第135話
1月も下旬。
俺たちはまだ46階を攻略できずにいる。
というのも、46階が凶悪すぎる。
敵モンスターがパーティーを組んでいるのは、もっと上層からなのでまぁいい。
問題はその構成だ。
今まで魔法っぽい物を使うモンスターがいるにはいたけど、ここに来てまさかの回復魔法を使うやつが出てくるとはなぁ。
いや、回復というか再生?
見た目はお坊さんのミイラで、その名も『死せる高僧』。
回復魔法を使ったら自滅しそうな感じなんだが、数珠を振り回すだけで傷ついた仲間モンスターの怪我を治してしまっている。
ただヒールとは違って一瞬で治すんじゃなく、じわじわと傷口が再生していく感じ。
だから狙うべきは高僧なんだが、このミイラがバリア系の魔法をすぐ使って自分を守るので厄介なことこの上なし。
セリスさんのエンチャント・ホーリーが効果的なんだけども……。
「あぁんっ。また弾かれたばい!」
物理攻撃を防ぐバリアを展開して、こちらの攻撃を防いでしまう。
これには俺のビームも同様に弾かれる始末。
手数で攻めようにも、向こうの手数も多い。
酷い時には10体ぐらいでパーティー組んでて、お坊さんミイラが3体とかある。
そこに攻撃魔法を使って来る『死せるマジシャン』とかもいて最悪だ。
一度の戦闘で分身が複数人やられることもあって、正直俺たちだけじゃ厳しい。
というのは他のパーティーでも同じで、結局少し上の階からスタートしたメンバーとも足並みが揃ってしまった状態だ。
「ふぅ……今日は引き上げようか。階段で動かないパーティーもいるようだし」
「そうですね。今日も疲れたばい」
『にゃ~。にゃかにゃか47階見つからないにゃねぇ』
見つからないというか、全然奥に進めないんだ。
46階をかれこれ1週間ほど攻略しているが、地図のマッピング率で言うとようやく50%ぐらい。
これじゃあ奇跡でもない限り階段は見つからないだろう。
他のパーティーに関しては、階段から数百メートル進んで、数回戦闘をしたら引き返して休憩の繰り返しだ。
階段で休憩していたパーティーを回収して地下1階へと戻ると、彼らは全員、テントに転がってため息を吐いた。
「強すぎ……」
「瞬間火力が足りてないんだろうなってのは分かる。けどどうすりゃいいんだよ」
「あのクソ坊主! 死んでるくせに回復とかすんなよ!」
「戦闘中に追加モンスターとかまじ勘弁してくれ」
「巡回型だから仕方ないんでしょうけど、あれはたしかに厳しいですね」
「だからって大人数で移動しても、乱戦になりすぎてフレンドリーファイアしそうだしなぁ」
そんな会話が聞こえてくる。
隣でセリスさんが「フレンドリーファイアってなんですか?」と尋ねてきたので、それがゲーム用語だと説明。
ゲームでは、本来キャラクターの攻撃はモンスターにしか当たらない。
だけどたまにそうじゃない設定のゲームある。
パーティーメンバーの攻撃も味方に当たってしまう……そういうシステムをフレンドリーファイアという。
現実的に考えたらそうなんだよ。
弓矢での攻撃だって、射手と敵の間に味方がいれば実際に当たるのは味方の背中。
まぁスキルで湾曲させるものがあるけど、それはまた別の話だ。
魔法だって範囲であれば味方を巻き添えにすることもある。
魔法スキル持ち曰く、スキルレベルが上がると敵と味方を区別してダメージを与えられるようになる――そうなんだが、それも簡単なことじゃないらしい。
逆に単体魔法なら、狙った相手に向けて飛ばせるので、例え味方が間にいても魔法自体がちゃんと迂回して飛んで行ってくれるそうだ。
だから範囲魔法より、単体魔法の方が好まれている。
「確かに。武器で攻撃するときも、周りを気にしますもんね。それが20人も30人も味方がいたら……」
「そうなんだよなぁ。だからパーティーってのは多くても10人ぐらいなんだよ」
その場合でも、ひとりふたりは非戦闘員だったりすることが多い。
感知や探知専門とか、回復専門。鑑定専門ってのもいる。敵の弱点が分かるだけで、ずいぶん攻略が楽になるからだ。
そろそろ夕食だという時刻に46階へと戻り、やっぱり階段に来ていたパーティーを回収。
図鑑の地図上をうろうろするパーティーも、俺が歩いた範囲にいたので彼らも回収。
結局毎日全員、1階に戻ってくたびれる毎日となっていた。
「はぁ~い。みなさんおかえりなさぁ~い。今日はねぇ、温かいお鍋にしましたぁ~」
「おぉ! やったね。もう毎日の楽しみって、この晩飯だけだぜぇ」
「えぇ? 朝とかお昼だってぇ、食堂のみんなでお弁当一生懸命作ってるのにぃ」
「あはは。三食全部うまいよ。でも晩飯は出来立てだし、温かいし、やっぱり別格だよ」
『にゃ! 貝柱にゃっ』
大戸島さんと武くんが運んできてくれた鍋。虎鉄が目ざとく貝柱を見つけた。
あのサイズ……28階のアレか。
「最近ねぇ、30階前後で攻略してる冒険家さんが増えてきたのぉ。そしたらお魚とか貝柱持ってきてくれるの~」
『んにゃーっ! おさかにゃっ。おさかにゃ欲しいにゃ!』
「虎鉄、かーちゃん呼んで来いよ」
『がってん承知の助にゃよタケシ。にゃにゃーっ、かーにゃーんっ』
がってん……またどこで覚えてきたんだ!?
「浅蔵さんのところの虎鉄ちゃん、ミケ猫をかーちゃんって呼んでるようですけど、どうしてなんです?」
「え?」
下層攻略組の中には少ないながら女性もいる。セリスさんとも仲良くなって馴染んでる人たちだ。
で、彼女らに限らず、虎鉄は人気者だ。
かわいいから当たり前だし、その上強い。
ここで夜を明かすことが多くなっているので、みんな虎鉄ともよく遊んでくれるのだが……。
表向きには俺がゲットしたテイミングモンスターってことになっている。
つまりミケが産んだなんてことを知らない。
「こ、虎鉄はケットシーだけど、まぁ一応猫モンスターだし? ミケがかわいがってくれてさ、それで虎鉄もミケを実の母親のように慕っているというか」
「ミ、ミケはお母さんみたいに虎鉄に優しくしてくれとるけん、お母さんって呼んでみたらって私たちが言ったんばい」
「そうそう。ミケも出産後に子猫を里子に出してしまって寂しかったからさ、虎鉄を我が子のようにかわいがってくれて」
とやや強引な説明。
タイミングよく虎鉄がミケと一緒に戻ってきて、その愛らしい姿を見せればみんないちころだ。
「ミケ優しいわねぇ」
「虎鉄。お前、かーちゃんを大切にしろよ」
『んなぁ~』
『にゃ~』
虎鉄とミケは鍋の出汁に使われたチビギョと、しっかり冷ました貝柱を貰ってご満悦だ。
くったくたに疲れた心を、二匹が癒してくれる。
「あっちっ」
「もう浅蔵さん。よそ見しとるけんばい」
ミケ親子を見ていて熱い貝柱をそのまま口に入れてしまった俺。
隣のセリスさんがすかさずハンカチで口元を拭ってくれた。
うん。こっちが一番の癒しだな。
「あぁあぁ、浅蔵デレデレしやがって」
「リア充成り立てだから仕方ないね」
……悔しかったらお前らもイチャつけばいいだろ!
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