第100話
「うげ。29階も海なのか」
シャークを倒した瞬間、潮が引く……というよりは海水が突然消えた。
階段の入り口が完全に現れ、だがすぐ後ろには波が迫っている。
いつ水没するか分からないのもあって、全員が急いで階段を下りた。
下りて目の前に広がるのは再び海。
ただし28階が『浜辺』なら、こちらは『岩場』だ。
しかも波も荒い。
「浅蔵さん……着替えたいんやけど……」
「あ、うん。海面での大爆発はそうなるよね。一度帰ろうか」
『にゃっ。かいにゃしら!』
クーラーの中身も一度出してくるか。
協力し合ったパーティーとはここで分かれ、一度上に戻ることに。
「じゃあ俺は上に28階の階段の情報を確認してくるよ」
「もっと下を攻略しとるパーティーもおるんやろ? 情報なら――」
「いや、さっきのパーティーも俺たちも知らなかった。攻略組は先に進むのを優先して、情報提供を後回しにするのも多いんだよ」
「そうなん……あ、私、お風呂行ってくるけん」
『にゃ? にゃ? ……あさくにゃー』
セリスさんについて行くと、もれなくシャワーコースだ。だから俺の所に来たな、虎鉄。
階段上で拡声器を使ってスタッフを呼ぶと、暫くして男性がやってきた。
28階の階段について話すと、案の定情報は届けられていなかった。
鑑定持ちが居なければ詳細な討伐数は分からないが、それでも情報ゼロよりはマシだろう。
ついでに28階の地図もコピー。
まぁする必要がないくらい、一本道だったんだけどな。
下に戻ってから、俺も軽くシャワーだけ浴びる。
ダンジョンの海も塩分含んでるんだよな。海水に浸からなくてもベトベトする。
という訳で。
「虎鉄。シャワーだぞ」
『ふにゃ!? いにゃにゃっ、いにゃにゃあぁーっ!』
あぁ、逃げられた……。
と思ったら戻って来た。
『あさくにゃー。かいにゃしらー』
「……夕方はシャワーだからな」
『いにゃにゃーっ』
そう言いながらも手を出してくる。
ポケットを伸ばしてクーラーを出してやると、そのまま担いで走って行った。
結構重いはずなんだが……力強くなったもんだ。
『かいにゃしらにゃーっ』
虎鉄が大きな声でそう言いながら、食堂へと入っていく。
「またー?」という大戸島さんとは別の料理スタッフの声が聞こえて来た。
うん……29階にシェル系モンスターが居ても、中身は持ち帰らないようにしよう。
「虎鉄。俺はシャワー浴びてくるから」
『いかにゃいもんっ』
「分かったから、ここか家の中か、どちらかに居ろよ。他に行くんじゃないぞ」
『にゃ~』
シャワーを浴びて家へと戻ってくると、セリスさんも帰って来ていた。
「虎鉄は?」
「ミケとお昼寝しとるよ」
「図体が大きくなっても、まだ子供だな」
「ふふ。そうやなくって、中身は猫なんばい。猫は一日の半分以上寝とるけん」
「あぁ、なるほど」
しかしそうなると昼からの攻略はどうしようかな。
虎鉄を置いて行くか?
そうなると久々にセリスさんと二人きり……か。
……。
ごくり。
いやいや、何もない。何もないから!
変な期待をするな俺。
「セ、セリスさん。昼からの攻略だけど」
「虎鉄は寝とるし、二人で行きますか?」
「う、うん。二人で危なそうだったら引き返せばいい」
「分身浅蔵さんも居るから、三人やね」
……そ、そうか。分身も居るのか。
分身は俺だし、やっぱり二人きりも同然?
どうなんだろう。どうなんだろう??
昼食後、虎鉄には念のためひらがなだけで書いた置手紙をし29階へと移動した。
「分身」
どろんっと出て来た俺はなぜか二人。
『俺がもうひとり居る?』
『いや、もう二人と言うべきか?』
「紛らわしいから止めよう」
「あ、浅蔵さんが三人ばい!?」
目の前にあるステータス板で確認すると、分身スキルのレベルが2になっていた。
うん。本格的にパーティーっぽくなってきたな。
尚、メンバーの半分以上は俺。
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