第25話

「誰か、これ着る?」

「着ません!」

「可愛いぃ」


 メイドさんからのドロップといえば、やっぱりメイド服だよね。

 うん。ドロップしたさ。ただしエプロンだけど。箒も一緒にね。


「はい、セリスちゃんの分」

「ど、どうして私の分なの!? 瑠璃が可愛いって言ったの、エプロンじゃないの!?」

「えぇ? 箒だよぉ。これ、可愛い♪」


 箒には赤いリボンが結ばれ、そこにはやや大きめのキーホルダーが付いていた。

 そのキーホルダー、鈴の付いた黒猫の顔だ。全身ではなく、顔だけ。


「浅蔵さぁん、図鑑でアイテムのこと、調べてくださぁい」

「あー、はいはい」

「エプロンなんかいらないから!」

「セリスちゃんのそのエプロンが破れちゃったときの、着替えだよぉ」

「こんなフリフリなの、恥ずかしくてヤダっ」


 いや、可愛いと思うんだけどな。

 えっと、アイテムアイテムっと。



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     【魔探知の箒】

 隠された物を黒猫が探知し、鈴の音で知らせてくれる。

 掃除道具としても使え、武器としても使える。

 良い子は振り回しちゃダメだぞ☆ミ

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 武器として使えるのに、良い子は振り回すなって……悪い子ならいいってことか!?


「メイドさん、振り回してましたよねぇ~」

「あれはモンスターだし。いやロボットか?」

「エ、エプロンはどうなんです?」


 おや、気になるのか。じゃあ見ようじゃないか。



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     【ベテランメイドのエプロン】

 ベテランともなると、エプロンの素材にも拘りを持つ。

 肌触りも良く、皺になりにくい。

 また衝撃を吸収しやすく、鞭に打たれても決して破けることはない。

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 図鑑を見るなり二人が振り向く。

 その視線が何故か痛いのは気のせいだろうか?

 だ、だいたいメイドさんが鞭で打たれること前提の説明文はなんなんだ!

 

「ま、まぁ……防具としての性能はあるみたいだよ?」

「着ません!」

「そ、そうか……」


 ちょっと残念ではある。

 セリスさんはエプロンをポケットに突っ込むと、階段の踊り場でさっさと昼食の準備を始めた。


 食後、ここまで到着するのに時間が掛かったのもあって、今日は21階を少し探索した後、また戻って来ることにした。

 21階は――。


「うぅん。これは自転車無理かなぁ」

「悪路ですが、マウンテンバイクだし行けません?」


 地面はでこぼこした土と岩で出来ており、ところどころ水溜まりもある。

 この手の構造だと、水生動物系モンスターが出るだろうな。


「滑らないか心配だが、それは歩いていても同じか。よし、低速で進もう」






「スライムでぇーす」

「無視しまーす」


 ところどころある水溜まりには、高確率でスライムが潜んでいた。

 無色半透明のスライムは、完全に水に擬態しているようなんだが……感知でバレバレ。

 俺たちが通り過ぎるときに『まってぇー』みたいな感じで出てくるが、それを完全に無視。


「きゃっ」

「どうしたセリスさん!?」

「いえ、水を掛けられて……冷たい」

「着替える? メイドエプロン、あるよぉ?」

「エプロンだけ着替えてどうするのよ!」


 ……エプロンだけ……つまりそれは――。

 待って。お兄さんにそれ以上の刺激を与えないでくれっ。


「浅蔵さぁん、どこかでセリスちゃんに着替えぇ」

「い、いいわよ! このままで……」

「でも風邪引いちゃうしぃ」

「そうだな。どこかで着替えられる場所を探そう」


 22階のように部屋は無く、行き止まりを探すも見つからない。

 仕方ないので、近くにモンスターが居ない場所で着替えて貰うことになった。


「み、見ちゃダメですからね!」

「分かってるって……それより早く着替えちゃってくれよ。ゆっくり向かって来てるモンスター居るからさ」

「うぅ……濡れてるから脱ぎにくい……あぁんもう、最悪ぅ」

「ここはお着換えたくさん必要な階になりそうですねぇ」

「レインコート、持って来ればよかったなぁ」

「取りに帰りますぅ?」

「いや、さすがにもう遠いから」

「き、着替え、終わったばい……」


 よし、出発――な、なんだろう、このセリスさんの今の恰好は。

 着替えたのは黒のジャージ上下。その上からメイドさんのエプロンを着けている。


 かわいい……のだろうか……。

 いや、可愛いような気がする。


「セリスちゃぁん、可愛いっ」

「可愛くない!」


 ……言うの止めておこう。なんか凄く不機嫌だ。


 再出発をしてから、スライムを感知すると俺が誘導。

 出来るだけ一番離れた場所を走ることにした。

 スライムなので動きは遅い。水からゆる~りと出てくる前に通り過ぎることにした。


 そうして進むこと1時間。

 そろそろ引き返そうかという所で、やたらと広い空間へと出て来た。

 どことなく見覚えのあるような雰囲気だな。


「浅蔵さん、あそこ、スーパーが見えますよ!」

「は? ダンジョンにスーパーなんて……あった!」


 そうだ。俺たちが居たホームセンターのあった場所。

 あれと同じように、そこだけやたら広く作られたあれに似ているんだ。


 セリスさんが見つけたスーパーって、ホームセンターの近くにあるヤツじゃん。俺、仕事の帰りにここで3割引きになった惣菜をよう買って帰ったんだよなぁ。

 ただ、その建物が確認できるのは半分ほど。

 残りは――。


「地面にめり込んでるな……」


 建物の半分が地面にめり込むそのスーパーは、緩やかな傾斜で地面へと突き刺さっていた。

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