第32話
必要最小限の食料だけを持って、俺たちは24階のホームセンターへと戻った。
21階はあのプールを通らなくても良いルートを探した結果、それだけで1日半を費やしてしまった。まぁ蜘蛛地獄も無く、スーパーへと向かう道もあったので結果オーライだろう。
ダンジョン生活25日目。三度戻って来た麗しの我が家!
「ちがっ。ホームセンターだ!」
「え? どうしたと、浅蔵さん」
「何でもないよ。うん。さ、中でゆっくり休もう」
「お風呂入りたぁ~い!」
食料や害虫駆除系、予備の装備は20階手前の階段に置いて来た。なるべく荷物を減らして駆除剤をガッツリ持って行くためにだ。
二人がプール風呂を満喫している間、煩悩を振り払って俺のアイテムポケットに駆除剤を詰め込んでいく。
うぅん。畳半畳だと大量には持っていけないな。他にも持って行きたい物もあるし、せめてもう一つポケットがあれば……。
「5000DBPか。24階のモンスターを倒せば討伐報酬で24DBP貰える。10匹で240。100匹で2400か」
210匹倒せば5000DBPだ。ポケットを増やして大戸島さんにも持って貰おうかな。
とりあえず、台車に蟻駆除系を片っ端から乗せて集めておくか。
それが終わったら工具コーナーだ。
蟻の皮膚は硬い。残念だが俺の鞭では傷をつけることも出来ないだろう。
セリスさんの薙刀で突いたが、これもまったく刃が立たなかったからな。
出来れば電動工具で使えない物が無いか探すんだが……。
コンセント式は使えない。電気が通ってないから。
だが充電式なら時間は掛かるが使えるかもしれない。問題は蓄電器のほうだが――。
「これ、行けるな」
俺が目にしたのはエアロバイク――ではなく、足漕ぎタイプの蓄電器。
コンパクトでセリスさんのポケットにも入るサイズだろう。
よし、充電式の工具をじゃんじゃん持って行くぜ!
「そんな訳で、明日からちょっとDBPを増やしたいと思うんだけど」
「ポケット欲しいで~す」
「ポイント増やすのって、浅蔵さんにしか出来ないんですかね?」
「どうだろう?」
ダンジョンの七不思議――パーティー。
各階層入り口にあるステータス板で、パーティー設定が行われる。
ダンジョン内でモンスターを倒すと、目には見えないが経験値のようなものが入る。パーティーを作っていれば、この経験値が均等に配分されるのだが――
「まったく戦闘をしていなくても、近くに居る仲間がモンスターを倒していれば、何故かレベルが上がるんだよ。ただし離れすぎていると経験値が入らない」
「近ければいいってことですね。経験値が入るなら、ポイントも入るんじゃないですか?」
「だといいんだけどね」
まぁ二人が倒した分が反映されないなら、俺一人でノルマ210匹達成すればいいだけさ。うん。
翌日から早速DBP貯金を開始。そして俺のノルマ210匹が確定した。
ふへへ……。
その間二人には蓄電器に電気を蓄えて貰い、都度、電動工具に充電して貰うことに。
俺が集めたのは小型のチェーンソー。電ノコ。そしてドライバー。これらをいくつかずつ用意してある。
最強なのはチェーンソーだろうなー。ふひひ。
店に放置された野菜のプランターでは元気に化け野菜が実り、愉快な声が響いている。
この声にモンスターが集まって来ないかと心配したが、戻って来た時もモンスターの姿はなく。
この愉快な仲間たちもしっかり収穫してボム化。
ピーマンの種が奴らの硬い皮膚を突き破ってくれるといいんだけどなぁ。
3日掛かってノルマを達成すると、大戸島さん用のポケットをコピー。
駆除剤は俺と大戸島さんのポケットに、工具類はセリスさんのポケットに詰め込んだ。
29日目の朝。自転車のタイヤに念のため空気を入れ、20階へ向け出発した。
途中のモンスターは出来るだけ無視し、3日後には21階のスーパーまで到着した。
「じゃあチョコを集めるか」
「あ、浅蔵さ~ん。この前のチョココロッケも警戒されちゃうかもしれないのでぇ、他にもいろいろ作ろうと思いま~す」
「いろいろ?」
「ホットケーキで駆除剤挟んだどら焼き風とかぁ、駆除液を混ぜたドーナツとか~」
お、おぉう。どれも殺人級のヤバさがあるな。
その辺りは大戸島さんに任せよう。
スーパーから集めたのはホットケーキミックス大量とバニラエッセンス。エッセンスで駆除剤の独特な臭いを消すそうだ。
それからチョコレートやスナック菓子もいくつか持って来た。
前回はポテチで包んだが、味が違ったり見た目が違えば喰い付くかもしれない。
そもそもチョココロッケには物凄い勢いで喰い付いて来たもんな。
その日は劇薬菓子作りで夜遅くまで頑張り、翌日33日目。
「食べてる食べてる」
「ふふふ~。美味しそうでしょ~」
大戸島さんの言葉に俺とセリスさんは顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。
まぁホットケーキ2枚で大量の駆除剤を挟んだ奴は、中身を見なければ美味しそうに見えなくも無いけど……。
用意したどら焼き風は100枚以上。ドーナツはそれ以上だ。
駆除剤入りコロッケ風の衣に使ったのは、ビスケットやベビスター、かっぱえびせんと、多種多様に用意。
それらをスーパーの袋に入れ、空になったら大戸島さんと俺のポケットに詰め込んだ。
それらを3人でばばばっと投げ込み、貪り食う蟻を階段で見ている。
前回同様、階段の後ろから音がして菓子を貢ぎに行く兵隊蟻の姿も見えた。
それだけじゃ足りないのか、甲高い音が鳴って慌てて他の兵隊蟻が菓子を運び始める。
これで腹でも壊してくれるといいんだが。
この駆除菓子作りとばら撒くのを1日3回繰り返し、翌日、遂に俺たちは20階へと上がった。
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