第35話

 裏手にある従業員用通用口……開いてなかった。

 24階の西区ホームセンターは開いてたんだよなぁ。まぁ直前に逃げるようにして出て行った車が、あそこの従業員だったんだろうし。慌てて逃げたから鍵を閉め忘れたんだろう。

 こっちの店はまだ従業員が出勤してなかったか、ちゃんと戸締りして逃げたかだな。


 さて、どうやって中に入るか。


 ふ。こんな時こそ電動ドリル!

 ドアノブに無理やり穴をあけ、電ノコで更にゴリゴリゴリ。


「警報器~、鳴りませんかねぇ?」

「警備会社がここまで来てくれるなら、寧ろ救助してくれって感じだね」

「来てくれます?」


 来てくれません!

 そもそも電気通ってないんだし、警報機が鳴ることなんて……と思いつつ、ビク付きながらドアを開けた。


 ・ ・ ・。


 よ、よし。鳴らないぞ。

 ほっと胸を撫でおろして中へと入るが、やはり真っ暗だ。

 セリスさんのポケットを広げ懐中電灯を取り出すと、今度は売り場でもライトを探した。


「ありました~」

「ランタンタイプの方が使い勝手いいですよね」

「そうだね。あとは乾電池か」


 スーパーでもホームセンターでも、レジに行けば乾電池を見つけられる。

 片っ端から持って行って、バックヤードへ。


 在庫の配置は違うけれど、やっぱり落ち着くなぁ。

 ビニールの掛かったソファーに腰を下ろし、荷物の中からカセットコンロを取り出してお湯を沸かす。

 紙コップを3枚重ね入れたのはもちろんココア。


「はぁ~、美味しい」

『ニョッホー』

「浅蔵さん、おじいちゃんみたい~」

「でも飲んでるのはココアやもんね。お子様たい」

「ココア美味しいじゃんか!」

『キヒーっ』

「お前らも五月蠅いよ!」


 店の表に置かれたままのプランターでは、立派に成長した化け野菜たちが実っていた。そのプランターを店内に運んできたが、とにかく五月蠅い。

 トマト、ナス、キュウリ、ピーマン、パプリカ。これに加え大根や人参、玉ねぎ、じゃがいも、オクラなんてのもある。

 その全部が化け野菜化しているが、まぁ仕方ないか。誰も収穫してくれないのだから。


「大丈夫だ。俺がお前たちを収穫してやるからな」


 そう語ると、化け野菜たちが一瞬静まり返る。

 感動してくれているのか?


『モキャ~』『ギヒヒヒッ』『ニョニョーン』『ブヘヘヘ』


 そんな訳はなかった。

 剪定鋏でチョッキンしてまわると、断末魔を上げボム化していく野菜たち。

 仲間が収穫されていく姿を、ある野菜は笑いながら、ある野菜はガクブル震えながら見る。そんな野菜を見ながら、俺は構わずチョッキンしていった。


「ふぅ……大量のボムが手に入ったな」


 ビニール袋に種類ごと分けて入れ、縮んだボムたちを手に取り眺める。


「お、終わりましたか?」

「悲鳴が凄くて、夢に出てきそうです~」

「そうか? 切り取る瞬間、ギャーって叫ぶ野菜をバッサリするって、ちょっと快感だけどな」


 あれ? なんで二人とも下がってんの?


「浅蔵さん、順応力スキルのせいで、快楽殺人者にならないか心配ばい」

「快楽感じるのは化け野菜ちゃんたちだけにしてくださいね~」

「いやいや、そこは悲鳴に対して慣れたぐらいに留めておいてよ」

「「いやぁ~ん」」


 なんだよ……可愛い声だして。お兄さんドキムネしちゃうだろ。






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     【ゾンビ】

 動きは遅いが力が強く、攻撃方法は引っかく、噛みつくといったもの。

 ひたすら生者を求め彷徨う。

 噛みつかれてもゾンビにはならない。

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 ほっ。噛みつかれてもゾンビ化しないと書かれているな。

 でもこの分だと俺が知っているゾンビと同じかもしれない。呪いに関する記述がないのは、それを見ていないからだろう。


 19階のモンスター情報はもう一つ。



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     【アラーム】

 人の姿をしており、生者が近づくと大声を発してゾンビを集める。

 アラーム自体に攻撃本能は無い。

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 あの人形……。やっぱり罠だったか。

 この階を突破する鍵は、アラームに遭遇しないことだな。遭遇しても決して近づくなってことだ。


 それから新しく加わったボムの確認もする。


 玉ねぎは目に染みる汁を散布。うん。ボムじゃなくってもしみるから。

 人参は投げた瞬間、輪切りにされてヒュンヒュン飛ぶようだ。あとで試してみよう。

 じゃがいもはそのまま爆弾になるだけのようだ。

 オクラはピーマンやパプリカ同様、種ミサイルか。威力が同じぐらいなら結構使えるぞ。

 

 そして謎なのは大根だ。


「桂剥き? 薄く剥くあれか?」


 桂剥きで敵を締め上げる。そう書かれているのだが、意味が分からない。これも要検証だな。


「わっ。もう花が出てますよ!」

「え?」


 収穫したばかりのプランターには、あちこち花が咲いている。

 化け野菜のあと実るのは、ダンジョン野菜だ。最初から化けて成るわけじゃない。

 こりゃ今から野菜炒めが楽しみだぞ。


「あぁん。でも根菜類は種がないとダメみたいです~」

「えぇ!? そ、そんなぁ……いや、無いなら植えればいい!」

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