第57話

「おっはようございまっす!」


 今日も無駄に元気な武くんがやって来た。

 そして彼と一緒にやって来たのは――あれ? 昨日は5人来るって話じゃなかったっけ? なんか多いぞ。


「よっ。浅蔵」

「久しぶりだなぁ。お前、知らないうちにダンジョンに捕まったんだって?」

「あれ? 山田、竹久……それに……え? なに? 同窓会でもやるのか?」


 同じ中学出身の、そして一緒に冒険家を目指した仲間たちがそこに居た。その数10人。

 全員、戦闘スキルを貰えず、地上での支援や低層でのモンスター退治を生業にしている連中だ。


「ここで野菜の収穫手伝う方が、今生きてる人の為になるかなって思ってさ」

「それに俺らだとモンスターにも慣れてるし、何かあってもすぐ対処できるだろ」


 確かにそうだ。幾らフェンスをしているからと言っても、たまに飛び越えてくる馬鹿が居るんだよ。バッタっていう馬鹿が。

 新しく加わったアルバイトは合計で15人。更に明日には7人増えると言う。

 最初はダンジョンに働きに来る物好きなんて居るのかと不安だったけど、案外居るもんだなぁ。


 畑と家畜小屋とに班を、各々の希望を選んで貰う事にした。

 家畜小屋はここから遠いのもあって、希望する人は無く――だったらという事で友人が3人、そっちに行ってくれることになった。


「人手が増えてよかったですね」

「あぁ。でも畑の苗を増やした分、前以上に収穫が追い付かなくなってるからなぁ」


 以前だって野菜が欲しい冒険家が手伝ってくれて、それでもギリ追いついてなかった。収穫は朝昼晩と2回ずつ、計6回だ。人手があれば1日その倍は収穫してもいい。

 2交代の事を考えると、50人ぐらいは欲しいんじゃないかな。


「さぁ、しっかり働くぞぉ」


 最近は収穫作業も慣れてきて、ハサミで野菜を切る速度も速くなって来た。

 俺ももう立派な農夫だな……。

 

 順応力スキルのおかげで、感知による精神疲労は無くなった。もう一度冒険家を目指そう……そう思っていたんだけどなぁ。

 ここの人手が増えたら、本格復帰も考えるかな。


「いやぁ、豊くんの鋏捌き。見事だねぇ」

「僕なんか冒険家から畑仕事に鞍替えして4年経つけど、浅蔵くんのほうはベテランみたいだよ」

「あ、あはは。そうですかね?」


 そんな褒められたら、俺、頑張っちゃうぞーっ。


「ていていていていっ。あ――」

『ギョエエェェッ!』


 化けてたのがあった。

 あぁほら。今日から働きに来た新人さんが、一斉に青い顔しちゃったじゃないか。

 こりゃあ後で化け畑に行って慣れて貰わなきゃなぁ。


 そして翌日。俺の友人以外の5人のうち、2人は来なかった。

 新人教育って……難しい……。






 最初に化け野菜畑で「収穫しないで放置するとこうなる」というのを見せることにした。

 そしてこいつらの収穫は元冒険家か現冒険家か、そして俺たちかでやる事に。

 そうした事で、その後はここを辞めるアルバイトも出ず。

 10日もすると、アルバイトの人数は50人を超えて募集は終了。


「武くんのシフトを見ると、週当たりに入ってる日数が少ないみたいだね」

「はい。俺、冒険家になってダンジョン攻略にも行きたいんで!」


 あぁ、そんなこと大戸島さんも言ってたな。

 ここ1階でのモンスター討伐は禁止されている。レベル上げをしたいというなら2階に行くしかない。

 それ以前に冒険家登録をしなきゃならないんだが……。


「登録はもう済ませてるっすよ。バイトの電話入れたその日にこっち来て、登録して貰ったすから」

「行動が早いな……」

「考えるより行動! と言いたいんですけど、流石にひとりでやる訳にも……」


 そりゃそうだ。

 二階でのレベル上げパーティーが無いか、武くんも協会施設で探しているのだという。

 だが武くんのようにアルバイトと兼用でも入れてくれるようなパーティーはなかなか見つからないと。

 ダンジョン攻略は遊びじゃないってことなんだろう。まぁその通りだけど。


「瑠璃を守れる男にならなきゃいけないんっすけどね」

「大戸島さんを守る……ねぇ。はぁ、青春だなぁ」

「いや、兄貴もそんな年寄りでもないっしょ。おっさん臭いっすよ」

「ははは」


 おっさんか……はは。

 ま、そういう事なら手伝ってやるか。

 俺も……もう一度冒険家として、この図鑑スキルを使ってダンジョンの謎を探ってみたい。

 その為にもちょっとリハビリしなきゃならないもんな。


「武くんのレベル上げ。俺が付き合うよ。ただし過保護にするつもりはないからな。あと名前で頼む」

「マジっすか、浅蔵の兄貴!」


 いや、俺はどちらかというと、その『兄貴』ってのを……まぁいいか。


「ところでどのくらいレベルを上げるつもりなんだ?」

「うーん。瑠璃のレベルが17っすからねぇ」

「まぁそうだよね。彼女よりレベル低いのは悲しいよな」


 ということで、最低でも20。なんなら25ぐらいだろうか。


「じゃあ君のレベルが25になるまで、俺が付き合ってやろう」

「あ、俺、瑠璃一筋なんて浅蔵の兄貴とBLする気は無いっす」

「俺もだよ! そっちに受け取るなっ!!」


 ヤッパリーと笑う武くんだったが、その顔が一瞬で氷ついた。

 どうしたんだろう? 俺の後ろを見てガクブルしているが……なに?


 くるりと振り向くと、あぁ、そうかという状況が出来上がっていた。

 お約束だよな。

「瑠璃一筋」

 そんなセリフを口にした時に限って、聞かれてはまずい人が登場。


「きぃーさぁーまぁーっ! 今、なんち言うたかぁーっ!?」

「ひ、ひぃーっ。お、大戸島会長!?」


 さぁ、修羅場だぞー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る