第31話
踊り場を片付け、広げたアイテムポケットから取り出したのは蟻駆除剤。
ホームセンターから持って来ていた、害虫駆除シリーズの一つだ。
液体タイプと粒タイプ。それぞれ5本ずつある。
カタツムリやナメクジにも駆除剤は効果的だった。なら蟻モンスターにだってこの駆除剤は効果があるんじゃないか?
試してみる価値はある。
「液体タイプで試すには近づかなきゃならないし、これは危険だ。こっちの粒タイプを投げて試してみよう」
これなら階段から投げることも出来る。
早速一本持って階段を上り、上の様子がギリギリ見える所から数粒投げてみた。
・ ・ ・。
「粒……小さいから気づいてくれないか」
「みたいですね」
「ボス蟻さん見当たりませんけど、どこかに行ってくれたんですかね~」
どこかに行ったのか、階段の真後ろに回り込んでいるだけなのか。さすがに真後ろは壁になっているので見ることは出来ない。
しっかし蟻どもの反応まったく無しだなぁ。
「ボトルごと投げてみては?」
「うぅん。それだと勿体なくないかい?」
「そうですけど。そもそも蟻の数が多いなら、今手持ちの駆除剤じゃ足りないと思いますよ?」
それなんだよなぁ。
また道を戻ってホームセンターに帰る必要があるだろうか。
とにかく駆除剤が効くかどうか試さなければならない。
ボトルの蓋を開け蟻塚に向かって投げ込むと、ポコンっと音を立て地面へと落ちた。
するとどうだ。
蟻たちがわさわさ出てきてボトルが落ちた辺りに集まっているではないか。
地面が凸凹しているので何をしているのかは見えないが、触覚を忙しく動かし地面にある何かに興味を惹かれているようだ。
「ああいうのって、食べさせて殺すタイプなのかな?」
「えぇっと、説明だと直ぐに殺せるわけじゃないっぽいですね」
食べても直ぐに死ぬ訳ではないが、巣に戻って死ぬと、その死体を仲間が食って毒が広がって行く。そんなタイプだった。
効果が分かるのに少し時間が掛かりそうだな。
駆除剤に群がる蟻の数は、パっと見でも10匹以上。
今までこの数を同時に相手したことは無いし、なんとか薬が効いて欲しいところだ。
その一匹がこっちに――いや、階段の横をカサカサ進んで行った。
「ボスにおすそ分けするんやろうか?」
「だといいな」
その上で効果があれば尚よし。
翌朝。今日でダンジョンでの生活も20日目。
さて、蟻たちの様子を見てみよう。
階段を上って音を立てると、直ぐにカサカサと蟻たちが出てきた。
・ ・ ・。
どいつが粒を食った奴なんだ?
うぅん。今カサカサ元気に動いてるのが食った奴なのかどうかも分からない。何か目印でも付けるべきだったなぁ。
「ちょっと検証をもう一度やり直そう」
「やり直すと?」
階段を下りて踊り場で二人に説明すると、苦笑いを浮かべて「それもそうですね」と。
さて、目印だが……。
「こーいこいこいこい」
「なんですか、その呪文?」
「蟻を呼んでるんだ……。こーいこいこいこい」
階段の近くに粒をぶちまけ、セリスさんの薙刀を持って構える。先端にべったりと糊付けした紙をぶっ刺して。
匂いに釣られて一匹がカサカサとやって来た。そいつの腹に紙をペタリ。これを数匹にやって、今日はここで終了。
数時間経って再び粒をぶちまけ出てきた蟻を見てみると、紙を貼りつけた奴もしっかり居た。居たが、どこか足取りが他の奴と比べても悪い様に見える。
それだけじゃない。
「食わないな……」
「もしかして自分たちには有毒だって、気づいたんやろうか」
「賢いんだね~」
「効果が出てそうだけど、流石にあの体の大きさに対して食べる量が少ないんだろう。もっと食わせなきゃならないんだろうけど……」
どうしたものか……。
「蟻さん、甘い物に集まるんだし、あっちの蟻さんもお菓子とかに集まってきませんかね~?」
「甘い物……そうだとして、どうやって駆除剤を食べさせるんだ?」
「ふふふぅ~♪」
大戸島さんはポテチとチョコレートを取り出し楽しそうに微笑んだ。
何をするのかと思えば、まずチョコを溶かし、その溶かしたチョコを駆除剤の粒にぶっかけた。
「ポテチを粉々にしてくださ~い」
「え? もしかしてパン粉みたいにまぶすつもり?」
「そうだよ~。ふふふぅ。チョコたっぷり蟻駆除コロッケ~」
ぶっ。あ、蟻駆除コロッケ!?
それ殺人級のヤバさだぞ。
チョコがしっかり固まってからそれを投げ込むと、塚から出てきた蟻共が争うようにして群がった。
しかも、ズシーンっと階段の背後から女王蟻が動く振動まで聞こえてくる。
ビクりと体を震わせた蟻共が、ボスに貢ためコロッケを運んで行った。
行ける……これはいけるぞ!
ただし駆除剤が圧倒的に足らない。
なんせチョココロッケに釣られて出てきたのは、およそ50匹程だった。
その後図鑑を確認したが、昨日追加された『兵隊蟻』と、ボスの『女王蟻』以外は無し。
あれ全部兵隊蟻なのか……。
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