第116話

「そうか。バッチリ使えたか。いやぁよかった。ダメなら別の手を考えなきゃならないなと思っていたんだ」


 昼の一時過ぎ。上から下りて来た小畑さんが、俺たちの報告を聞いて喜んだ。

 別の手というのは、昔、オリンピック競技にもあったカーリングという氷上スポーツで履く靴。それを用意しようかと考えたらしい。

 だが今ではオリンピックなんか開催されてないし、九州ではウィンタースポーツはそもそも出来る場所も少なく、こんな時代になったので数少ない施設もほとんど営業してないっていう。

 つまりはカーリングシューズなんて九州では手に入らない――いちから作るしかない、と。


 小畑さんは直ぐにレンタル用の告知ポスターの作成に、地上へと戻っていった。

 俺たちは二十四階のホームセンターへと行き、スチールラックの準備をする。


「これを入れるのに、何を使おうか」

「引き出し付きのケースでいいんじゃないですか? 特にサイズはないですし、まとめて入れてもいいと思うけん。あの階は少し寒いけん、カイロとかもあるといいばいね」


 じゃあその辺も置いておくか。靴下なんかもあるといいだろう。

 ただし靴下はレンタルしない。

 誰が好き好んで他人が履いた靴下なんて使うかよ。


 そんなわけで靴下は持ち帰ってもらうため、量を用意しなきゃな。

 そのあたりは小畑さんに頼んで準備してもらうことにした。


 24階に戻ってスチールラックと引き出し収納ケースをセリスさんのポケットに詰め込み、まずは35階へ。

 上り階段にスチールラックを設置して、ラミネート加工されたポスターを貼り付ける。

 収納ケースに滑り止め、カイロ、靴下をそれぞれ別々のケースに入れて設置。





「誤算だった」

「何がなん?」

「下りの階段、まだ見つけてないんだった」

「……そういえば、そうたいね」


 返却用のケースや、それを置くスチールラックも持ってきたが、まだ設置できないんだった。

 仕方ないので夕方までマッピングをし、残りは明日だ。


 そして翌日になると、小畑さんが朝一でやって来た。

 靴下と、それに手袋まで用意してある。ちゃんと男性用、女性用とがあって、色柄もいくつか用意されていた。

 ただ全部指ぬきなのは、戦闘時のことを考えてだろうな。


「虎鉄の分はこれでいいかな?」

『にゃにゃっ!』


 小畑さんが手に持っていたのは、小さな毛糸の靴下。

 乳幼児用のもので、3サイズぐらい用意してきてくれていた。

 ちょうど中間サイズのものがピッタリで、虎鉄は気に入ったようだ。


「毛糸なら爪が出ても、生地を破いたりしないだろうからね」

「あぁ、なるほど。ありがとうございます小畑さん。虎鉄もお礼言うんだぞ」

『にゃー。うれしいにゃおばたにゃん。ありがとうにゃ~』


 そう言って虎鉄は小畑さんの足に頭をこすりつけ、のどを鳴らす。

 そんな風に言われたら、誰だって鼻の下のばしてデレるよな。

 うん、気持ちはわかるよ小畑さん。


「よし。じゃあ持って行くか」

「はい。瑠璃からお弁当、貰ってくるけん待っとって」

『にゃー。あっしのも~』


 今日中に36階への階段を見つけるぞ!

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