第8話

「あふぅ~、おはようございます。浅蔵さん」

「おはよう、セリスさん」

「おはようございますぅ」

「おはよう、大戸島さん。二人とも、やかんにお湯沸いてるから、洗面器に入れて顔洗いなよ」

「「は~い」」


 一度彼女らと交代して4時間ほどは眠れただろうか。

 ただ感知スキルのせいで熟睡は出来ていない。まぁ寝不足にならない程度ならそれでいい。

 明け方、再び見張りを交代して、彼女らは二度寝をした。

 その間にスライムで戦闘訓練したが……弱すぎてやっぱり訓練にもならなかったよ。

 DBPを150消費して、1度の眩暈を起こした。レベルが一つ上がったってことだな。


 はてさて、今のレベルはいったいいくつなんだろうな。


 濡らしたタオルで顔を拭き終えた大戸島さんが、じっと何かを見つめている。

 俺も彼女の見つめる先に目を向けると、何故かセリスさんがラジオ体操をしていた。


「彼女、アレが習慣なのかな?」

「うぅん……そういう話はぁ、聞いたことないですねぇ」


 そんな俺たちの視線に気づいたのか、ハっとしたセリスさんが顔を赤らめ目を泳がせる。


「わ、私……何しとったんやろ」

「セリスちゃん、ラジオ体操してたよぉ」

「な、なんでラジオ体操なんか……あ、でも……すっごくラジオ体操したい」


 体がむずむずするのか、彼女は自然とラジオ体操を再開する。


「うん。健康には良いと思うよ」


 なんだろう。

 彼女の身に何が起こっているのだろう。


 セリスさんがラジオ体操を第二まで終わらせ戻ってくると、ようやく朝食の時間に。


「フルーツ缶あったんだけど、朝はビスケットでいいかい? あとコーンスープでなんちゃって洋食風に」

「朝はあんまり食べないので、むしろ缶詰とビスケットでいいですよ」

「私はぁ、コーンスープも欲しいですぅ。あ、でも……食料足りますかぁ?」

「大丈夫。三人だけだからね。起きてる間にバックヤードも見てみたんだけど、在庫結構あるみたいだよ」


 レンチンのご飯と菓子類、それに飲料水もダンボールでかなりあった。

 そして見逃していた物も――。


「そうめんと麺つゆまであったんだよ!」

「わっ、本当だ。ホームセンターって、そんな物まであるんですね」

「私そうめん大好きぃ。あ、流しそうめんの機械とかありますよねぇ」

「ある。ただ電気が無い。乾電池では動かないから、残念だけど……」


 大戸島さんだけでなく、セリスさんもガッカリしたようだ。

 生きて帰れたら、たくさん流しそうめんしよう。


 他にもかき氷シロップなんてのもあったが、氷が無い。

 これ、水で薄めたらジュースにならないかな?






 食後、少しうたた寝をして昼前から活動開始。

 と言っても、二人がレベル上げをしたいというのでスライムの取り出し係だ。


「残りDBPは?」

「一五二〇〇くらいだね。1万は常に残しておきたいけど」

「五二〇〇匹倒せってことですか!?」

「いや、そこまでは言って無いから……」


 やる気満々のセリスさんだ。

 俺がうたた寝している間に、自分に合った武器を用意してたもんなぁ。

 

 武器と言ってもただの棒だ。

 店内の木材コーナーまで行って、握り心地の良い長くて丈夫なのを持って来ていた。

 棒に合皮材を木工用ボンドで接着し、滑りにくく加工までしてある。

 本格的な武闘家スタイルだ。

 大戸島さん用の棒まで用意されていた。。


「スライム相手ならいいんですけど、他のモンスターだと刃物が欲しいですよね」

「うん、そうだね。先端にくっつけてみる?」

「うぅん、そうですね。もう一本別に作って、いろいろ試してみたいですね」


 刃物の種類も、ここならいろいろ選べるからなぁ。なんなら電動工具系の替刃だってあるぞ!

 あぁ、俺ももう一本鞭作りてー。


 まずは昨日、スライム潰しを出来なかった大戸島さんが試すことに。

 武器が長いのでそれを活かし、スライムを射程ギリギリの所にぽいしてみる。


 ぷるぷると震えるスライムを、「可愛い」と言っていた彼女が――あっさり潰した。


「や、やったぁ~。倒せたよぉ。私にも出来るぅ」

「うん。じゃあ少し慣れておこうか」


 モンスターとの戦闘というより、殺すという行為に慣れて貰っておくのも大事か。

 昼食の後、大戸島さん用の武器を作った。

 筋力がきっと低いんだと思う。時々スライムを一撃で仕留められないこともあったから。

 力不足をカバーするために、先端に鉄素材の円柱をビニールテープでぐるぐる巻きに。


「ちょっと重いけど、持てるかな? 攻撃力は上がると思うけど」

「大丈夫です。持ち上げられるので、行けると思いますぅ」


 毎回グリーンスライムだと飽きるので、たまにはブルースライムも出してみる。

 まぁ強さは同じなんだけどね。


「えぇい!」


 ――プシャッ。


 まさに水風船のように、ブルースライムが弾け飛んだ。

 50匹ほど出してみたが、確実に一撃で仕留められるようになったな。

 見た目は超長い鈍器ってところか。


 ん――感知にヒット。


「ちょっと休憩だ。感知範囲にモンスターが入った」


 大戸島さんは声を出さず、黙って頷く。

 怯えているのではない。モンスターに気づかれないよう、自分なりの行動なのだ。

 セリスさんも彼女の横にやって来て、こちらも黙って俺を見つめている。


「ちょっと見てくるよ。二人はここでじっとしてて」


 こくりと二人が揃って頷くのを見てから、俺は店内のほうへと向かった。

 感知範囲に入ったモンスターは、少しずつこちらに向かって来ている?

 いや、斜めに移動しているようだな。


 サービスカウンターの中へ入り、窓を静かに開ける。

 5センチほどの隙間から外を覗くが、モンスターらしき影は見当たらない。


 いや、居た!


 左側の横穴からこちらに出てきて……右側の横穴に向かって移動している。

 窓の隙間から見たあれは、カタツムリのような姿だったな。


 かなり動きが遅く、だいぶん経ってからモンスターは無事横穴へと入った。

 感知の範囲から出たのを確認してから、


「『ダンジョン図鑑』」


 現れた図鑑のページを捲り、地下24階に生息するモンスターページが更新されていないかチェック。

 あった!


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     【ダンジョンマイマイ】


 体長1.5メートルの巨大カタツムリ。

 その頭には大きな棘が二本あり、触れると毒に犯される。

 動きは遅め。硬い殻に隠れて、身を守る習性がある。


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 イラストを見ると、でんでんむしの歌にある「角だせ槍だせ」の角が確かにある。


 見た目がこんなのでも、地下24階のモンスターだ。

 間違っても今は取り出すべきじゃないな。


 万が一取り出すにしても、ゴム手袋着用必須だ。

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