第66話

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


【ダンジョンで生まれた猫】

 ダンジョンで生まれた普通の猫。ただし成長速度は早く

 ダンジョンを出ない限り早死にする。

 猫が可愛いと思うなら、ダンジョン外で飼うべし。


∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


【ダンジョン猫】

 ダンジョンで生まれた猫の突然変異種。

 知能が高く、スキルの獲得も可能。

 骨格が違うため二足歩行も容易に出来る。


∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


 これは……どう解釈すればいいのだろうか。

 まさかモンスターに変異したりしないよな?

 あと普通の猫と言っても、成長速度10倍だもんな……猫って何年生きるんだろう。10年から15年ぐらい? まだ生きるか?

 どっちにしてもこのままじゃ2年も生きられないだろう。

 今はまだ生まれたてだ。目が開いてよちよち歩きになったら上に連れて行って貰わなきゃならないな。


「浅蔵さぁん、ご飯出来てますよぉ」

「あ、ごめん。すぐ行くよ」


 リビングのソファーから腰を上げ、テーブルへと着く。朝と夜はいつも3人揃ってからだ。


「今日はタケちゃん連れてどこまで降りる予定なんですかぁ?」

「んー。武くんのレベルも10になったし、次は……うぅん、11階から14階まで、全部オープンフィールドなんだよなぁ」


 11階はパチンコ店のある山。寒い。

 12階と14階は川岸にちょっとの森タイプ。

 13階は思いっきり森だ。

 正直この3タイプの狩場でのレベリングは、少人数だと厳しい。いや、俺やセリスさんは平気だけど。


「オープンフィールドだと四方を取り囲まれたりもあるからなぁ」

「15階に行きます? それだとマップ埋めもついでに出来るけん」

「あ、そうか。協会の依頼もこなしつつ、武くんのレベルアップも出来るか」

「でもでもぉ、15階ってボスが出るんですよねぇ?」

「うん。芳樹の話だと、ゴブリンのボスらしいね」


 見た目コミカルな、身長が2メートルのゴブリン。まるで着ぐるみのようだと言っていたな。

 まぁ出たら出たで、スキル獲得のチャンスでもある。俺たちは24階からの脱出の際には見れなかったから。


「大丈夫よ瑠璃。私と浅蔵さんが付いてるんだし」

「うん……」

「武くんのレベル上げも、そろそろ終わるころだろう」

「そうなんですか?」


 おっと。これ以上は内緒だ。まぁ大戸島さんも気づいてるだろうけどね。

 彼は冒険家になってダンジョン攻略がしたい訳ではない。もしかしてそういう気持ちもあるかもしれないけど、本音は大戸島さんを傍で守りたいだけなんだ。

 ただ現状だと数字の上では大戸島さんの方がレベルは上で、それが男として許せないのだろう。

 分かる。分かるよその気持ち!

 守ってあげたい子に守られるのカッコ悪いもんな。


 そんな事を考えていたら、さっそく熱血少年がやって来た。


「瑠璃ぃーっ。腹減ったぁ」

「もうっ。お家で食べてきてよぉ」

「えぇー。だって瑠璃の手料理食いたいもん」

「「ご馳走様でした」」


 俺とセリスさんは揃って食器を片付けた。そして勝手口から出てミケの様子を見る。


「ミケー。お腹空いてないと?」

「あ、俺がさっき猫缶あげた」

「えーっ。私の餌付け大作戦やったのにぃ」

「ふっふっふ。やはりそんな作戦だったか」


 だろうと思ったぜ。俺がミケにご飯をやろうとすると、さささっとセリスさんがやってきて「私がやります!」って嬉々としてたもんな。

 そしてまんまと餌付けされてるミケもミケだ。

 ご飯の注文は俺なんだからな、俺!


 さて、いったいどの子が『ダンジョン猫』なのか。

 そぉっと覗いてみたものの、今のところ3匹に差は無い。


「どうしたと?」

「ん、あー……これ」


 ダンジョン図鑑を呼び出しセリスさんに見せる。


「ダンジョン猫……え、スキルを覚えられると?」

「可能ってことで、絶対ではないってことだね。あと2~3日中にミケと子猫たちは上に連れていかなきゃならない」

「え? なんで?」


 俺はその前のページ、『ダンジョンで生まれた猫』の項目を見せた。

 そこにあった「ただし成長速度は早く、ダンジョンを出ない限り早死にする」という部分だけを声に出して読む。


「猫の寿命が20年あったとしても、この子たちはここで暮らす限り2年で老衰してしまうんだ」

「……そう……やったね」

「せっかく助けた命なんだ。上に連れて行って長生きして貰おう。里親っていうのかな、協会の人にネットで募集して貰おうよ」

「はい。そうですね」


 安全な地上で誰かに可愛がって貰おう。その方がいい。

 ただ……。


「ダンジョン猫がどの子か分かった時点で、その子は様子を見なきゃならない。モンスターに変異なんてことになったら大事だ」

「じゃあその子はここで?」

「その方がいいだろうね」


 俺がそう言うと、セリスさんはどことなく嬉しそうに目を細め子猫を見つめた。


「兄弟と離れ離れにはなってしまうだろうけど、それぞれが元気に育ってくれればいい。それでいい」

「うん。そうやね」

『ウゥー……』

「あ、こいつ! さっき猫缶貰った恩をもう忘れてるな」


 ミケが『そろそろ五月蠅いけん、あっちいけ』と唸るので、俺たちはリビングに戻った。


「そろそろ行くぞー」

「あ、もうちょっと。もうちょっと待ってっす」

「はい、お弁当だよー」


 大戸島さんの弁当を受け取り、俺の半畳ポケットへ。

 武くんが朝食を食べ終えたら15階へと出発だ。












 うにゃにゃ?

 にゃきにゅ……にゃき……にゃきる?

 にゃにょにょあ?

 にょーにゃい?

 にぇんき?


 うにゃ……にゃにゃ……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る