第24話

 18日目の朝。

 踊り場でラジオ体操をするセリスさんを横目に見ながら、朝食の支度をする。

 野菜に関しては開き直ることにした。

 もう俺たちは食っている! 十分過ぎる程食っている!

 あといろいろ気になったので、化け野菜化もわざとさせてみることにした。

 化けさせて収穫すると、全部ボム化する。

 ピーマンとパプリカは中の種が飛び出し、相手に痛みを与える爆弾。

 キュウリは何故か化けるとヘチマになり、溶液をぶちまける爆弾。これに関して女性陣は、


「美容液かも!?」

「お肌つるつるぅ~?」


 と目を輝かせたが、実際に投げてみると確かにつるつるだった。

 主に床が。


 昔、お笑い番組なんかで見たローション塗りまくった坂道を上らせるコーナー。

 そのローションなのだ。


 トマトは血糊爆弾。ほぼそのまんま。真っ赤な果肉がぶしゃっとなるだけ。

 最後のナスは特に何も無かった。ただヘタの部分にある棘が巨大化して、当たればかなり痛そうではある。


 そんな化け野菜をリュックに詰め、出番があれば使うつもりでいる。

 いるんだが……出番なんてあるのだろうか?


「さて、朝飯OK。セリスさん、体操終わったかい?」


 ふと面を上げると、ぼぉっと立つセリスさんと目が合う。

 ダンジョン内だと明るいから、彼女の瞳が青いのがよく分かるな。


「おーい、セリスさーん」

「……きゃっ。は、はい! なんですか?」

「うん。ご飯、出来たけど」

「はい、食べます。すぐ食べますっ」


 大丈夫かな、彼女……。

 最近ぼうっとすること多いし、まさかダンジョン病か!?

 そういうの、何かあっただろうか?






 自転車に跨り出発する。速度は低速だ。ただ非常に走りやすい!


「モンスター、居ませんね」

「居るよ。ただ扉の向こうね」


 しかも無駄に数が多い。といっても5~6匹なんだが、それでも扉を開いていきなりその数はヤバい。

 扉の先に数匹が待ち構える構造なのか、逆に廊下を歩くモンスターとは遭遇しない。

 廊下は真っすぐに伸び、西洋のお屋敷かお城のような構造だ。

 

「あ、そこの角曲がった先に感知あり。いったん降りよう」

「はぁい」


 自転車を下り、十字路手前まで押して行って止める。

 そぉっと覗いた通路の先に居たのは……。


「メイドさん?」

「掃除してますね」


 紺色のメイド服を着た女の人が、箒を持って廊下の掃除をしていた。

 でもどことなく動きがおかしい。なんというか、ギクシャクしているような?


「ふわぁっ!」

「え? どうしたの瑠璃?」


 突然大きな声を出した大戸島さん。その声でメイドが気づき、こちらを見る……み……。


「うわぁっ! マ、マネキン!?」

「え?」

「ふえぇっ、怖いよぉ」


 ギギ、ギギギとマネキンの顔が回転し、360度して戻ってくると――。


『キエェーッ! 廊下ヲ汚スノハ誰デスっ!』


 口が裂け、目がカっと見開き真っ赤に光る。

 カタカタと音を立てながらこちらへと向かって来た!


「に、逃げろっ!」

「うわぁん」

「瑠璃、早く!」


 急いで自転車へと跨り、俺たちは全力でかっ飛ばした。

 だがメイドも走って……え? それちょっとずるくない?

 メイドの足を見ると、なんとローラーが付いてるじゃないか!


「お、追いつかれちゃいますぅ」

「飛ばせぇーっ」

『キシェーッ! 不法侵入者発見。不法侵入者発見!』

「ごめんなさーいっ」


 メイドのその言葉が仲間を呼び寄せた。

 俺たちが通り過ぎた部屋という部屋からメイド、あと執事みたいなのも出てきて、一斉に追いかけてくる!

 こわっ。めっちゃホラー!


 このままじゃ追いつかれる!?

 あいつらをどうにかして止めなければ。

 あ……そうだ!


 俺はハンドルから手を放し、急いで背負ったリュックを前に持ってくる。

 チャックを開いて化け野菜爆弾を一つ、放り投げた。


 プシャっという音の後、ベシャブチャッと騒音が響き渡る。

 僅かに振り向いて確認すると、ヘチマ溶液・・・・・の中でコントのようにすってんころりんするメイドと執事たちが居た。


 は、はは。

 出番、あったじゃないか!






 22階のモンスターは、メイドと執事の2種類だけ。もしかすると扉の向こうには、別の種類もいたかもしれない。

 だが俺たちは扉を開けず、ひたすら廊下を突き進んだ。


 時々箒を持って掃除をしているメイドや執事と遭遇し、そのたびに逃げては仲間を呼ばれてヘチマ爆弾を投げ――。

 

「21階だ……到着したぞ……」

「お、お腹空きましたぁ」

「私、お金持ちになれても、絶対メイドと執事だけは雇わんけん!」


 同感だ。


 お昼をとうに過ぎた16時過ぎ。

 22階をほぼノンストップで走り抜け、21階へと上る階段を発見。

 22階では結局一度も戦闘をしなかった。あんな大量のメイドさんと、どう戦えってんだ。

 もしかして24階や23階より難易度高くないか?


「ひっ。あ、浅蔵さぁん。メイドさんが来ますぅ」


 しまった。扉の向こうだと思ったが、廊下側だったのか。


「階段上れっ。早く!」

「でも自転車が――」

「俺が担ぐ。いいから上るんだっ」


 片手で自転車を1台担ぎ、もう片方の手でもう一台担ぐ。

 階段を数段上った所で下ろし、もう一台を取りに――。


『室内デ乗リ物ダナンテ、ナンテオ行儀ノ悪イオ客様デショウ!』

「くっ」


 もう来たのか!

 箒を振りかざし襲って来るメイド。その攻撃をバックステップで躱し、腰に下げた鞭を解く。


「はぁっ!」


 ビシィーっと廊下に響く鞭の音。


『アハァン! オ、オ客様、ヤ、優シクシテクダサイ』

「いや待て」

『キィーッ』

「お前が襲って来るんじゃないか!」


 再び鞭を唸らせる。


『アァッ。ラ、ラメェ』

「なんでいちいち喘ぐんだよ! やめて欲しいのはこっちだぁぁっ『ダンジョン図鑑っ』」


 具現化させた図鑑で、メイドさんの頭をぶん殴ると、その首がすっぽーんっと抜け……くるくる回転した後、ぼんっと煙を上げて停止した。


「……ロボット?」


 頭がぽろりして露になった首元からは、機械的な部品やケーブルが見えていた。

 

「は、はは……もしかして、弱かった……とか?」


 階段に避難した二人を見ると、何故か彼女らはドン引きした顔で俺を見ていた。

 何か俺、悪いことしましたか?

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