第43話

「お前らだって奴の事嫌ってたんだろ! だったら少しぐらい感謝しろよ!!」

『チュチューッ!』


 泡吹いて気絶していたくせに、ジャイアンラットを倒して回復した途端、襲ってきやがった。

 恩を仇で返しやがった!


「浅蔵さん……モンスター相手にそんな事言っても……」

「セリスちゃん、浅蔵さんはネズミさんとお話してるんだよ~」

「それはそれでいろいろ問題あるんだけど」

「うらあぁっ!」

『チューッ!』


 鞭を唸らせるたびラットが吹っ飛んでいく。なかなか爽快で楽しい。

 

 ジャイアンラットを倒し陸橋へと上ると、その真ん中に望遠鏡のような物が設置されていた。

 100円入れると見れるようになるアレじゃね? だって覗いても何も見えないし。

 ほら、本体にお金を投入するところある――あ。


「ラット倒してゲットしたメダルって、まさかこれか!?」

「サイズ的に合いそうですね~」

「セリスさん。俺のリュックからメダル出して」

「はいっ」


 ゲットしたメダルは3枚。これがそうだとしたら、1枚でどのくらい見れるのか。

 試しに1枚チャリン。

 すぐさま覗いた望遠鏡は、確かに見えるようになっていた。


 ぐるっと見渡し、とにかく出口を探す。

 あった! ほぼ真正面だな。あとはそこまでの道のりを――っち。見えなくなったか。


「だいたい30秒ぐらいだな」

「短いですね。出口の方角は?」

「それは確認した。こっちの方角、ほぼ真正面だ」

「私も見た~い」


 そうは言ってもメダルは残り2枚だ。ネズミ野郎、なかなか落とさないからなぁ。


「出来ればもう2、3枚ゲットしておきたかったなぁ」

「じゃあ、集めますか~?」


 そう言って大戸島さんは陸橋下を指差す。

 跳んで火に入る夏の虫。

 そこにはのこのこやって来たラットたちが居た。






「よぉし。全部で10枚になったな。なんとか出口へのルートを確認出来ればいいけど」


 セリスさんと大戸島さんが自分のノートを出し、望遠鏡を見ながら線を書き込んでいった。

 それぞれ3回ずつ。

 2冊を照らし合わせながら、しっかりした線で新しく書き直していく。

 途中までしかメモできなかったが、あとは図鑑の地図を頼りに進んで行こう。


 前半戦より明らかに速いスピードで迷宮を進んで行き、おやつタイムには脱出に成功した。


 10階入り口であり、俺たちにとっての出口にはステータス板がある。


「やっと着いたな。ひとまず全員、ステータスを確認しておこう。ボス討伐報酬のスキルを確認しておきたい」

「えぇ~? 浅蔵さん、貰ったんですかぁ?」

「え? 瑠璃は貰えなかったの?」

「あぁ~っ。セリスちゃんまで~。ずるぃ」


 どうやら大戸島さんはお預けだったのか。

 不満そうに頬を膨らませる大戸島さんは、先に階段を上って踊り場で座り込んでいた。


「じゃあ確認しておくか」

「そうですね」



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浅蔵 豊 捕らわれのダンジョン人 25歳

 レベル:20

 筋力:C-  肉体:D-  敏捷:D+

 魔力:F  幸運:C+

【スキル】

 感知5

 順応力5

 ダンジョン図鑑3

 サポート1

 エナジーチャージ1


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 エナジーチャージか……これ、疲労回復系じゃないのか!?


「きた……きたかもしれないよセリスさん!」


 嬉しくてつい彼女の手を取ってしまい、慌てて離す。

 が、セリスさんの反応が鈍い。


「ボタン……なにこれ?」

「え?」



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セリス・時籐 捕らわれのダンジョン人 18歳

 レベル15

 筋力:E+  肉体:F  敏捷:D

 魔力:F  幸運:F+

【スキル】

 ラジオ体操3

 跳躍力2

 フットワーク1

 ボタン縫い1


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 彼女のステータス欄には、新しく『ボタン縫い』というスキル名が。

 あぁー……典型的なゴミスキルだな……。きっと『綺麗にボタンを縫い付けられる』とか『ボタン縫いが早い』とか、そんな効果だろう。


「え、えっと……あ、ほらさ。結婚とかして子供が出来れば、とっても役に立つスキルじゃないか?」

「へ? け、結婚!? こ、子供ですか!? や、やだ、どうしよう。急にそんな事言われても……」

「え?」

「え?」


 何故そんなに顔を真っ赤にしているのか。何故そんなに慌てているのか。

 二人で茫然と見つめ合い、最初に視線を逸らしたのはセリスさんだった。


「や、やだ! わ、私ったらひとりで勝手に勘違いして……あ、な、なんでもないです。なんでもっ」


 そう言って階段の踊り場へと駆けて行った。

 何を勘違いしたんだろう?

 女の子って、難しいなぁ。


 とぼとぼと階段を上る俺に、大戸島さんが悲鳴のような声を上げ呼んだ。


「浅蔵さん! 大変です~っ。大変なの~っ」

「どうした?」


 スマホを充電していたのだろう。ハンドル式懐中電灯とスマホを抱えて階段を下りてきた。


「メールがっ。従兄のお兄ちゃんからメールが届いたんです!」

「な、んだって!?」


 彼女の持つスマホを覗けば、確かにそこには『生きているか? 瑠璃』と書かれたメールが表示されていた。

 差出人の名前は『小島芳樹』。


 あれ? 俺の知ってる冒険家であり、同級生であり、同じ仲間であり、今の会社を紹介してくれたあいつと同姓同名じゃないか。

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