第36話

 人参玉ねぎ大根。この三つが植えられていたプランターに、種を少量ずつ撒く。

 どうせならと売り場から同じタイプのプランターをかき集め、野菜の土を注ぎ込んで種を撒いて行く。


「あとは水?」

「液体肥料とかあった方がいいんじゃないですか?」

「んーとねぇ、種の袋に書いてあるのは~」


 種まきの時期。発芽に適した温度。


 うん。ダンジョン内でそれ言われても、無理ってもんだ。


「まぁ……液体肥料ぶっさして、あとは様子見するしかないね」

「出来るといいですね~」

「人参玉ねぎじゃがいも……缶詰の牛肉入れればカレーになりませんか!」

「手作りカレー!?」


 レトルトも美味しい。なんせお中元になるぐらいのヤツだからね。

 でも、家庭の味ってのもいい。


「そうなると、スーパーからカレーのルーを持って来なかったのが悔しまれる」

「この分だと他にもお店とかどこかにないかなーって思うんやけど」


 あるかもしれないけど、ルーの為に探す?


 探したい!


「ルー、ありましたよ~」

「「へ?」」


 ちょっと真剣に周囲だけでも自転車で探してみようかと思ったそんな矢先。

 大戸島さんが手に長方形の箱を持って駆けてきた。

 その手には某メーカーのルーだった。


「BBQコーナーにありましたよ~」


 肉と同時に定番なのはカレーライス。これが日本のBBQの素晴らしいところだ!


 翌朝。根菜類以外は見事に実って収穫出来る状態だったが、正直オクラ以外は既にある。セリスさんのポケット内で実ってる。化け野菜化もしている。

 あ、化け野菜収穫しなきゃな。チョッキンっと。


『ギャアアアァアァァァッ』






 昼までにホームセンターを中心にした周辺を探索。

 結果としてはこの店以外の店舗は一切なく、そして気づいたのは家々だ。


「似たような景色が続くなと思ったけど、家のデザインがパターン化してるんだな」

「そうですね。10パターンぐらいかな?」


 パターン1から10が順番に並び、10の次はまた1に戻る。向かい合う家が同一デザインにならないよう並んでいるだけで、数軒先にはまったく同じ家が建っているという状況だ。

 家だけじゃなく植木の本数も種類もまったく同じだ。

 ダンジョンを誰が造っているのか分からないが、手抜きし過ぎだろ。


 地図を少し埋めてホームセンターへ戻ると、根菜類の葉が伸びていた。

 流石発育速度10倍。明日には食べられそうだ。

 だがふとここで大事な事を思い出す。


 いつまでここに居る?

 表を徘徊するゾンビは比較的少ない。100メートルごとに1体ぐらいだろうか。

 まぁ建物内に数体ずつ入っているから、全体の分布としては少なくないんだけどな。

 そしてアラームにちょっかい出さない限り囲まれる心配も無さそうだ。

 それを考えるとここで救助を待つということも出来る。ここにも食料は十分あるから。


 でも――ここは19階だ。上に行けば行くほど、モンスターは弱くなる。

 確実に地上に近づいているんだ。ここで気を抜いたりしなければ大丈夫。俺たちは生きて脱出できる。


「明日、根菜類を収穫したら18階を目指そう」

「はいっ」

「じゃあカレーはお預けですか~?」

「え……それは……」


 それはちょっと……。でもカッコつけた手前、カレーを食べてから何て言えない。


「はいはい。じゃあ明日のお昼はここでカレーやね。昼から出発して、地図を埋めながら戻ってくることも視野に入れておくばい」


 セリスさんがやれやれと言った顔でそう言ってくれた。

 やったね! 明日はカレーパーティーだ!!


 そして当日。

 セリスさんと大戸島さんが朝からカレー作りを開始した。


「ねぇ~? ピーラー使えば、野菜の皮むきも簡単でしょ~?」

「そ、そうね」

「これで~、いつでも手料理を食べさせて上げられるねぇ」

「べ、べべべつにそんな男の人、居ないわよっ」

「えぇ? 私は『男の人』なんて一言も言ってないよぉ~」

「はうっ!?」


 楽しそうだなぁ女の子たちは。


 特にすることも無い俺は、工具コーナーでチェーンソーの替刃を物色。

 使えそうなものはごっそり集めてセリスさんのポケットダンボールに詰め込む。根菜類のプランターは俺のに。トマトピーマンパプリカは大戸島さんのに。キュウリとナスはセリスさんのに入れる。

 着替えも新しい物をここから拝借し、荷物の整理も終わってしまった。


 やる事なくなったな~と思った頃、懐かしい匂いが漂って来た。

 この香り……何年ぶりだろうか。

 もうかれこれ10年ぶりなんだろうな。


 父さんが居て、母さんが居て、姉が居て……当たり前の日常が消える前日、家族揃って食べた最後の晩餐も、カレーライスだったな。


 きっと帰る。俺たちは――。


「浅蔵さん。カレー、出来ましたよ」

「お、待ってました!」

「浅蔵さんの為に、甘口オンリーで作りましたよ~」

「おい、俺を子供扱いするなって!」






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1章の完結です。

次のお話から2章となります。

実はちょっとキリの悪いところなのですが、長くなりすぎるために途中でぶった切ってしまいました^^;

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