第138話

 俺の部屋には芳樹と、あと虎鉄とミケが集まった。

 虎鉄は興味本位で、ミケはリビングがわたわたしているから落ち着ける場所を求めて来ただけだろう。

 俺たちが家に入った時、セリスさんと大戸島さんに何故か一度追い出された。数分して入ってもいいよと言われたが、アレはいったいなんだったのか。

 何か作っているようだったけど、布が被せられていたのでさっぱり分からない。

 芳樹は何か知っていたようで、ニヤついていた。


「よ……と」

「うまい具合にテープで隠してるよなぁ。普通に表紙の装飾に見えるぞ、それ」

「セリスさんが貼ってくれてるんだ。あとでまた貼りなおしてもらわなきゃな」


 ビリーッってやってもページが破れることはないんだが、どうにも慎重になってしまう。

 マスキングテープを剥がして中表紙を見ると、図鑑のレベルが22まで上がっているのが分かった。

 予想以上に上がってるな。


「新しく追加された機能は――」


・・モンスター情報のコピー機能 (LV15)

・・DBP付与+50000 (LV20)

・・マッピング範囲の拡張 (LV22)*半径25メートル


「このモンスター情報のコピーって……いるか?」

「ゴミ機能だな」

『捨てられるにょか?』

「捨てられるもんなら捨てて、新しい機能が欲しいもんだ」


 例えばアイテムの完全コピーとか。

 しかしDBPの付与5万は嬉しい。

 嬉しいが、手持ちの17万DBPにこのポイントは加算されているのかな?

 気になるのはテキスト文字の色だ。何故かこれだけ赤い。


「その赤い文字、気になるよな。触ってみろよ浅蔵」

「なんで俺が」

「お前の図鑑だろ」

『にゃー。あっしがポチっとにゃー』


 虎鉄が触った。だが何も起きない。

 仕方ないので俺が触れると、図鑑からチャリンっという音がしてテキスト文字が消えた。

 消えた!?


「今、お金の音したよな」

『にゃんか鳴ったにゃねー』

「お前らにも聞こえたのか? っていうか図鑑機能一覧から今の項目消えたぞ。どうなってんだ?」


 消えはしたが、特に新しい機能が追加されることもなく。

 マッピングの拡張項目が上にずれただけだった。


 図鑑の後ろ側を開き、ポイント表示の部分を確認すると、そこには『221,200DBP』という文字が。


 増えた!

 さっきは17万超えだったのが、だいたい5万分増えてる。


「うぉ。ポイントめっちゃ増えてるじゃないか。地図コピーしまくれるな!」

『あさくにゃ! 貝柱コピーするにゃ!! 貝柱コピーするにゃ!!』

『んな? うにゃ~ん、うにゃぁ~』


 こいつらバカだろ。ミケまで貝柱の単語に反応しやがって。

 地図はそもそも1枚コピーすればいいわけで。これそのものはコピー機で複製できなくても、模写スキルで紙に書き写して貰えば、それ自体はいくらでも複製が可能になる。

 貝柱は28階に行けばいくらでも拾えるだろ!


「メイド服もいいよなぁ」


 俺が持つ図鑑を勝手に捲っていた芳樹が、鼻の下を伸ばしながらぽつりと呟いた。


「木下さんに着せるのか?」


 俺がそうツッコムと、芳樹は顔を真っ赤にして首を振った。

 図星だろ?


「とにかくポイントの無駄遣いはしないっ」

『うにゃーっ』

『にゃうっ』

「やっぱダメかぁ」

「当たり前だろ!」


 そんなものにポイント使うぐらいなら、施設の件を本気で考えるだろうっ。






 暫く芳樹とも施設の件で話をしたが、エスカレーターはセーフティーゾーン消失を考えるとやっぱり危険だという判断に。


 温泉はありがたいが、じゃあどこに設置するかで悩む。

 ただの温泉なら地下1階でいいんだよ。だけど回復効果付きだからなぁ。

 安全な1階に設置したって、上層階でちょっと怪我した程度の人しか利用できないだろう。

 今この瞬間に必要だ! って時に使えない位置になるんじゃ、意味がない。


 闘技場はただのレベリング用なら、その階層に行けばいいって結論になる。


 ガチャは……。


「夢があるよな」

「あるけど、設置したダンジョンで拾えるアイテム限定だからなぁ。超レアとか出るからいいが、そもそもここのダンジョンでレアって言ったら……」


 カンガルーのポケットはいい。

 個人的に鞭もいい。

 他のパーティーの話だと、レアっぽいものでは剣が一本出ているとのこと。

 某ゲームにあった、2回攻撃が出来る剣だ。

 まぁ実際には2回攻撃しているんじゃなくって、攻撃で傷をつけると、ワンテンポ遅れて同じ傷がもう一か所できる。そんな感じらしい。


 で、他にいい物は?


「……ガチャ回して鞭が出たら、俺泣くな」

「なんでだよ! レアじゃん!」

「いらねーよっ! ゴムみたいにぶよぶよしてる鞭なんて、誰も喜ばねーだろ!」

「俺は嬉しいね! めっちゃ嬉しいっ」

「お前だけだろ!」

『貝柱出たらあっしは嬉しいにゃね~』

「百歩譲ってメイド服なら喜んでやるよ」


 話が平行しているような気がする。


 まぁそんな感じで、結局施設の話は保留することになるわけだが。


 芳樹が帰って一息ついていると、ドアをノックする音がした。


「あ、浅蔵さん。まだ起きとると?」

「あ、うん。今から風呂に行こうと思ってたところだ」

「そ、そうなん? お風呂の前にちょっといい?」


 なんだろう?

 そう思って部屋から出ると、どこかで見覚えのある純白のエプロンをつけたセリスさんが立っていた。


「そ、そのエプロンって……メイドロボからの?」

「う、うん。汚れても拭くだけで綺麗に落ちるけん、便利なんよ」

「へぇ。そんな機能があったとは。それで、用事って?」

「う、うん……」


 エプロン姿。後ろに回した手に何か持っているような気がする。

 そんな状態でもじもじされたりしたら、かわいくて仕方ないんですけど。


「浅蔵さ~ん。明日、14日ですよぉ。何の日か忘れたんですか~?」


 なんて声がキッチンのほうから聞こえてくる。


 14日?


 14……14?


「バ、バレンタインばいっ。チ、チョコ好き?」


 そう言ってセリスさんは、ラッピングされたビニールの包みを差し出してきた。



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そろそろ隔日更新に・・・

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