第151話
省吾の黒曜石シールド劣化版は、確実に奴の攻撃を跳ね返した。
そしてクリーンヒットしたはず。
「効果……なし?」
『あさくにゃー。あいつ、光属性のモンスターにゃー』
「は? ひか……自分の攻撃はまったく受け付けないってことか!?」
「え? じゃあ私のホーリー・エンチャントも……もしかしてあいつの傷を回復させてるんじゃ!?」
見たところ、跳ね返った光弾を受けて回復している様子はない。
と言っても自信はない。
なんせダメージをあんまり与えられてないからなぁ。
「残り時間は!?」
『え? あと35秒で次の──』
「そうじゃなくって制限時間までだよ!」
『あ──もう2時間切ったぞっ』
ちっ。
検証だのコピーだのして、かなり時間を使ったからな。
だが必要なことだったんだ。
次の光弾の前に確認しておくことがある。
「セリス! 俺が奴を殴ったらすぐに付与状態で突けっ」
「でも」
「回復しているかどうか、確認する!」
「わ、わかったばい」
「しっ──」
省吾や芳樹が奴と接近しているのでビーム・ウィップは使えない。
奴の正面に省吾、背後から芳樹が攻撃しているので、俺とセリスが右側面に。その斜め後ろから翔太が曲がる弾道で攻撃を続けている。
付与も、火や電気が流れる特殊攻撃もせずに、ノーマルな鞭による攻撃を行った。
一度パシッと攻撃し、返す刀のようにくんっと引いて先端の刃を立ち上がらせて引っかく。
わずかについた傷に向かって、セリスさんが薙刀を走らせた。
パシュっと皮膚が裂け──回復はしない。だが傷もついていない。
俺の目には彼女の薙刀を覆う光が、奴の皮膚に弾かれているように見えた。
「回復なし。ダメージもなしっ」
「そんな……じゃあどうすれば」
「俺が相殺で付与を消す。誰かの回復をするときにだけまた付与して、攻撃に参加するときは俺か分身が相殺するっ」
「お、お願いっ」
とにかく今は全力で攻撃するしかない!
「そうだ! 俺の相殺で奴の光属性を解除すれば──」
『あさくにゃー。あいつは付与魔法で光になっているんじゃにゃいにゃよ。元々光なんにゃー。だから無理にゃよ』
「ぐっ、それもそうか」
「おいおい、浅蔵。猫にまで諭されてんじゃん。ってか賢いな、お前」
芳樹に褒められご満悦の虎鉄だ。
く、悔しくなんかないからな!
他に何か、他に──そうだ、図鑑は最強!?
鞭使いとしては、攻撃を図鑑に頼るのは正直辛い。自分を否定しているようでな。
だけど今はそんなこと言っていられるか!
「おおぉぉぉっ!」
省吾が注意を引きつけている間に、なるべくヒット&アウェイを意識して図鑑の角を振り下ろす。
ゴッ。
竜神の横腹にヒットした図鑑。
だけど……おいおい、信じられるかよ。今まで図鑑でたいていの物は殴って破壊できたってのに。
青染みみたいなの作っただけ!?
表のドラゴンもワンパンでは鱗を破壊できなかったし、それより硬いってことか。
くっそっ。
「あ、あの。芳樹先輩」
「んあ? どうした心愛」
今、芳樹が木下さんを名前で呼び捨てにしたぞ。
これが終わったら冷やかしてやろう。
「わ、私の氷付与──あいつに使えないかな?」
「「え?」」
「尻尾!」
『任せろっ。あと二人手伝ってくれっ』
『オッケー』
木下さんは氷属性を付与するスキルを持っていた。
下層を目指すためにとボス周回した時に取ったものらしい。
氷魔法ってのはよく聞くけど、属性付与としてはどうなんだ?
付与なら氷じゃなくて水だろと思わなくもない。
「でも付与スキルって、武器とか防具じゃないと?」
「それが──説明では……」
触れた対象に氷属性を付与する。
と書かれていたそうだ。
武器に、防具にと限定された付与もあれば、装備にと書かれた付与スキルもある。
俺のビームはスキル名にウェポンとあるので、まぁ武器限定だろうな。
一度試しに分身の鞭にかけようとしたができなかった。術者限定スキルってことだ。
スキルの説明に意味があるとしたら、木下さんの付与スキルは装備に限定していない──かもしれない。
分からなければ試してみるまで!
三人の分身が竜神の尻尾を鞭で絡めて固定。
触れることでスキルが発動するパターンだが、正面や背後では手足の攻撃も飛んでくる。
そんな中に運動系や回避系スキルのない彼女を飛び込ませるわけにはいかない。
幸い奴の尻尾は2メートル程あって長い。
「木下さん!」
「はいっ──"氷付与"」
彼女の指先がちょんと尻尾に触れる。
すると。
尻尾の先からうっすらと霜が降りたように白くなりはじめた!?
「甲斐斗おおぉぉぉっ」
「任せろっ──"ライトニング"!」
氷──水とは異なる属性だが、弱点は雷と風。
甲斐斗の得意な雷スキルは有効打になる。そして──
『"シュババッ"にゃーっ』
虎鉄のシュババは風属性だ。
二人の攻撃で竜神の皮膚が赤く染まっていく!
いける。
これはいけるぞ!!
「付与の効果、60秒です! 再使用まで……ごめんなさい、3分ください」」
簡単にはいかなさそうだった。
『"シュババッ!"』
「──"一閃"!」
虎鉄と芳樹が息を合わせて攻撃を仕掛ける。
「"バーサク"!」
セリス!?
ここで使うのかっ。
スピードアップに攻撃力上昇は確かにこの場面で必要かもしれない。けど相手はボスだ。一撃で命の危険だってある。
「分身! セリスを──はやっ」
セリスを守るんだと言おうとしたが、彼女の周りに俺が五人いた。
ふ……俺だもんな。考えることは同じか。
木下さんの付与が入っている時間は全力で攻撃をする。
切れれば体力温存を優先。
時間はかかるが、確実に奴を仕留める選択をする。
けど……
木下さんの付与もこれで何度目だ?
どのくらい続いているんだか、もう分からなくなってきた。
下手をすると1時間、いやもっと続いているかもしれない。
残り時間は?
焦ってはダメだと思っても、制限時間があるのだから焦って当たり前。
付与のおかげで確実にダメージを与えられるが、いかんせん硬い。
俺のビームは氷付与のせいで逆に火力ダウン。そもそも乱戦では使えない。
セリスも攻撃より、回復に回る回数が増えてきた。
奴の腕の一振りで骨がやられる。蹴りなんてまともに食らうと、内臓がやられてしまう。
すぐに鳴海さんやセリスが治療に走り、時には分身で量産したポーションをガブ飲み。
だがヒールでもポーションでも、体力までは回復しない。
疲れた。
そんな疲れから、体が思うように反応しなくなることがある。
『──55!』
竜神の光弾のタイミングを計っていた分身の声が聞こえた。
全員が慌てて盾持ち分身のそばに移動しようとした瞬間──
「ぐっ」
省吾の低く呻くような声が聞こえた。次いでどだりという音。
見れば竜神が羽ばたき、その風圧で省吾が地面に倒れていた。
風の衝撃は吸収しないってことか?
「やばっ──」
「省吾、構えろ!」
奴の口がパカっと開く。
そして光弾が省吾に向かって──放たれた。
「ぐあああぁあぁぁぁぁぁっ」
「省吾っ」
「省吾先輩!?」
「添田あぁぁっ!」
視界の隅で血しぶきがあがった。
寸でのところで盾を構えた省吾だったが、光弾が足に命中。
省吾は、右足を失った──。
どうする……どうする!?
盾はある。俺が持っている。
なら俺が省吾の代わりに盾役に!
「省吾先輩っ。そ、そうだわ、蘇生ソーダ!」
蘇生……ソーダ?
かけると炭酸みたいに泡がぶくぶく出て、体の欠損した部分を再生する?
「けどそのサイズじゃちょっと回復するだけだ。くそっ」
芳樹の言葉からすると、少量の瓶か。
なら──
「芳樹、それをこっちに寄こせ! 俺が10本増やしてやる!」
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