ダンジョン暮らし!スキル【ダンジョン図鑑】で楽々攻略。

夢・風魔

1章:ダンジョンに落ちまして

第1話

『本日のダンジョン生成予報です。まずは西日本――沖縄県は0%』


 毎朝欠かさず聞くニュース。

 浅蔵豊はこのラジオニュースを運転する車内で聞きながら出勤する。

 こんな世の中になったのは、今から10年前の2020年。

 彼が13歳の頃だ。


 突然、世界各地で地震が発生。しかも狙ったかのように都心部でのみ起こった。

 大地が割れ、そこに人も建物も飲み込まれた。

 だけどただの地震ではない。

 割れた大地はすぐに閉じ、そこにあった物は全て消え去った。

 代わりに広がるのは荒れた大地。

 しかもこの荒野。草木一本生えないどころか、作物を植えても全く育たないという。


 あった物がどこに行ったのか……それは。


『長崎県は0%。福岡県は55%。福岡県にお住まいの方は、十分ご注意ください』

「げっ。マジか……55って、高くない?」


 出勤途中の車内で、ラジオに向かって尋ねる。もちろん返事はない。

 ダンジョン生成確率55%……他県に避難するべきかと浅蔵は考える。


 ダンジョン生成――10年前の大地震から始まった大災害。

 世界各地で今なお、ダンジョンは作られている。

 まったく、誰が作ってんだよ!

 という話になると、たいていは神様だろとか、異世界の魔王だとかいうオタクな話になる。


「とりあえず会社に電話して、どうするか確認しとかんとなぁ」

 

 近くにホームセンターがあったのを思い出し、そこの駐車場にひとまず入ることにした。

 角を曲がる際、歩道を歩く女子高生二人が通り過ぎるのを待つ。

 ひとりは金髪――に近いブロンドヘアー。

 今どきはあんな髪でも校則に引っかからないのかと思って見ていると、女生徒が車に向かって会釈をするではないか。

 人は見かけで判断してはいけないという、典型的な例だろう。


(礼儀正しい娘だったな。随分と綺麗な顔だったし)


 朝から目の保養になった。

 そう感謝しつつホームセンターの駐車場へと目を向けると、そこから1台のワゴン車が猛スピードで出てきた。

 危うく女子高生二人と接触するところであった。二人も驚き目をぱちくりとさせ、それから浅蔵の車を見た。

 店がまだ開店する前のこの時間。駐車場から出て来たという事は従業員だろうか。

 ダンジョン生成率55%と聞いて、慌てて逃げだしたのかもしれない。


「大丈夫だった?」


 浅蔵が窓を開け二人にそう声を掛けた時だ。


 ビビーッ。ビビーッとスマホがけたたましく音を発する。


『ダンジョン生成特別警報が発令されました。速やかに出来るだけ遠くへ避難してください』


 機械音声が流れた。

 各自治体から非常事態宣言が発令されると、その地区に居るスマホユーザーに瞬時に伝えられる警報だ。

 福岡でのダンジョン生成率が55%とはいえ、県内の面積は狭くはない。

 まさかピンポイントで自身が今いる場所だとは、誰も思わないだろう。


 ここから急いで離れなければ。

 車を走らせようとしたが、その時運転席から二人の女子高生の姿が目に入る。


「乗るか!?」


 声を掛けると二人は戸惑った顔をしたが、直ぐに頷いて車の方へとやって来た。

 二人が後部座席に乗り込んだのを確認すると、彼はアクセルを踏んで車を走らせる。

 それと同時に地面が揺れるのを感じた。


「きゃっ」

「ゆ、揺れてます!?」

「分かってるっ。飛ばすから舌噛まないよう気をつけて!!」


 そう叫んだ時――突然フロントガラス越しに見る視界がズレた。


 見えるのは土―空洞―土―空洞―土――何度か繰り返した後衝撃が走り、浅蔵の意識は一瞬飛んだ。

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