第87話
色相環とは……俺は知らない。とりあえず赤に黄色混ぜるとオレンジ、黄色に緑を混ぜると黄緑みたいな、基準になる色に次の色を足してそれを円で色見本を現した物と言えばいいのか?
プリントアウトされた紙には12色の物と、中間色をもっと増やした24色の物とがある。
こうしてプリントアウトされていても、微妙な色の違いで分かりにくい物もあるんだな。
色見本の上に英数文字が書かれていて、虎鉄が言ったのは『1:pR』という赤紫色のようだ。
確かに扉の色とよく似ている。
「この数字の1ってのは……1番の『1』だと思うか?」
「どうだろうな。次の所まで行って鑑定してみないとな」
「じゃあ行くぞ。ふんっ"
省吾が赤紫色の扉を開け、中へと入る。扉の向こう側が異次元空間を演出するかのように、マーブル模様が蠢いている。
甲斐斗が続き、俺と、肩に乗った虎鉄がそれに続く。
「なんだ。グレムは居ないのか」
入って早々、甲斐斗の声が聞こえた。
感知はしている。だが角を曲がった通路に一体居るだけだ。
「左に一体。それだけだ」
『にゃー! あっしぃっ』
「おいこらっ」
虎鉄が『あっしの獲物』と言わんばかりに駆け出そうとするので、ひょいっと抱え上げて制止させる。
虎鉄という名前がマズかったのか。猫というより肉食獣だ。しかも鉄砲玉のように飛んでいくし。
省吾と甲斐斗の二人でグレムを倒す間、正面の赤い扉の鑑定をさせておくか。
「虎鉄。お前にしか出来ない仕事だぞ。お前
『にゃっ』
尻尾をぴーんと伸ばし、髭もシャキーンとなった虎鉄。チョロいな。
頼られて嬉しい虎鉄は、大人しく俺に抱かれて扉までやってきた。
『にゃんてい?』
「そう。鑑定だ。あ、竹下さん、さっきのアルファベットが書かれたノートを」
「あ、はい」
赤紫色の扉『1:pR』から出てきた竹下さんが、ノートを持って駆けて来る。
既に虎鉄は鑑定を発動しているようで、にゃにゃにゃ言ってノートを寄越せと訴えていた。
俺は虎鉄を抱きかかえたまま、こっそり肉球を触って癒される。いやそうじゃなくって、虎鉄が竹下さんの持つノートの文字を指差すのを、じっと見つめていた。
「『2:R』これだけか?」
『にゃー』
「浅蔵さん、2Rあるばい」
セリスさんが24色の色相還を指差しながら言う。
「12色のにはそもそも1が無いけん、24色じゃないと?」
「かなぁ? 一応念のため他の二つも鑑定しておくか」
虎鉄を抱っこしたまま右の扉へとやって来た。扉の色は白だ。でも……色相環では白色は無い。
鑑定の結果は『#ffffff』というもの。こっちはカラーコードだな。
なら左側は……。
「『7:rY』……色相環か。でも1から順番があるとすれば、これじゃないよな」
「まぁなんでも試してみるか。よし省吾、2の赤い奴に行ってくれ」
「オケ」
芳樹の号令で正面にあった赤い扉を潜ることになる。
その先も特にモンスターの姿は無く、突き当りの通路の左右には、それぞれ赤っぽい扉と青っぽい扉があった。
どちらも色相環にある英数字で表示されているが、赤いほうが『3:yR』。青い方は『16:gB』だった。
「順番……だよな?」
「じゃあ24色の扉を順番通りに進めば抜けられるのかなぁ」
翔太の言葉に頷く者は居ない。扉24枚でゴールまで行くのは無理だろ。面積のことを考えても。
とにかく今は色相環の順番通りに進んで様子を見るしかない。
そして5番目の扉、『5:O』を潜った後感じた違和感……。
「なぁ……モンスター、少なくないか? 俺の感知範囲に1、2匹しかヒットしないんだが……」
それだって壁の向こう側だ。襲われることは無い。
嫌な予感がする……。
「どこかに溜まってる……モンスターハウス化してるってことか?」
芳樹の声は重く、うんざりしたような表情を見せた。
『俺が囮になればいいんだな』
「そう。俺が……じゃなくって、お前が囮になって先に扉を潜ってくれ」
最初に扉を潜るのは省吾ではなく、俺――の分身だ。
念のため、分身がダメージを受けると本体である俺に影響があるのかどうか、確認はした。
結果、分身をくすぐっても俺は平気。抓っても平気。分身を解除しても、それらダメージが還元されなかった。
『あさくにゃ~』
ピトっと、虎鉄が分身の俺にすり寄る。
『虎鉄、行ってくる』
『にゃあぁぁ』
「浅蔵さん、気を付けて」
『セリスさん、ありがとう。君は無事でいてくれ』
「どこの昼メロだ! いいから早くっ」
妙な感動シーンを挟もうとする分身を促すと、ひらひらと手を振って扉を潜って行った。
5秒後に省吾が、そして甲斐斗と俺、虎鉄といつも通りに飛び込む。
『残念。なーんにも無し。ただ……』
「あぁ。分かってる。っていうか、お前も感知できるのか?」
『出来る。お前の分身で、能力を完全コピーしているみたいだからな』
感知でモンスターの気配を察知している者同士、俺たちは一点を見つめた。
壁の向こう。そこにモンスターが固まって湧いている。
「モンハウか?」
「だな」
芳樹たちも俺たちが見つめる先を睨んだ。
「豊、地図で位置を確認してくれ」
そう言って春雄が分身の俺を見る。
分身は苦笑いして俺を指差し、
『悪い春雄。分身の俺は図鑑を出せないんだ』
「お? そうなのか。ていうか、分身だったのか……双子とかいうレベルじゃないぐらい、そっくりだからなぁ」
「そっくりというか、まんま俺なんだけどな。図鑑は俺――いや本体専用なんだよ。位置は――っと」
「浅蔵先輩、こっちの地図で教えてください」
図鑑の地図で見た位置を、竹下さんが持つ地図で指差す。一昨日の地図埋めの時に行った事のある場所で、コピーされた地図にはちゃんと表示された場所だ。
「一昨日と昨日とで、俺たちが倒したグレムの大半がこの通路に
「こういう事ってあると?」
「迷宮系の構造だとたまにね。倒したモンスターはある程度時間がたつと、またどこかに復活するっていうのは話したっけ」
「聞いた気がします」
迷宮タイプの構造だと、どうしても復活できる場所が通路と限られている。まさか壁の中に湧く訳もないからな。
そしてたまたま偶然、狭い範囲で復活したモンスターが居て、それが倒されず、また別の所で倒された奴がそこで復活して――そうして出来上がるのが、狭い範囲にモンスターがひしめき合う『モンスターハウス』だ。
「普通の通路でモンスターハウス化しているなら、少しずつおびき寄せて倒していくってことも出来るけど」
『ここは扉を潜ったらまったく別の場所に出てしまう。その上、短い通路を進むとまた扉だ』
「つまり――」
俺と分身とでセリスさんに説明する間、彼女の頬がだんだんと赤みを帯びてくる。
モンスターハウスを想像して、恐怖に駆られているのかもしれない。
だが現実を話しておかなければ、それへの対応策も講じられなくなる。
「『つまり、扉を潜った先に大量のモンスターが居る……なんてことになるんだ』」
「は、はぃ」
彼女はぽぉっとしたような表情で、俺たちを見ていた。
だ、大丈夫かな?
「お前もほんと、馬鹿がつくほど罪な男だよなぁ」
「は? 何言ってんだ芳樹。セリスさんにはちゃんと説明してやらないと、知らずに飛び込んだら大変だろ」
『そうだぞ芳樹。何も知らずモンハウに飛び込んで彼女が怪我でもしたらどうするんだ』
「そうだそうだ。俺は嫌だからな。セリスさんが怪我するなんて」
「あぁ、だからお前ら早く付き合っちまえよ」
「『な、ななな、なんでそうなるんだよ!』」
そんな恥ずかしい事サラっと言うなよ!
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