第十二話 絶対領域


「あれ? でもお前って謝罪の使者としてきたんだよな? 俺が学園の服飾部にいるって知ってたのか?」



 ミコトとエマをハグしながら相槌を打っているちわっこに疑問をぶつけてみる。

 俺や家族には常にメイドさんが護衛についているが、居場所などについては公の業務の場合を除いて外部には秘匿されているのだ。

 と言っても家にいるか、街中に買い物に行ったり、ミコトやエマと散歩してるか、最近では学園を冷やかしているかのどれかなのだが。

 そういや最近狩りに行ってないな……。

 領主としての収入は全て領地の予算に回してはいるが、個人資産としては竜種の素材の売却益だけでかなりあるからな。


 もちろんちわっこは公式の使者なので、城に問い合わせれば俺に連絡が来た上で、後日正式な謁見の場をセッティングする流れになるし、そもそも王国からの正式の使者なのに前触れというか事前連絡がない時点でかなり緩い。

 まあアンナの用事が終わった後に謁見の予約をして、その謁見まではうちで過ごそうとか考えて前触れを出さなかったのかもしれない。


 ちわっこに魔導ハイAを贈ってからは、ラインブルク王国から三時間ほどでファルケンブルクに移動できるようになり、それ以来は時間が空くとふらっと飯を食いに来るから、今日の訪問もそんなノリで来た可能性の方が高いが。



「アンナちゃんに用事があってね、そのあとに謁見の手続きをしようと思ってたからここで会えたのは偶然だよ」


「用事? ああ、そういやアンナがお客さんが来るって言ってたな」



 ミコトとエマが、俺とちわっこが仕事の話を始めたと判断したのか大人しくなる。

 小さな声で「しーだよエマちゃん」「うんみこねー」とかぼそぼそ喋ってる。

 うーむ、中断させちゃったか。申し訳ないことしたな。


 それに気づいたちわっこが、ミコトとエマの頭を優しく撫でながら俺に返答した。



「多分それは私のことだね。で、アンナちゃんはいるのかな?」


「奥の作業机に……って向こうもこっちに気づいたみたいだな」



 ベルナールが騒いでたりしてたのにな。よっぽど作業に集中していたのだろう。



「シャルお姉さん!」



 ガタっと作業机から立ちあがったアンナは、ぱたぱたとこちらに駆け寄ってくる。



「アンナちゃん! ごめんね、我慢しきれなくて予定より早く着いちゃった!」


「ううん! ちょうど縫いあがったから早速更衣室で試着てみて!」


「うん!」


「わたしもいく!」


「えまも!」


「うん、一緒に行こうかミコトちゃんエマちゃん!」


「じゃあミコトちゃんたちもまだ試着してない他の制服を着てみようか」


「「うん!」」



 きゃっきゃととちわっこたちが奥の更衣室に入っていく。

 更衣室と言っても、隣接している小部屋を丸々更衣室替わりに使っているので、十人が一斉に着替えても問題ないスペースがある……らしい。


 ミコトとエマの親衛隊っぽいのが更衣室に入っていったのでエリナとクレアも念のため更衣室に入ると、俺ひとり服飾部に残された状況になってしまう。


 気まずい……。

 更衣室の中からはきゃっきゃと賑わっているような声が漏れ聞こえてくるが、早くしてくれ……。


 一旦外に出るかな? いや誰かが入ってきて、ちわっこやミコトとエマが着替えている奥の部屋を開けても困るしな。

 などと考えていると、更衣室のドアが<どっぱん>と開く。



「お兄さんお兄さんお兄さんお兄さん! みてみてみてみて! かわいいでしょ!」


「うるさいぞちわっこ」



 くねくねと色々なポーズを取りながら「どう? どう?」と聞いてくるちわっこの来ている制服は、落ち着いた色合いの割と標準的な制服だ。

 ただこれでもかというくらいスカートが短い。



「パパ! しゃるねーのおようふくかわいい!」


「えまもきたい!」


「あんな短いスカート、パパは許しません!」


「「えー!」」


「お兄さんお兄さん! スカートは確かに短いけど可愛いでしょ?」


「というか仮にも王族という高位貴族なのにそんなに肌を晒したら駄目だろ」


「大丈夫! 『サイハイソックス』を履いてるから!」


「サイハイ? ニーハイでなく?」


「あれー、お兄さん<転移者>なのに知らないの? まずニーハイソックスっていうのはねー……」



 ちわっこが自らのソックスを伸び縮みさせながら説明を始める。

 なんか普段生足を出さないような身分の人間のこういう隙だらけな姿を見ると少しドキッとするな。



「おいおい」


「膝を覆う長さなのが『ニーハイソックス』! 膝丈より長いのが『オーバーニーソックス』! そして太ももまでの長さなのを『サイハイソックス』って言うんだよ!」



 ソックスの長さを調整しながらちわっこが説明するが、ニーハイの説明からソックスが長くなるにつれて、肘かどこかがあたってスカートが捲れていっている。

 アカン、このままじゃ中身が見えてしまう。

 この場には婚約者である俺しかいないから良いじゃないかという脳内の悪魔が囁くが、女生徒たちの前でちわっこのスカートの中身を見る俺の姿なんか見せられるか。

 ミコトやエマもいるんだぞ。



「わかった! わかったから! スカートも少し捲れてるから!」


「あれあれ? お兄さん照れてるの?」



 動揺する俺に対して、ちわっこはニヤニヤとしながらスカートの裾を摘まんで見せびらかすように上げてくる。



「王女がはしたないって言ってんだよ! いくらサイハイソックスって言っても肌が露出してるだろ」


「『絶対領域』って流行ってるんでしょ?」


「えっ? いや今はどうかな? たしかに一時期やたらとその単語を耳にした気がするけど」


「可愛いし、ファルケンブルクだけじゃなくてラインブルクや周辺領でも流行らそうよ」


「無理があり過ぎるわ! 二百年くらい時代をすっ飛ばしてるぞ!」


「そうだお兄さん」



 ニヤニヤ俺を挑発していたちわっこが不意に真面目な表情になり、声のトーンをガラッと変え、王都で見た『王女シャルロッテ』モードになる。



「む、なんだ?」


「今日はお兄さんの家に泊る予定だから、夜にでも少し時間を貰えるかな? 出来ればクリスお姉さんとアイリーンさんを呼んでおいて欲しいんだけど」


「わかった」


「ん! じゃあお兄さん、一緒にミニスカートを流行らせるための戦略を練ろう! 王都の財政もかなり良くはなってきているけど、流行を発信して大きく稼ぎたいんだよね!」



 そしてまた表情を切り替え、明るく無邪気なちわっこに戻る。

 やはりオンオフをしっかり切り替えられるちわっこは有能だ。

 しかしクリスとアイリーンが必要な話し合いか。留学生だけの話題じゃなさそうだが……。



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同時連載しております小説家になろう版では、十一章の水着イラスト、十三章の制服イラストをはじめ200枚近い枚数の挿絵が掲載されてます。

九章以降はほぼ毎話挿絵を掲載しておりますので、是非小説家になろう版もご覧いただければと思います。

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