第103話
午前中の探索が終わる頃、突然虎鉄が――
『"シュババ"にゃー!』
そう言って伸ばした爪から三日月型の何かを発射した。
「虎鉄くん……今のなんですか?」
三日月形の何かに触れた魚は真っ二つ。
海上に落ち、そのまま藻屑となって沈んで行った。
悲壮感漂う表情で、虎鉄はそれを見送っている。
「虎鉄くーん?」
『うにゃ……。新しいスキルにゃ』
「新しい? え、いやでも」
「ボス倒しとらんばい?」
ここは29階層だ。ボスは居ないはず。
だがここはこれまでのダンジョンとは仕様が異なる。もしかして?
とは一瞬思ったが、それらしいモンスターを倒した記憶も無い。
だいたいボスは大きいから、見た目で気づくんだが。
それすら異なる仕様で小さいのも出てくる――とか?
昼食&応援再付与の為1階へと戻る前に、まずは29階層入り口に転移してステータス板を見ることにした。
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虎鉄 ケットシー 0歳
レベル:10
筋力:E+ 肉体:F 敏捷:B
魔力:C+ 幸運:A
【スキル】
奥義・爪磨ぎスラッシュ3
鑑定1
シュババ1
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『あっし、レベル10になったからスキル覚えたにゃよ』
「え? レベル10になったから?」
『ケットシーにゃから~』
進化するとレベルでスキルが与えられるのか?
だがそうすると、今の虎鉄のレベルが10だから、レベル10毎になるのか。
ボスとの遭遇は運。ボスからスキルが貰えるかどうかも運。
運任せな俺たちと違い、レベルアップで確実にスキルが貰える方がお得感はあるが……。
レベル10毎だと、恩恵はほとんど感じられないな。
次のスキル獲得が20、その次は30、その次は……。
うん。スキル量はどう考えても少なくなるな。
まぁ本猫は喜んでるし、何よりシュババは遠距離攻撃だ。
しかも物理系スキルなのかと思えば、普通に風属性魔法という。
遠近どちらでも対応できる虎鉄か。
きっとこのパーティーで最強なのは、虎鉄なんじゃなかろうか。
俺の鞭も殲滅力という点で、最近はまったく役立ってない。寧ろ図鑑のほうが強いぐらいだ。
鞭の強化も考えなきゃならない時期だろうが、いかんせんワイヤーを仕込む程度じゃどうにもならないところまで来ている。
ダンジョン産の素材は強力だと言うが、鞭の材料になるような強力な物……落ちてないかなぁ。
「新しくシェフが来るんですよ~」
「え? シェフ??」
「はい! イタリア料理のお店で働いていたって人なんです」
食堂は相変わらず繁盛していた。
キッチンカウンターで食事をとる間、料理をしつつ大戸島さんは次々にメニューを仕上げていく。
これもスキルの賜物なのだろうか。
今度来ることになる人は、イタリア料理のお店――で働いていたが、れっきとした日本人。
自分のお店を持ちたいが、資金が無い。
そんな時にここでの募集を見て、住み込みの場合は家賃光熱費タダという募集項目に惹かれ応募してきたそうだ。
ダンジョン住民が着々と増えてるなぁ。
畑や牧場で働く人の何人かは、一階に住居を構え家族と暮らしている。
最近はアルバイトの人も、通勤が面倒だからダンジョンに住みたいと言う程だ。
最初はダンジョンで暮らすなんて恐ろしいと話していた人たちも、ここで働くことになれ、リアルタイムのTVが見れないのは不自由だな程度にしか思っていない。
TVが見たければ地上にある冒険家支援施設に行けばいい。ここならケーブルが引かれ、見ることができるし録画もしてくれる。
「年明けにはアパートの建設も始まるんですよ」
「遂にその時が来たか。ここもちょっとした町みたいになるのかね」
「流石にそこまで建物建てられんやろ」
まぁそうなんだけどさ。
あくまでここで働く人のためのアパートなので、ワンルームと2LDK、合わせて10戸前後の部屋数しか作らないようだ。
「瑠璃、その人、クリスマスに間に合うの?」
「うん。来週から来るって。でね、厨房ももう少し広くして貰おうと思って~」
おじいちゃんにお願いしたの――と、笑顔で言う。
大きな窯を用意すれば、きっとピザもって貰えるな!
ちょっと楽しみだ。
ピザ用の食材も、ここで栽培できるといいなぁ。どんなものがあるだろうか。
あ、とうもろこしは必須だな。
「ピザ楽しみやねぇ」
『ぴざって何にゃか?』
「ピザってのはなぁー……えぇっと、丸い生地に野菜や肉を乗せ、その上にチーズを乗せた食べ物?」
「浅蔵さん、それざっくりし過ぎばい」
「じゃあセリスさんが説明してくれよ」
「えぇー……っと、シェフの人が来たら、作って貰おうね虎鉄」
『にゃ~』
そんな説明で虎鉄は納得したのか。
俺が納得いかん!
「そう思わないか、上田さん」
「はいはーい、じゃあ応援しますよー」
「話聞いてる!?」
「はいはい。仲が良いってことですね。浅蔵さん、セリスちゃん、虎鉄ちゃん"頑張って”!」
「あー、もうっ。行って来ます!」
上田さんは所詮セリスさんの味方なんだよ分かっているよ。
午前中の探査した最終地点からスタートした俺たちは、その一時間後、予想だにしなかった物を見つけた。
岩場と海ばかりが広がる光景の先にまず見えたのは、大きな岩山だ。
「この山、直前まで見えんかったよね?」
「あぁ……特に霧が出てる訳でもないのに、近づくにつれぼぉっと浮かび上がるような感じだったな」
『出口にゃか?』
明らかに他とは違う光景だし、下り階段があると見た方がいいんだろうな。
でもあれを上るのか……。
特に階段があるわけでもなく、だが岩山を迂回しようにもルートがない。
なら上るしかないな。
虎鉄は難なく登って行き、セリスさんも跳躍のおかげかするする登って行く。
ひとり必死にひぃひぃ言いながら登る俺って、カッコ悪い……。
二人に遅れて登頂を果たすと、先に登ったセリスさんたちが呆然と立ち尽くす姿が目に入った。
「どうした、ふたりと……なんだこれ……」
二人の先――岩山の向こうには、巨大な船が停泊……いや難破していた。
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