第187話:結論

 結論で言うと──出来なかった。

 上田さんが『追撃』を甲斐斗に掛けた後、俺がさらに『追撃』しようとすると、脳内にあの声が響く。


【同種スキルの重ね掛けは出来ないよ。残念だったね】


 ──と。

 これが自動アナウンスなのか、奴がここを見ていて直接話しかけているのかは分からない。

 だがムカつく。


「くっそー、ダメか」

「んー、浅蔵さん。だったら甲斐斗さんの攻撃が終わった後に『追撃』をかけるとかは?」

「それならできるかも?」


 で、やってみた。

 上田さんが甲斐斗に『追撃』をかけ、甲斐斗は攻撃。

 そのすぐあとに『追撃』をかける。


 お、入った!


「へぇ~。じゃあさ、浅蔵の分身も使ってやれば、連続ダブル攻撃が出来るんじゃない?」

「お、翔太頭いいじゃん」

「あー、だったらさ。俺にかけてくれないか?」


 そう言って春雄が手を上げた。

 弓使いの春雄はオープンフィールドタイプのダンジョンでは強い。

 ただ迷宮構造だと弓がいまいちな時もある。狭い所だと味方を射抜く可能性もあるからなぁ。


「50階、行かないか?」


 うじゃうじゃなモンスターハウス状態の50階か。

 なるほど。春雄のスキルに『ライトアロー・シャワー』という範囲攻撃があったな。

 一本の矢を放つと、スキルレベル×2倍の光りの矢を放てる仕様だ。


「春雄、今アレのレベルいくつなんだ?」

「やっと14さ」

「あのスキル取ったのって、18の頃だろ? 俺がまだいた」

「そ。5年でやっとだぜ」


 それだけ弓って使う機会が少ないんだよ……しかも甲斐斗がいたしな。






 春雄のご希望通り、地下50階の最下層へ全員で図鑑ワープ。

 なんていうか、おしくらまんじゅう状態でぎゅ-ぎゅーになりながら俺は掴まれていた。


「よし、じゃあ"分身"」

「なら俺が敵を集めてこよう。芳樹、甲斐斗、木下。一応念のため付いて来てくれ。鳴海、防御スキル頼む」

「分かりました省吾先輩。"ディフェンス"」


 その場にいる全員に鳴海の防御スキルが付与された。

 省吾たちがフィールドに出て行って、周辺の恐竜とか蛇とか地獄の犬とかをかき集めてくる。


「分身は一列に並んでおこうか」

『そうだな。ダブってかけても無意味だし』


 と、分身俺が一列に並んで待機。

 絶対シュールだよこの光景。

 鳴海とか視線合わせようとしてないだろ絶対。


 あ、省吾たちが20匹ぐらい連れて戻って来た。


「上田さん、よろしく」

「はい。"追撃"」

「"コピー"」


 春雄が矢を番え、放つ。

 1本+28本の光りの矢が飛んでいく。この光の矢は実態がなく、味方に触れてもダメージを与えない。

 与えられるのはモンスター相手にだけ。


「次行くぞ春雄」

「おうよ」

「"追撃"」

『"コピー"』


 そして春雄が第二射を放つ。更に分身の『追撃』と『コピー』の声が交互に聞こえ……

 第三射でモンスターは全滅した。


「おぉ……こ、これいいなぁ」


 きらっきらした目で、春雄は上田さんと俺を見た。

 何かの快楽を覚えたような、そんな感じだ。


 それから暫く、宇佐の報告があるまで俺たちは、春雄の俺tueeeに付き合うことになる。


 が、これがのちに功を奏するとは、今の俺たちに知る由は無かった。


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*21日、22日の土日も、お昼12時頃、夜20時頃の

1日2回更新します。

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