第五十二話 特産品
『会議終わったら官営商店でチョコレート買って帰ろう』
『いやチョコレートも原料のカカオマスもまだ売ってないらしいぞ』
『今日の晩御飯は何かのう。でも婆さんの作る飯なんじゃよなあ』
おやつに出したチョコレートラスクが好評だった。あと三人目がさっきからおかしい。
「おーい始めるぞー」
「「「はーい」」」
「あとカカオマスは次回から交易品に加えるように頼んでおくけど、生産量が少ないから高いと思うぞ。だからこそ生産量増えるように支援をするわけだし」
「「「えー」」」
「うっさい。お前らみたいな高額所得者はどんどん領内で給料吐き出して率先して経済を回せ」
「トーマよ。そこでクレアの嬢ちゃんプロデュースの調理器具じゃぞ」
「ほう。確かにさっき爺さんが言ってた、クレアの炊いたご飯が再現できる魔導炊飯ジャーとかならこいつら買うだろうしな」
『買う買う買っちゃう!』
『あ、ずるい! 俺も買う!』
『婆さんの作る飯がクレア様の作る味になるのか。これは買うしか。いや婆さんの飯が不味いというわけじゃないんじゃが』
おい、三人目……。
「それでクレアの嬢ちゃんプロデュースの調理器具が売れるようになれば、次は掃除道具とかじゃの」
「爺さん策士だな」
「素材の分割払いが大変じゃからの。売れる商品を開発せんと」
「もちろんクレアにも売り上げの何割かは入るんだよな」
「うむ。といってもどこまでクレアの嬢ちゃんの炊き方が再現できるかはわからんしコストもまだどれだけかかるかわからんのでな」
「一応クレアに話は通しておくから今度うちに来い」
「助かるぞいトーマ」
「クレアは自分で稼ぎが無いのを気にしてる感じだしな。実際は弁当販売ですごい売り上げを叩き出してるうちの稼ぎ頭なんだが」
「たまに竜を狩るだけででかいツラしてるヘタレのせいじゃろ」
「何も言えない……。最近はダッシュエミューすら狩りに行ってないし」
実際竜の素材売却益のおかげで俺個人の財布の中身は潤沢だからな。
だが竜は安定して狩れるわけでもないからな、臨時収入としてはでかいけど。定期的に安定した収入を得ている弁当販売は重要なんだけどな。
しかも専用の職員を雇って昼も販売しようかというくらいに売上伸ばしてるし。
「まあまずは米。次に材料を入れるだけでクレアの嬢ちゃんの味のスープができる鍋とかじゃな」
「そんなのが可能なのか?」
「わからんがやってみるぞい。完成すればここの連中は高額でも買うじゃろうし」
『金貨十枚以内なら!』
『あ、ずるい! じゃあ俺は十一枚!』
『婆さんすまんのう。ワシ買っちゃいそうじゃ』
婆さんの料理美味しくないのかな?
「まあやってみてもいいな。魔導炊飯ジャーなら亜人国家連合にも売れるだろうし。んで亜人国家連合向けと言えば日本刀の件なんだが」
「はっ。お話は聞いております。ファルケンブルク領で金貨十枚の日本刀が亜人国家連合では国宝級の扱いだと」
「そうそう。武器屋の親父は良質の玉鋼が算出するファルケンブルク領から動く気はなさそうだけど、ひょっとしたらヘッドハンティングされるかもしれないし、早めにうちの領地で囲っておきたいんだが」
「我が領地の専属の刀鍛冶師ということでよろしいのでしょうか?」
「元々日本刀だけ打ちたいとか言ってたしな。玉鋼の採取をうちでやって親父に渡せば好きなだけ打ってくれるんじゃないか?」
「お会いしたことは無く伝聞でしかないのですが、役職や官位、爵位などでは喜ばなさそうな方のようですしね」
「気難しい親父だから厳しいかもしれないけど弟子もつけてやりたい。元々日本刀というのは複数人で打つ物だし、鞘師とか刀身以外の職人も必要だしな」
「なるほど、刀身だけを好きなだけ打てる環境をこちらで整えれば」
「釣れるかもしれん」
「かしこまりました。ですがその鍛冶師への交渉は閣下ご自身が当たられた方が成功率が高い気はいたします」
「俺か? うーん。たしかに気に入られてるとは思うんだよな。見ず知らずの役人がいきなり店を訪ねても追い出されるだけかもだし」
「はい。お手数ですが、会議終了後に尋ねてみてはいかがでしょうか? 私も同伴いたしますので、細かい条件などはお任せください」
「あまり気が乗らないけど行ってみるか」
「はっ」
でも確かに専属で刀身だけ打ち続けて貰ったほうが良いんだよな。業物は国宝級ということだから、亜人国家連合の首脳陣への贈答用としてかなり有効だし、弟子を取って打たせた習作でも有力な輸出品になるし。量産品の数打ちでも向こうでは高品質な日本刀で売れるかもしれん。
ファルケンブルクは魔石以外の特産品がこれといってなかったから、これから日本刀は特産品になるかもしれん。
何しろ良質な玉鋼が採取できるって話だからな。
「これで爺さんが魔導調理具を開発できれば、魔石と再充填した魔石、魔導調理具、日本刀がファルケンブルク領の特産品になるかもな」
「魔石と魔導具を売るとか随分エグイ事するのう、トーマは」
「たしかに魔導具の依存度を高めたら魔石需要増えちゃうよな」
「流石閣下。亜人国家連合の我が領地への依存度を高めることでこちらの意のままに操る策略ですね」
「違うぞアイリーン。あと過激な発想はやめろ。為政者だからって敢えてそっちに振り切る必要はないんだからな。バランスが大事だぞバランス」
「まあメギドフレアを使える人間が何人もおるから負けは無いぞトーマよ」
「そういう問題じゃねえ」
「閣下、議題は以上です」
「あっそ、じゃあ親父のところへ行くか。じゃあ解散なお前ら」
「「「はっ」」」
『一応官営商店のぞいてみるかな』
『チョコレートは無いだろ。あるとしてもカカオマスだぞ』
『今日の晩飯なにかのう』
どう見ても有能とは思えない首脳陣を残してアイリーンと武器屋の親父のもとへ向かう。
さて、どう説得しようか。
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