第102話

 翌朝、再び29階へ行くため上田さんの下へと向かった。

 今度は虎鉄も一緒だ。


 朝の8時過ぎ。食堂横に上田さんの姿は――無かった。

 うん、この時間、一番忙しいだろうしね。


「少し待とうか」

「はい」

『にゃー』


 待つ間に昨日の上田さんとの話を振り返る。


――「私、応援スキルのレベルが4になったんです!」


 上田さんはそう言ってはしゃいでいた。

 転送依頼の客に毎回応援していると、思いのほか上りが早かったらしい。

 レベルが上がって効果がどうなったのか――


「効果時間は10分から30分に伸びました!」

「おぉ。実用的になってきたなぁ。あれ? でもレベル4で30分?」

「はい。実はレベル4になった時、期待してステータス板見たんですけど」


 残念ながらレベル4では一切の変更は無し。

 レベル×10分が効果時間なら、レベル6で1時間――なんて上手くはいかないってことか。


「常連さんの話だと、応援効果入っている間は体が軽くて、あの砂漠でも楽に移動出来るって言ってたんです」

「砂漠……足が捕られて歩きにくかった所だな。確かにあそこが楽に歩けるなら、岩場でも――」

「はい。だから是非、私に応援させてください! レベルアップにご協力ください!!」

「ははは。そっちが本命だな」

「バレた?」


 でもそれは大いに助かる。たとえ最初の30分でも、その間に移動出来る範囲を稼げばいい。

 俺にはピンポイント転送があるからな。出来れば効果が切れるたびに掛け直ししたいぐらいだが。さすがにそれだと図鑑の仕様がバレてしま――


「浅蔵さんたちは、効果が切れたらそのタイミングで戻って来れますよね?」

「え……」


 上田さんは辺りをキョロキョロとし、周囲に人が居ないのを確認してからそっと囁く。

 まさか……気づかれてる?


「私、いつもここで二人を見送っていたから、なんとなく分かるんです」


 にっこり微笑んだ上田さんは「誰にも話しませんよ」と言ってくれた。

 だって――


「他の人に知られたら、私の商売あがったりですもん! それでなくても最近、同業者が来ちゃってお客が分散してるんですからぁ」

「あー、うん。俺も中学の頃からの友人以外には喋ってないし、そいつらも口留めしてるから。上田さんの客を横取りしたりしないよ」

「お願いしますよ~。その友人っていうのも、これ以上増やさないでくださいね」

「うん、約束する」


 と、回想終わり。

 そんな訳で、これからは上田さんの応援を貰って図鑑転送。効果が切れれば一階に戻って来て応援をまた貰う。

 そんな感じで進んでいくことになった。

 彼女のスキルが高くなり、効果時間が延びればこちらも助かる。


「ごめ~ん。お待たせしちゃって」

「佳奈さんおは~」


 佳奈さん?

 あぁ、上田さんのことか。

 ほんと、いつの間にかセリスさんと上田さん、仲良しになってるよなぁ。


「上田さんお疲れ。この時間は忙しいだろうに、大丈夫?」

「はい。応援するだけですから。じゃあ、準備はいいですか?」

「待った。ここだと人に見られるとちょっと……家の裏に来て貰っていい?」


 家の裏手、ラティスのあるところでこそこそすることに。


 まずは俺が図鑑を開き、転送したい場所を確認。

 セリスさんが俺の服を掴み、虎鉄は頭によじ登ってくる。


「じゃあお願いします」

「はい。それじゃあ、浅蔵さんとセリスさん、虎鉄ちゃん――『頑張って』」


 頑張って――そう言われた瞬間、体がぽぉっと暖かくなる。


「はいっ。効果付きましたよ! 早く、早く転送!!」

「あ、うん。行って来ます」

「佳奈さん行ってきますっ」

『にゃー、お土産はおさk――』


 あ、虎鉄が最後まで言い終える前に転送しちゃったよ。

 29階の岩の上で、虎鉄は『――かなにゃよー』と元気よく声を上げていた。






「上田さん! 応援、本当にいいよアレ」

「うんうん。歩きにくかった岩も、体が軽くなったからか凄く歩きやすいばい」

「本当? よかった~。でも実際に体は軽くなってないからねセリスちゃん」

「うっ……」


 体重の事?

 いや、言うまい。


 ステータスがALL+ワンランクアップされる応援。

 体が軽くなった――ではなく、身体能力がアップしたせいで、そう感じるだけだろう。

 身体能力が向上したことで、足場の悪い場所でのバランス感覚が良くなった……と見るべきかな。

 なので注意して歩くことは心がけておかなければならない。


 ただ今回――最も戦力になっているのは虎鉄だ。

 そもそも猫はバランス感覚が優れている生き物……だと思うし、岩場もなんのその。

 あと飛んでくる魚に対する執着心か、確実に一撃で叩き落としている。

 

 地図を見ればこの30分で、昨日の午後と同じぐらいの範囲が表示されていた。

 早いタイミングで階段が見つかればいいなぁ。


「じゃあ二回目のトライ!」

「はい。浅蔵さん、セリスちゃん、虎鉄ちゃん――『頑張って』」

「頑張ります」

「行って来ます」

『にゃー。お土産はヒレにゃー』


 今度は虎鉄が最後まで喋り終えてから、地図の目的の場所に触れた。

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