間は長く、たぶん1分近くはあっただろう。
隣のセリスさんの体を支え、揺れが収まってすぐ俺はある場所へ向かった。
「浅蔵、どうした!?」
「くっ……これか……これの事なのか!」
ステータス板に手を乗せ、そこに浮かび上がった文字を睨んだ。
「ステータス板がどうかしたの浅蔵?」
「翔太……これ、どう思う?」
芳樹と翔太がやって来て、俺のステータスを見た。芳樹は気づかなかったが、よく周囲を見ている翔太は気づいたようだ。
「浅蔵……なに、この『捕らわれのダンジョン人』って」
「は? 捕らわれ……あ、名前の横のこれか。え? こんなのあったっけ?」
芳樹が首を傾げ、自分もステータス板に触らせろと。
交代して芳樹が板に触れたが、名前の横にあったのは年齢だけ。
あ、レベル35になってんのか。すげーな芳樹。
「浅蔵、あの子たちにも付いてる?」
翔太の問いに俺は頷いた。
「俺たちがダンジョンから出れない事に、心当たりがあるとすればこれだけだ」
「捕らわれの……生成に巻き込まれた人に付く称号みたいなものかな」
「嫌な称号だな……くそっ」
どうやったら外に出れるようになるんだ……捕らわれの……俺たちを捕らえた奴を倒せばいいか?
いったい誰が俺たちを捕らえたって言うんだ!
「おじいちゃん痛い。痛いから~っ」
「我慢するんじゃ瑠璃。今出してやるからな!」
「痛いってばぁ、イタッ。ダメおじいちゃん! なんかおかしい。おかしいから……イヤアァァァァッ」
「る、瑠璃!?」
何があった!?
尋常ではない大戸島さんの悲鳴に駆け付けると、彼女の体から煙が!?
「ど、どうしたんです!?」
「おい瑠璃! じーさん、何しやがったんだ!?」
「な、何もしとらんっ。儂は……儂は瑠璃をここから出してやろうとっ」
「大戸島さんが瑠璃を抱えてここから出ようとしたと。でも瑠璃の体だけが壁みたいなのにぶつかってて……段々……パチパチしてた静電気の火花が大きくなっていったんばい」
火花が大きく?
「鳴海ぃ! 瑠璃の治癒をっ」
「は、はい先輩!」
木下さんと一緒に芳樹たちのパーティーに入った、後輩の鳴海さんは治癒魔法『ヒール』スキルを持っていた。
そのスキルですぐさま大戸島さんの怪我は回復したが、精神的なダメージまでは治らない。
彼女は怯えたようにおじいさん――会長から、そして出口からも離れた。
「瑠璃、すまん。……すまん」
「出れないの? 私たち、もう出れないのぉ?」
出たいけど出れない。無理に出ようとすれば静電気が襲って来る。
彼女の様子から、強引に突き抜けようとしたら体が焦げる程強力な電気が走るようだ。
体が焦げた部分の服が燃え、至る所に穴が開いている。
俺たち……このまま一生ダンジョンで暮らすことになるのか?
さっきのアナウンス。ダンジョン拡張っていったい。
9階で分かれたあの人たちは無事なのか?
分からないことだらけだ。
ここまで来て、こんな仕打ちってありかよ……。
「あぁ……まともな飯が食いてぇよ。柔らかい布団で眠りてぇ……水を気にせず温かい風呂に入りてぇ……それすら許されねーのかよ」
「私も……私も、お風呂入りたい。いつも使ってるシャンプーとコンディショナー使って、何度も何度も髪洗いたい。ドライヤーだって使いたいとっちゃ」
「電気のある生活がいいよぉ~。冷たいジュース、アイスクリーム、プリン、ケーキ……」
俺たちの日常は、もう……戻ってこないのか?
「よっしゃ。分かった! じーちゃんに全て任せておけ!!」
「「え?」」
「本当!?」
「可愛い瑠璃の為じゃ。儂はなんだってするぞ!! うおおぉぉぉぉぉっ!!」
か、会長……走ってどっかいっちまったぞ?
芳樹を見ると、苦笑いを浮かべこちらを見ていた。
「ま、なんとかするんじゃね? 金だけは有り余ってる人だからさ」
芳樹の言う通り、会長はなんとかしてしまった。
翌朝、電動工具の音で目が覚めた。
朝っぱらからなんて近所迷惑な――いや、ご近所なんて居ないだろ?
ガバっと目を覚ましテントを出る。
ステータス板の横に設置された2つのテントが、俺たち3人の仮の住まいだ。
そのテントの脇をわっせわっせと、大きな荷物を担いで地下――1階層へと降りて行く集団が。
「な、何をしているんですか?」
行き交う男たちのひとりに声を掛けると、安全ヘルメットを被ったひとりが白い歯を光らせ話してくれた。
「おう。兄ちゃんがダンジョンから出れねーって奴か。せっかく生きて戻ってこれたってのに、大変だなー。俺らは協会の会長に頼まれて、電気の配線を下に伸ばすため来てんだよ。他にも――」
他にも、階段下周辺にフェンスを張り巡らせる為の作業員や、仮設住宅を建てるための大工なんかが来ているのだとか。
仮設住宅の建設には一か月ほど掛かると言うが、一か月で家が建つって凄くないか?
「な、なにがあったんですか?」
「ふわぁ~ぁ。なぁにぃ~。朝から凄い音ぉ」
起きてきた二人も何が起きているのかサッパリといった様子だ。
今聞いた話を簡単に説明すると、セリスさんはもちろんだが、大戸島さんも流石に驚いた顔に。
「おぉ、瑠璃ぃぃぃっ。起きたかのぉ」
「お、おじいちゃん! 家建てるの!?」
「おぉおぉ。建てるとも。お前が不自由しないようにのぉ。ただ一か月掛かるったい。せやからの、その間は下に設置したテント暮らしになるんじゃがの。まぁちっと見に行かんか?」
大戸島さんは俺たちを振り向き、一緒に行こうと目で訴える。
テントはここにあるのに、また別に設営したってことか? しかも最弱とは言え、モンスターが生息するエリアに……。
会長に連れられ階段を下りて行った俺たちは、そこにあった物を見て驚愕した。
本格的なキャンプに使うような、何十万もするロッジタイプのテントが3つ、大小並んでいた。
「うわぁ~、こっちはお風呂があるぅ~」
「え? 本当!?」
ひと際大きなテントの中は、災害時に自衛隊が使っているような、湯気を立てた簡易風呂があった。
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