閑話
第157話:閑話
福岡02ダンジョンを出て三日目。
俺は今──も、福岡02ダンジョンで暮らしている。
何故か。
それはダンジョンを出た翌日のことだ……。
「はぁ、やっと帰って来た」
俺は元々住んでいたアパートへとやって来た。
昨日は報告だなんだので、結局ダンジョン上の支援協会プレハブ小屋に缶詰状態。
夜はいつものように自分の家で寝て、翌日も午前中が拉致され会議に。
午後になってようやくプライベートの時間を貰え、タクシー呼んで今ここ。
分かってはいたんだ。
最初にダンジョン生成に巻き込まれ地下一階まで戻る間に、俺は死んだものとされ葬式まで行われていたんだ。
アパートも既に引き払われ、趣味の品以外は大型ゴミとして持っていかれたことも聞いている。
やめときゃよかったんだ。
俺、なんでここに来たんだろう。
何カ月と帰ってきていなかったアパートだが、それでも自然と足は二階へと上がって手前から三つ目のドアの前で止まった。
ドアの横には【三田 正平】という文字が。
つまり俺に帰る家はなかった。
当たり前だ。葬式だって出ていたのだから。
それでもなんとなく帰ってしまったが、そのせいで俺は余計に凹んでいる。
だってセリスがいないんだよ!
家に帰っちゃったんだよ!
俺寂しい!
めちゃくちゃ寂しい!
『だからって化け野菜持ってくるのは、迷惑にゃよあさくにゃーっ』
『モケーッッヒョッヒョッヒョッヒョ』
『ゲラゲラゲラゲラ』
『うにゃあぁぁぁぁっ』
賑やかになった。
やっぱり寂しいときは化け野菜に限る。
福岡ダンジョン02の地下一階にある自宅には、俺と虎鉄、そしてミケと化け野菜たちが住んでいた。
食事に関しては、隣の食堂がいつも通り営業しているので困ることはない。
ただ大戸島さんはあれからやっぱり自宅へ戻り、それから学校のこととかもいろいろあって出勤してきてはいなかった。
セリスと大戸島さんは、学校どうするのかな。
カレンダーをふと見ると、今日でなんと3月!
あれ?
高校3年生って、3月1日が卒業式じゃなかったっけ?
「あの二人、卒業できるのかな」
『そつぎょー? なんにゃ、それ』
『ヒィーッヒッヒッヒ』
『黙るにゃ!』
『ぎょええぇぇっ』
「あぁ、虎鉄! なんてことするんだ。化け野菜が死んじゃうだろっ」
『全部収穫するにゃーっ』
「ああぁぁぁっ、静かになってしまう。止めろよぉ」
虎鉄は素早く収穫、そして俺を躱しながらプランターの周囲を飛び回った。
1分もしないうちに全ての化け野菜が滅せられる。
くそぉ。いいもん。明日になれば復活するし。
「そうだ虎鉄。お前も外に出れるようにはなったが、俺がいないときにひとりで出るんじゃないぞ」
『にゃ?』
「地上ではお前みたいに二足歩行で歩いて喋る猫なんていないんだから」
『にゃー』
にんまり笑う虎鉄は可愛いんだが、同時に大丈夫かという気にもなる。
そういえば……。
ダンジョン猫の成長は早い。いや、正確にはダンジョンにいる限り、成長が早い。
虎鉄を長生きさせるためには、外で暮らす方がいいんだろうな。
「虎鉄。お前、上の冒険家支援協会に行ってろ。あそこなら見知った人も多いし、可愛がられるだろう」
『うにゃ!? あさくにゃはあっしを捨てるのかにゃっ』
「ち、違う!」
突然潤んだ瞳で俺の足にしがみつく虎鉄。
そんなことするわけないだろ!
こんな……こんな萌え可愛い奴を捨てるなんて、誰ができるか!!
「だけどお前、ここにいる限りどんどん寿命が短くなっていくんだぞっ」
『じゅみょー?』
『んなぁ、うにゃ~お、うにゃうにゃ』
『にゃー。死ぬまでの時間のことにゃね。にゃんで短くなるにゃか?』
「いやだってお前、ダンジョン猫は成長速度10倍だろ」
そう話しつつ、ミケが「寿命」の意味を知っていたことに驚く。
かーちゃんは物知りだな。
当のダンジョン猫はというと──
首を傾げて耳をぴくぴくさせていた。
『あっしはダンジョン猫じゃないにゃよ』
「は? いや、ダンジョン猫だろ」
『ケットシーにゃよ』
「それは進化したから……ん?」
ケットシー。ダンジョンモンスターの一種だ。
日本では目撃情報はなく、だが各種物語やゲームに登場するモンスターは、大概ダンジョンに実在していることが多い。だからケットシーがいても驚かないだろう。
そういえば……。
ダンジョン猫のことは図鑑で知ったが、ケットシーは調べていない。
虎鉄のことはもう一度図鑑で見ているから、再確認するなんてことをまったく思ってもみなかった。
「ダンジョン図鑑──ケットシー、ケットシー……うぉい、なんで化け野菜のページに紛れてるんだよ! こんなの見つけにくいだろ」
見つけたページは虎鉄の可愛いイラスト付き。
ケットシーはダンジョンに生息する希少種のモンスター。
攻撃的ではなく、彼らから襲ってくることは少ない。
人語を介し、悪戯好き。
風・雷系のスキルを得意とする。
また時間操作系スキルの習得も可能。
ケットシーの成長は非常に緩やかで、その寿命は100年とも言われている。
だそうだ。
「お前……短命から一転、長寿になりやがったな」
『にゃー』
ドヤっとばかりに、虎鉄が目を細めてにんまりと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます