第184話:会議

「おさらいをしておくぞ。まず最下層のボスを倒すと、裏ステージに移動じゃ。じゃが裏ステージに移動できるのは──」


 翌日。大戸島会長と中国地方支部の会長、それぞれの幹部数名が宇佐にやって来た。

 会議は支援協会の建物では狭く、町にある商工会議場を借りて行われた。

 なんかこういう所に来ると、サラリーマンになった気分だな。


「止めを刺した者が所属するパーティーが、裏ステージに移動するということでしたな?」


 恰幅の良い中国支部の会長が尋ねるようにして言う。


 正直、『そうだ』と断言はできない。

 検証できるようなものではないし、一度しか経験していないことだからな。


「貢献度……つまりもっともダメージを与えたパーティーという可能性もある。前回は止めを刺したのも貢献度も、彼らだったのじゃよ」

「もしその二つが割れた場合、どうなるか分かりませんなぁ」


 うぅんと唸り合う二人の会長。

 同じように幹部連中も考え込んでいるようだ。


 そこにセリスが手を上げた。


「け、検証は出来るんじゃないでしょうか?」

「検証じゃと?」

「はい。裏ステージの挑戦は、3回まで許されています。最初の1回ぐらいは検証用に使ってしまっても、いいと思います」


 そうだ。一発でクリアしなきゃいけない訳じゃない。

 ただ一度挑戦したメンバーに、二度目はない。

 なら検証用のパーティーを2チーム用意する必要があるな。


「浅蔵、お前の分身は今何人じゃ?」

「え、10人のままですが」

「100人にはならんのかっ」

「なったら嫌ですよ!」


 大戸島会長の考えはなんとなく分かる。

 俺の分身の人数が増えれば、それだけ裏ステージでの戦力が増すということになる。

 え、ってことはつまり?


「浅蔵、お前のパーティーが裏ステージ攻略の本チャンメンバーじゃ」

「あぁ、そうなりますかやっぱり」

「じゃからお前はひたすら分身のレベルを上げとくんじゃ!」

「……はい」


 レベル上げて増えるのかなぁ。






 会議の間も分身スキルを頻繁に使いまくれ。

 でも椅子に座ってそれやると狭くなるから、部屋の隅でやってろ。


 そんな理不尽な命令を受けて、俺は部屋の隅で分身スキルを使いまくっていた。

 セリスが一緒にいてくれるのが有難い。

 分身。


「そんなに頻繁に使っても、レベルはあがると?」

「ん。スキルの種類にもよりけりだね。まぁ俺たち人間には、そういったものの仕組みが全て解明されている訳じゃないけど」

「スキルの種類っていうのは?」

「攻撃スキルなんかは、使ったからってレベルが上がる訳じゃないようなんだ。"分身"」


 実際にスキルで敵を倒さなきゃいけない。

 まぁそうでもなければ、安全な所でばんばんスキルだけ使えば強くなれるんだ。

 これがもしゲームだとしたら、開発者が絶対認めないシステムだろう。

 分身。


 だがそうでないスキルは、意外と連発して使うことでレベルが上がりやすかったりする。

 ただ……

 スキルってのはなんにしても、使えば疲れる。

 戦闘系スキルより、非戦闘系のほうがその傾向が強い。

 だから結局連発できないんだよな。


「ふぅ……疲れてきた」

「上がったと?」

「どうかな。虎鉄ぅ、おーい」


 虎鉄の奴、自分も会議の参加者だといわんばかりに椅子に座っていたが。

 話を聞いているようで、毛繕いをしていた。

 呼ばれたことに気づくと尻尾をふりふりしてやってくる。退屈だったんだろう。


『なんにゃ』

「俺を鑑定して分身レベルを見てくれないか?」

『にゃ~。"鑑定"。上がって無いにゃ』


 まぁそうだよなぁ。


 会議の方はスタンピードがどんな規模になるのかという問題で、完全開放するかどうか考えなければ──という話になっている。

 宇佐は比較的小さなダンジョンだ。それでも全階層のモンスターが地上に出てくれば……大惨事になるのは間違いない。


 それに気になることも一つある。


「ダンジョン人のいないダンジョンだと、選択肢は四つになるのだろうか?」

「そうやね。そこが気になるところばい」


 そしてここばっかりは検証できないんだよな。

 裏ボスを倒してしまったら、報酬を選択しなきゃいけない。

 誰かがあの空間に行ってしまえば、報酬を受け取った後は消滅する。

 時間制限を設けられていたけど、報酬を決めなければ何もないままあの空間は消滅するんだろう。

 何も得られないまま。


「ダンジョン人がいなければ、スキルやアイテムの報酬もいいんじゃないですか?」


 そんな声が冒険家から上がった。

 これには賛同する声も多い。


 ダンジョン完全開放後の気になる点もある。

 完全開放した場合、そこにあった建物はどうなるのか。

 今のダンジョン地上のように更地になったままなのか。


 その場所に、再びダンジョンが現れることはあるのか。


「もし二度とダンジョンが出来ない土地になるというなら……」

「万全の体制を整えて、挑む価値はある──じゃな」


 宇佐ダンジョンでは、その体制が整いつつあった。



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