第48話

「エナジーチャージ? 首筋から相手の元気を吸い取って自分の物にするってのか?」

「なにその変態スキル」


 そう言って俺を蔑むような目で見るのは、例の後輩女子だろう。

 俺の友人5人+後輩女子2人、あと知らない冒険家が6人となかなかの大所帯だ。


「瑠璃は豊に手を出されたりしてねーか?」

「おい芳樹。人聞きの悪い事言うな! 俺は誰にも手を出してないからなっ」

「そうよお兄ちゃん。浅蔵さんはセリスちゃんの首に吸い付いてるだけなんだから~」


 全然フォローになってない……。


「それで、他に生存者が居る可能性は?」


 一番年長者の冒険家に問われ、俺は彼らを手招きして10階へと降りる。


「この階層に、スライムに食われただろう痕跡がありました。服や肌着、靴が一式落ちてるのを見ましたから」

「そう……ですか。他にも見ましたか?」


 俺は頷き、21階層で見たものを話す。


「生きている人は見ていません……俺たちが生きていたのだって、そもそも幸運だったんでしょうから」


 25階の巨大スライムに車ごと突っ込んだ事で、落下の衝撃は和らげられた。衝撃があればエアバックが作動するはずだが、それもなかったしな。

 そしてスライムの体内で溶かされなかったのは、一撃で核を破壊できたからだ。それでも俺の愛車はボロボロだったけどさ。


 幸運な偶然が積み重なって、俺たちは生きている。


「各階層全てを歩いた訳ではないので、どこかに生存者が居る可能性はゼロではありません……でも、難しいと思います」

「そうだな。もう50日以上も過ぎているんだ。どこか安全な場所があったとして、食料が続くかどうか」

「俺たちはホームセンターに逃げ込んで、そこには十分な食料がありました。上へと進む間にスーパーも見つけたので、食料の心配はしなくて済みましたが」


 それだって元々落ちた場所がホームセンターの近くだったからだもんな。スーパーもそうだし。

 21階にあったホームセンターの近くで生成に巻き込まれた人が居れば……いや、落下時の衝撃で即死だろう。


「階層のマッピングは行っていたか? もしやっていたならそれをくれ。俺たちはもう少し下層まで潜って救助を続ける」

「あぁ……地図の事なんですが……」


 アイテムコピーの件は伏せ、俺は取り出した図鑑を彼らに見せた。これがスキルだということもだ。


「便利なもんだな」

「これ、借りてもいいです? こっちでノートに書き写したいので」

「残念ながら、俺が手を離すと――こうなるんです」


 実際に図鑑から手を離して見せると、落下前にそれは消えた。

 スキルによるものなら、そういうのもありだと6人はアッサリ納得。


 そういや、図鑑レベルが上がって地図のコピーも出来るんだったな。地図のコピーにDBPいくつ必要なのか……。

 これをコピーするぐらいはいいよな。まぁとりあえずポイント次第だ。


「図鑑に記載された地図は、ポイントを消費することでコピー出来ます。今まで必要なかったんでやってないんですが、少ないポイントで出来るならコピーしますよ?」

「そんな機能まで?」

「ただ俺が歩いた場所しかマッピングされないんで、虫食いだらけの地図ですが」

「でもスタートからゴールまで書かれてるんだよね? 生存者が万が一居るとしたら、その虫食い部分だろうし」

「出来れば最下層までの地図をコピーして貰えるだろうか?」

「最下層は……実は――」


 俺たちは空いた穴から這い上がった。最下層はその部分と階段付近しかない。ハッキリ言って何の役にも立たないんだよな。

 そこで10階から24階までの地図をコピーすることになった。計15枚だ。


 だが地図のコピーに必要なポイントが予想以上だ。

 1枚コピーするのに1000DBP必要だと?

 今の残りDBP幾らあるんだよ。あんまり気にしてなかったけど……お、おぉ!?


「7万超えてた……」

「ん? 何か言ったかい?」

「いえいえ。獲得ポイントも結構溜まってたんで、全ページコピー出来そうです」

「そりゃよかった。助かるよ」


 24階までを全部コピーし、更にスーパーやホームセンター、あとパチンコ店の位置も手書きで追加した。

 図鑑だと直接書き込むこと出来なかったんだが、コピーした奴には出来るんだな。


「スーパーの食料はまだまだありましたし、21階のホームセンターにもお中元の缶詰とかカップラーメン系も揃ってます」

「缶詰かぁ」

「いいねぇ。ダンジョンで飯の心配しなくていいってのは」


 翌日、彼らと別れるときには手持ちの食料の大半を分けようとしたんだが……いやいやまさか。アイテムポーチを持っているとはね。

 その大きさ、ざっと畳10畳のサイズ。うん。そりゃあ長期滞在も出来るよね。本格的なキャンプ用テントで、寝袋も人数分持参。

 まぁ食料はあって困る物じゃないからと貰ってくれたけど。


「じゃあ俺たちも出発すっか」

「あぁ、行こう」


 こうして俺たちは芳樹のパーティー7人に守られながら地上へと目指す。

 芳樹たちがマッピングした地図を見ながら進むので、ほぼ迷うことは無い。どこかで道を間違えたか? と思えば、俺の地図と照らし合わせて正解を導き出す。

 そうして53日目には9階層、8階層、7階層をクリアした。


「いやぁ、お前のサポートってマジでいいな」

「まったくだ。3階層ぶっちしたのに、そんなに疲れないんだからな」


 お前らが疲れないだけで、俺は疲れるんだよ……。

 6階へと上る階段で今日は野宿することになる。踊り場ではまず、夕食の準備をするためのレジャーシートが敷かれた。

 人数が多いので、テントを張るのは後回しだ。


 みんなは元気に作業をするが、俺はちょっと休みたい。休みたいけどそうもいかないよなぁ。


「あぁ、豊」

「ん? なんだ芳樹」

「イチャイチャタイム始めていいぞ」

「イ、イチャイチャタイム!?」


 芳樹はセリスさんを指差しそう言った。指差された彼女の顔は真っ赤だ。


「ち、違う! 断じてイチャイチャタイムじゃないぞっ」

「そ、そうですよ!」

「イチャイチャじゃなくって、チューチュータイムだ!」

「そうです、チューチュー、え?」

「誤解だから。俺たちはイチャイチャしている訳じゃない! チューって吸ってるだけだから!」


 誤解を解くのは大事な事だ。勘違いされたままだとセリスさんが可哀そうだし。

 ん?

 なんかみんなの様子が変だな。


「お兄ちゃん。浅蔵さんって~、あぁいう感じなの~?」

「あぁ。あいつ、ちょっとズレた天然だからな」

「は? 待てよ。俺のどこが天然なんだよ。全然違うだろ? それに俺、一度も天然だって言った事ないから」

「まぁこれだしねー」

「天然キャラは自分で天然ですって紹介すると、本気で思っているようだしな」


 そりゃそうだろ。天然じゃないんだし、自分が天然っていう訳ないじゃん。

 何言ってんだこいつら。

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