第202話:福岡01ダンジョンの終わり
[無理はせず、疲れた者は後方に下がって休息を取れ!]
[まだまだ先は長い。優先すべきは自分と仲間の命だぞ]
スタンピードが始まって五時間以上は経過している。
ボスの攻略は朝一から行われたが、もう昼を過ぎていた。
最前線にメインで立つのは、中堅の冒険家たち。
彼らの食事休憩のために、下位と上位冒険家も混ざっている。
俺は相変わらず分身をあちこちに行かせて、サポート要員として走り回っていた。
この一年チョイで分身の数は20人になって、芳樹たちには「ホラーだ」とか言われている。
俺も怖い。
「規模が大きいだけあって、宇佐のときよりモンスターが多いばい」
「あぁ、そうだな。でもそれを見越して準備してきたんだ。各県からも応援が来てくれてるし」
宇佐ではざっと800人ほどの冒険家が集まった。
今回はそれを遥かに超える1500人だ。
もちろん、大規模ダンジョンのスタンピードがどんなものか調べるという目的もあるだろう。
なんと今回、大阪から知らせを聞いた東京の冒険家も来ているという。
線路も道路もぐちゃぐちゃで、東京から福岡まで、車と徒歩で一週間もかかったそうだ。
ひえぇ。
・
・
・
[イフリート確認! レベル60以下は下がれっ]
[水、氷系付与をばら撒け!]
辺りが薄暗くなり始める時刻。
ダンジョンの入り口がやたら明るく――いや、赤く光るのが見えた。
最下層表ボス、炎の大精霊イフリート……。
それが五体だ。
「木下さん、お願いします」
「はーい」
『うにゃ、うにゃ。あっしもぉ』
木下さんの氷付与は、イフリートに効果がある。
セリスも、それに虎鉄だって付与して貰っている。
なのに俺は付与なし。
「図鑑が付与受け付けないとか……じゃ鞭に!」
「浅蔵さん、ダメ。こんな乱戦状況で鞭とか、他の人に当たるばい」
「うああぁぁ。俺の、俺のロマンがあぁぁぁ」
「ロマンより大事なものがあると。ほら、行くばい。イフリートからスキル貰いたいんやろ」
そう。最下層攻略でイフリートのHPを削るメンバーとして、俺たちも参加した。
木下さんの氷付与があるから、攻略メンバーに選ばれたんだ。
けど止めを刺すのは他のパーティーだ。
必然的にスキルを貰えるチャンスはそのパーティーだけになる。
俺たちは最前線に躍り出て、イフリート戦を開始した。
とはいえ、横殴りなんてそんなの関係ねぇな状態だ。
うまく止めを刺せるかは運次第になてるなぁ。
ま、一番の目的はスタンピードで出てくるモンスターの殲滅だ。
横取りするなとか、そんなことも言っていられない。
ここまで来るのにかなりの冒険家、そして自衛隊員が負傷している。
死者は……分からない。
宇佐では皆無だったけど、正直、ダンジョンから溢れ出てくるモンスターの数を見たらゼロなんて無理ゲーだろって思わなくもなかった。
腹の立つことに、スタンピードが始めるとダンジョン入口がサイズアップしたしな。
ダンジョン神も人類の数を減らすのに必死ってことか。
範囲攻撃をしてくるイフリートが五体。しかもこの時点では地下100階層のモンスターもうじゃうじゃしている。
一番の激戦タイムだろこれ。
イフリート一体仕留めたいのに、範囲をぶっ放してくるから同時に数体相手にしているようなものだ。
そこに他モブも加わるからカオス状態。
負傷者も続出。
けど
ここを乗り切って
裏ボス倒して
そうしたら
そうしたら戻って来るんだ
俺の――俺たちの――町が。
俺と芳樹が住んでいたマンションも
あの日、自宅にいた……父さん、母さん、姉ちゃん……。
戻って来るんだ
戻って
「だから邪魔すんなあぁぁっ」
ちょっとくらい火傷したっていい。
ダンジョン図鑑片手にイフリートへと特攻。
放たれる火炎は図鑑で叩き落とし、そのまま振りかざして――――
【福岡ダンジョン真なる最下層ボスモンスターを討伐したよ】
【討伐完了ボーナスとして『火球』スキルを獲得したよ】
「倒した! 次っ」
「あと雑魚しか残っとらんばい」
「殲滅して裏ボス炙りだすぞっ」
「浅蔵さん、休憩せんとっ。もうずっと戦いっぱなしばい」
「あと少しなんだ。あとっ」
あと少しで日常が戻って来るんだ。
あの日、失った日常が――
【ああぁあぁ。もうやんなっちゃうね。スタンピードが終了したよ】
【これにより、福岡01ダンジョンが消滅するよ】
【該当地区にいる人間は退避しないと、建物と
【カウント開始――900――899――898――】
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