第五十一話 カカオ豆の栽培支援
クレアの作ったカツ丼は大好評だった。
食後のお茶をすすりながら、心地よい満腹感に浸っていると、会議室ではクレア飯の感想が飛び交っていた。
『いや流石クレア様のお作りになられた食事だ。素晴らしく美味でした』
『さようさよう。最近米も食べるようになりましたが、ここまで美味しいとは思いませんでした』
『米の炊き方が絶妙なんですよね』
『官営商店で米を買うときに炊き方の説明が書かれた紙を貰いましたが、その通りに炊いた米より美味かったですぞ』
『クレア様の炊き方を再現できればいいのだが』
『なら魔導士協会で炊飯専用魔導具を試作してみるかの。クレアの嬢ちゃんに協力してもらって同じ味を再現できるように』
『おお、完成したら是非売ってください!』
『私も!』
うるさいなこいつら。しかもいつの間にか爺さんも幹部たちに混じってクレア飯の絶賛をしてるし。というかクレアに協力してもらうとか勝手に言ってるけど。
「はいはい、そろそろ続きを始めるぞ」
「「「はっ」」」
「んで、次は交易関係か」
「はい。ラインブルク王国からも交易団参加を求める打診が来ています」
女官から渡された書類にアイリーンが補足をする。
「シバ王も取引量を増やしたいと言っていたからそれは構わないし、そろそろファルケンブルク領だけじゃ取引量を増やすのは難しくなってきたし良いんじゃないか?」
「王女殿下、いえ失礼致しました。シャルロッテ・クズリュー王国宰相代理閣下より正式に出されたものですので、受け入れ自体は決定の方向で検討していますが……」
「こちらでもシャルと定期的に連絡は取っているが、交易品の扱いについてはファルケンブルクのように国で管理する方針らしいし問題ないと思うぞ」
「では亜人国家連合との協議で交易枠の調整を致します」
「それとな、亜人国家連合で栽培してるカカオ豆なんだが、まだ生産量が少ないのでこちらからも支援をしたいんだが」
「カカオ豆は交易品として魅力的な品なのですか?」
「亜人国家連合の特産品として主力交易品になるほどのスペックはあると思う。だからこそ今の内から一枚噛んでおきたい」
「かしこまりました。他にも特産品になりそうな物があれば同様に支援していきたいと思います」
「恩を売っておいて損は無いしな」
「亜人国家連合軍は数は少なくとも強兵を抱えていますからね。いずれ世界を手にする際には我がファルケンブルクの先兵として活躍することでしょう」
「恩を売ることで、カカオ豆というかチョコレートやココアの取引枠を優先して融通してもらう程度で考えてたんだけど……なんなの? なんでそんな過激なの?」
「
『そうだそうだー』
『世界征服はロマンだよな。実際にやるかどうかは別として』
『クレア様のおやつはまだかのう』
本当に優秀なのかこいつら……? それに昼飯食ったばかりでおやつとかアホだろ。
「まあ施政者として必要と言われればそんな気もしてくるから何も言わないけど、それに向けた軍備増強とかは駄目だからな」
「もちろんです閣下」
「今は亜人国家連合と友好的だから、ゆくゆくは同盟をしてもいいかもな」
「はい、そちらも考えております」
「ラインブルク王国を無視して他国と同盟なんてできないからそのあたりのことは任せるけど、亜人国家連合の周辺情勢が問題なければ俺は同盟しても良いと思う」
「もちろん形式上はラインブルク王国と亜人国家連合との同盟になりますしね」
「その辺の細かい条項なんかは専門家に任せるよ。お互いにとって有益になるように頼むな」
「はっ」
交易関係の議題が終わると、女官がすっと次の書類を渡してくる。
魔導遊具か。バイキングとフリーフォール、コーヒーカップ、ゴーカートの設計図のようだ。
「次は魔導士協会を代表して儂の番じゃの」
「設計は終わったってことか?」
「うむ。なので次は魔導公園用に小規模な試作をしたいんじゃよ」
「ゴーカートは最初俺が渡した案の中にはなかったが」
「魔導駆動車の副産物じゃな」
「まあそうだよな。そのままスケールダウンしたようなものだし」
「なので試作の許可が欲しいんじゃが」
「金額はって金貨十枚? こんなに安くていいのか? これ全部だろ?」
「プロ―モーション価格じゃ。魔導遊園地で大規模な魔導遊具を作るための実験データも欲しいしの」
「魔導公園の魔導観覧車や魔導コースターも実験データを取るためだったしな」
「そうじゃ。魔導観覧車や魔導コースターの魔導遊園地仕様の設計も始まっておるからの」
「わかった。予算は出すし、魔導公園内の設置も許可する」
「流石トーマじゃの。早速明日から試作を開始するぞい」
「設置前には事前に連絡しろよ」
「任せい」
「爺さん、このフリーフォールは何メートルだ?」「二十メートルじゃの。魔導遊園地仕様では五十メートル以上を考えてるが、実験データ次第じゃの」「じゃあこの……」「それはじゃな……」
アイリーンに魔導公園の園内地図を持ってこさせて、魔導遊具の設置箇所の仮決定をする。野球グラウンドや芝生スペースなどは残さないといけないしな。
「そういやいつの間にか魔導公園って名前がついてたけど、施設が揃い次第以前話したネーミングライツで運営資金の足しにしてもいいかもな」
「広告効果を試算して広告料金を設定したいと思います。ただ乗り物チケットの無料配布数や販売価格などで集客率も変わりますので、少々お時間を頂きたく」
「まあそうだよな。公園内に広告看板を出したりしても良いと思うし、そのあたりも任せる」
「はっ」
「ちゃんとアイリーン以外の人間にやらせるんだぞ」
「……はい」
アイリーンは目線を俺から逸らして不承不承に返事をする。もっと釘を刺しておかないと。
ただ週に一回はうちに来て睡眠魔法で強制的に睡眠時間は確保してるから、ある程度は部下に仕事を任せてはいるんだろうけど。
「閣下!」
会議でよく見るおっさんが挙手をする。ちなみに名前はわからない。
「なんだ?」
「そろそろおやつの時間ですが」
ここで拒否しても良いんだが、まあ話もちょうど区切りが良いところだし、クレアから持たされたおやつを出すか。
タイミング良いことに、今日はチョコレートラスクだから、亜人国家連合のカカオ豆栽培支援の説得力も増すだろう。
「お茶の用意を頼む。あとこのバスケットの中身を配ってくれ」
マジックボックスからチョコレートラスクが入った巨大なバスケットを取り出して女官に渡す。
手際よくチョコレートラスクとお茶が配膳されていく。
「閣下、これがカカオ豆から作られるチョコレートですか?」
「そうだぞアイリーン。まあ食べてみろ美味いから。俺が特産品になるっていう理由がわかると思う。お前らも食べていいぞ」
「はい。ではいただきます」
「「「いただきます!」」」
「これは、とても美味しいですね……」
「だろ? クレアの腕もあるが、俺のいた世界じゃ間違いなく人気だったし」
『これ美味いぞー』
『このチョコレートというのは、話に聞いてはいたが凄く美味いな。これなら世界征服できるかもしれん』
『クレア様の作る晩御飯も食べたいのう』
チョコレートはかなり好評だった。
これだけ受け入れられるならカカオ豆の栽培支援もかなり有効だろう。
しかしほんとこの領地の幹部連中は大丈夫なのか?
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