第61話

 武くんを帰らせた後、いつものように3人での夕食となった。


「浅蔵さん。ごめんなさい」

「ん? どうしたんだい、大戸島さん」

「……タケちゃんがいろいろ無理言ったでしょ?」

「いや、特に」


 3階に行きたいとは言ったが、付き合わないと言えば引き下がったし。その程度か。

 寧ろ弁当をほとんどひとりで食べ尽くされた方が困りものだったけどな。


「タケちゃん、自分が冒険家になって私を守るんだって前から言ってて……でも今は私の方がレベル高くなったもんだから……」

「まぁ男としては守りたい相手より弱いってのは、ちょっとどころじゃないぐらい凹むからねぇ」

「あ、浅蔵さんもそうなん!?」

「へ? いや、まぁ……そうかも?」


 セリスさんが急に声を上げるのでビックリしてしまったが……まぁ俺だって男だ。守りたいと思う子よりレベルが低いとなると、ちょっと凹むだろうなぁ。

 ぶつぶつひとりで言っているセリスさんを横目に、大戸島さんを見れば、こちらもぶつぶつ独り言を言っている。


 女の子って……大変だなぁ。


 食後は3人で今日の朝と昼の情報番組を見た。

 電波はここまで届かないので、支援協会員の人が録画してくれた物を夜に見るのだ。


「うぇ……鹿児島でもダンジョンが出来たのか」

「なんだかここ最近多くないですか?」

「ここ2ヶ月ぐらいで~、5つ以上出来てますよねぇ」


 福岡02ダンジョンを皮切りに、あちこちでダンジョンが出来ている。

 福岡の次に生成された大阪では生存者が発見され、長崎では捜索隊が出発したというニュースもある。

 これまでのダンジョンとどこか違う今回。


 生存者は存在しない。


 そう言われていたものが変わってしまった。

 そしてダンジョン内に建物が残っているというのも、これまでに無かったことだ。そのおかげで生存者が居るとも言えるんだが……。

 

 どうして突然こんな状況になったんだろうな……。

 ダンジョンなんて、どこのどいつが造っているんだか。

 十中八九、それが神だかなんだかってのは分かるんだけど。分かってもどうにも信じたくないという気持ちがある。

 まぁダンジョンがこの世界に現れた時点で、神様なんて信じられませーんなんて言えないんだけどさ。


「そういうの、図鑑にでも書いててくれればいいのになぁ」

「図鑑に? 何をですか?」

「あ、うん。ダンジョンを造ったのが誰かとかさ」

「あぁ。神様説が有力ですよね。私は宇宙人説も有だと思うけど」


 セリスさんはそっち派か。


「そういえば。図鑑の中表紙をマスキングしてますけど、あれから確認したことってあると?」

「あ、いや。剥ぐと俺じゃあ元に戻せないから。そういや図鑑のレベルも随分上がってるハズだ。追加要素とかあるだろうけど」

「確認する? 後でちゃんと元に戻しておくけん」

「そうだな。頼むよ」


 取り出した図鑑の表紙を捲って、セリスさんが綺麗にコーティングしてくれたマスキングテープを剥がす。

 図鑑は決して破損しない――ので、強引に引きはがしても破れることは無い。


 お、図鑑レベルが8まで上がってるじゃないか。

 拡張された機能は――と。



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・DBP交換で出来ること。

・・ボスモンスターを除く、通常モンスターの取り出し。*2  (Lv1)

・・地図のコピー機能追加。 (Lv2)

・・アイテムのコピー機能追加(超劣化版) (Lv3)

・・マッピング範囲の拡張。 (Lv4)

・・図鑑の詳細説明・低。 (Lv5)

・・地図上の任意の場所への転送機能追加。 (Lv7)

・・?????

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽



 んん? んんん?

 マッピング機能の拡張? 俺を中心にマッピング表示される範囲が広がるってことか。

 確認するためには、まだ歩いてない場所に行かなきゃならないか。

 詳細説明ってなんだろうな。もしかしてこの……今まで無かったレベル表記か?

 びみょ~。

 しかしこれ見ると、レベル5までは何かしら追加されているのに、レベル6では何も貰えてない。そしてレベル8でもだ。

 追加機能も無限って訳じゃないのかな。


 気になるのは転送機能だな。これ、好きな場所に行けるってことじゃないか?

 もしそうだとしたら……。


「浅蔵さん。この転送機能って」

「試して見なきゃわからないな。ダンジョンで取れるスキルの中にもね、『階層転移』っていうのがあるんだ。俺は見たことないけど、かなりレアスキルの類らしい」


 一度足を踏み入れたことのある階層であれば、自由に移動が可能になるスキルだ。ただし転移出来るのは階段下。それ以外の場所には行けない。

 しかも一度使うと精神力の消耗が激しく、使った本人は暫く休まなきゃならないという弊害もある。

 図鑑のこれがどんなものなのか……。


「試してみるか。念のため食料も持って万全を期して行こう」

「わ、私も行くけん、ちょっと待ってっ」

「私はお留守番~。明日までに帰って来れなかったらぁ、食堂の仕込み間に合わないし~」


 セリスさんは着替えてくるのだろう。俺はこのままでいいや。

 本格的に冒険家復帰するなら、防具とかも買っておいた方が良いよなぁ。


「あ、浅蔵さん。すぐ出発するん?」

「え? どうしたの」

「シャ、シャワー、浴びて来てもいい?」


 もじもじと壁の横から顔を出すセリスさんが、ちょっと可愛い。いやいつも可愛いんだけどさ。


「いいよ。バスの時間を気にするようなもんじゃないし」

「じゃあぁ、その間に夜食作ってあげるね~」

「お。楽しみだなぁ。でも軽いもので頼むよ」

「おっけ~」


 2人がそれぞれパタパタと駆けて行くと、俺も一度家を出た。

 防具を買うにしても、俺は地上には出られない。売っている店は当たり前だが地上にある。

 ということで、協会員の人に頼むしかない。


 ダンジョン内から地上の支援協会施設までの連絡手段は二つ。


 1:誰かに頼んで連れて来て貰う。

 2:ダンジョン出入口に置いてある拡声器を使う。


 俺は2を実行するべく地上へと続く階段を上って行った。偶には外の空気も吸いたいからな。

 出れはしないが外の景色は少しだけ見えるし、空気も吸える。

 そして吸い込んだ息と共に、


『浅蔵です。聞こえますか?』


 と、置いてある拡声器を使って呼びかけた。

 直ぐに返事が返って来る。


『はーい。協会スタッフの三森と申します。どうされましたかー?』


 あちらも同じく拡声器で返事を返してきた。

 防具を購入したいが、どうすればいいか相談したい旨を伝えると、返事のあった三森という女性がこちらに来るらしい。

 待っていると、俺と同年代のメガネをかけた女性がやって来た。


「装備を買いたいということでしたね」

「防具だけでいいんです。武器は自前の物がありますので」

「武器だけお持ちなんですか?」

「えぇ。自分で作れますので」


 きょとんとした顔で三森さんが俺も見る。

 ワイヤー、皮、ステンレスの棒。あとはボンドやビニールテープなんかがあれば簡単に作れると話すと、彼女は更に首を傾げた。


「何を武器にしているんです?」


 来た! だいたいこういう質問来るんだよ。でも久々だなぁ、これ。

 冒険家始めた頃は協会員の人やほかの冒険家からも良く質問されたもんだ。

 そして俺は嬉々としてこう答える。


「鞭です!」


 と。


 ・ ・ ・。


 流れる沈黙。

 毎度そうなんだ。なんで場の空気が重くなるんだよ!

 かのインディー・ジョーンズだって愛用した鞭だぞ!

 いや、彼はそれ以外にも銃を使っていたけれど。

 俺も銃を使うべきかなぁ。でも右手に鞭持って、左手で図鑑持って……銃はどこのポジションになるんだ?


「え、えぇっと、防具ですね。早急……ですか?」

「いえ、もう夜ですし、店だって閉まっているはずでしょう。特にいつまでという訳ではなく、それ以前にどうやって防具を買おうかと。そっちの相談がしたくて」

「そうですか。最近ではネットで商品一覧を見ることが出来るんです。ここではネットが使えませんが、一覧をDLしてUSBメモリに保存して持ってきますよ」

「あ、それは有難い。じゃあお願いしていいですか? 軽装だけでいいので」


 直ぐにDLして来てくれるというのでこのまま待つことに。

 戻って来た三森さんからUSBメモリを受け取り、購入までの流れを話し合った。


「売れた物はリアルタイムで一覧から消えていくんですが、浅蔵さんはリアルタイムで観覧できませんので、売り切れている事を考えてください」

「そうですね。じゃあ欲しいものがあれば、希望順位をつけていくつか選んでおきます」

「その方がいいでしょう。スタッフの引継ぎの際に伝えておきますので、欲しいものが見つかったら誰でもいいので捕まえてください」

「はい。お手数をお掛けして申し訳ないですが、よろしくお願いします」


 三森さんはにっこり微笑みながら建物へと戻って行った。

 セリスさんも冒険家をやるというなら、彼女の装備も揃えてあげなきゃな。

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