第五十七話 魔導ハイA
「じゃあこの試作品の魔導炊飯器はここに置いていくからの」
「いらんいらん。うちにはクレアがいるんだから。それにこれ一升炊きだろ? 足りんわ」
下手したら一人前だぞ一升って……。
俺も何を言ってるかわからんが、実際一升程度あっという間になくなるんだからしょうがない。
「亜人国家連合への贈り物とかに使えばいいじゃろ」
「なるほど。確かにそれなら有効に使えるな。それならありがたく貰っておく」
「じゃろ?」
「あとクレアの取り分なんかはアイリーンと調整してくれよ」
「むむむ」
「こちらは大きく稼ぎたいわけじゃないからそんなに心配しないでいいぞ」
「わかったぞい。しかしアイリーンの嬢ちゃんは金の話になると怖いんじゃよ……」
アイリーンはやり手だからな。無能領主のもとで、平民出身な上にあの若さで財務担当ナンバー2にまでのし上がった実力者だぞ。
まあ魔導士協会に厳しいのは、多分金で縛り付けてこちらの影響下に置きたいって理由が大きいと思うが。
実際星型要塞の城壁建築は全部魔導士協会にやらせたからな。恐ろしい。
「その件に関してはこちらからもアイリーンに念押ししておくから。っと……そうだな、ここにアイリーンを呼んで魔導士協会の連中と折衝させるか。クレアも参加させれば勉強にもなるだろうし」
「わあ! 是非参加してみたいです!」
「実際にどの機能に関してアドバイスしたとかそういうのはちゃんとメモっておくんだぞ」
「はい兄さま! ありがとうございます!」
「トーマはこっちの味方なんじゃろうな?」
「パテント料の金額に関しては譲る方向で意見は出すけど、今後のことを考えればある程度は設定しておきたいし、勝手にクレアプロデュースとあちこちに手を広げられても困るからそのあたりの決めごととかだな。なので基本アイリーン側だぞ」
「うーむ。うちにそのあたりの交渉ごとに強いやつおったかのう」
「爺さんとコスト計算に強いやつ数人でいいんじゃないか?」
「そうじゃの。誰か見繕っておくかのう」
「じゃあ次は魔導駆動車か」
「そうじゃな。外に停めてあるぞい」
「兄さま、朝ご飯とここの片づけはしておきますね」
「悪いなクレア。頼む」
片づけをクレアに任せて爺さんと二人で外に出ると、日本で見たことのあるアレが玄関前に駐車していた。
ちなみにボディーカラーは黒だ。傷とか大変そうだな。
「どうじゃトーマ! そっくりじゃろ⁉」
「いやいやいやいや。なんで瓜二つなんだよ。完全にアレじゃねーか」
「魔導ハイAじゃ!」
「アカン」
「何故じゃ!」
「さっき言ったろ爺さん。無駄にあちこちに喧嘩売る必要はないと」
「ふと思ったんじゃが?」
「なんだ爺さん」
「ルビが無いとなんて呼ぶかわからんのじゃないか」
「うるせー馬鹿。エーって読んでおけばいいんだよ」
とんでもないなこの爺さん。と思いながらも魔導ハイAを眺めていると、これまた無駄に凝ってやがる。
ホイールの素材はわからんがアルミホイールだし、タイヤ自体にも石橋さん的なブランド名も入ってる。
一番問題なのがフロントのメーカーエンブレムやハッチバックの車名ロゴまで完コピだ。ナンバープレートも無意味に装備されてる。
カタログそのままコピったからか、番号でなく車名が入ってるけど。
「どうじゃどうじゃ? すごいじゃろ?」
「アホか爺さん。どう考えても機能的に意味がないものまでコピーするんじゃねー」
俺はそう言って、マジックボックスから大型のサバイバルナイフを取り出す。
「トーマよ、何をするつもりじゃ?」
「エンブレムとか色々剥がすんだよ、危険だし必要ないしな。こだわるなら開発資金を停止するぞ?」
「ぐむむ……。わかったわかった。それはこちらでやっておくから」
「頼んだぞ爺さん。んで次は車内か」
「内装もすごいんじゃぞ!」
もう大体予想は付くけどな! 心の中で毒づきながら運転席のドアを開けて早速乗り込む。
就職に必要だからって養護施設の先生がわざわざ普通自動車取らせてくれたけど、結局お返しできなかったな。
「ハンドルのエンブレムはまあ予想通りだったが、本当に日本で見たままだな」
「質感はわからんかったが、乗り心地の良さは問題ないと思うぞい」
助手席のドアから乗り込んできた爺さんがドヤ顔で説明する。
「ワイパーもついてるし、これ手元のレバーとかもちゃんと同じように連動してるのか?」
「仕様書や取扱説明書もあったからほぼ完全に作ったからの」
「本当に無駄な才能を発揮するのな。作るって決めてから一週間経ってないだろこれ」
「設計だけはしておったと言ったじゃろ」
「そういうところなんだけどな」
オートマ仕様だし、アクセルペダルやブレーキペダルも俺が知ってる車そのままだ。そのまま運転できそうだけど、試運転するなら周囲を護衛の騎兵できっちり守らせて移動しないと領民が近づいてきて危険かもしれん。
「エンジンは座席下か?」
「そうじゃ魔導エンジンじゃがな。同じサイズで作れたので同じ場所に格納しておる」
「燃料タンク以外は一緒ってことか」
「そこには魔石を入れておるぞい」
「そうか、魔石の魔力で動くんだっけ」
「極小魔石でもなんでも魔石なら入れておけるようにしたからの。使い勝手は良いと思うんじゃが」
「確かにでっかい魔石一個取り付けて、そこに魔力充填をして使うよりは使い勝手良さそうだな」
「魔石の詰まったカートリッジごと交換可能じゃし、大量にカートリッジを積み込めば長距離移動も可能じゃぞ」
「無駄に凝ってるけどカートリッジ式は良いな。カートリッジ一個でどれぐらい走れるんだ?」
「極小魔石だけで満たしたカートリッジなら十キロくらいかの」
「うーん、微妙だな。というか無駄な機能を削れば十倍くらいに伸びるんじゃないのか?」
「無駄な機能なんてないじゃろ」
爺さんがアホなことを言い出したので、俺はプッシュスタートキーを押してアクセサリーをオンにする。
ワイパーのレバーを操作してウインドウォッシャー液を出し、フロントガラスを洗浄して見せた。
「爺さん、このウォッシャー液は?」
「もちろん魔法で生成してるぞい」
「無駄に魔力を使うなっての。あらかじめ水入れておくタンク設置するだけだろうが」
「えー」
「うるさい、これから無駄な場所を全部洗いだすぞ。じゃなければ量産の許可は出さないからな」
「トーマは本当にロマンのかけらもないのう」
「そんなロマンは必要ないわ」
その後、昼飯が出来たとクレアが呼びに来るまで、俺は爺さんに無駄な機能をひとつひとつ説明したのだった。
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