第十一話 公式の謝罪


「パパ! エマちゃんといっしょにがくえんにいくにはどうすればいいの?」



 ミコトが不安そうな顔で俺を見上げながら質問してくる。

 まだ飛び級制度に関しては、来年度から実施するのは決定事項だが、明確な基準があるわけじゃないんだよな。

 エマの場合は六歳相当の学力と身体能力というものが要求される。

 スポーツテストという基準がファルケンブルクというかラインブルク王国自体に存在しないから



「エマが勉強と運動を頑張るしかないな」


「えまがんばる!」


「わたしもおうえんするねエマちゃん!」


「ありがとーみこねー!」


「ミコトちゃんエマちゃん、お姉さんたちが体育の授業でやっている体操とかダンスを教えてあげようか?」


「「うん!」」



 きゃっきゃとミコトとエマを女子生徒たちが取り囲む。



「こうだよミコトちゃんエマちゃん!」


「こう?」


「そうそうミコトちゃん上手!」


「えへへ!」


「エマちゃんも凄く上手だね!」


「ありがとー!」



 女子生徒が垣根を作っているため、中央にいるであろうミコトとエマの様子がわからないが、楽しそうな声だけは聞こえてくる。

 あっという間に溶け込んでしまっているから、まあ放っておいても大丈夫かな?

 生徒も、自分たちより年下の子に無茶な運動とかはさせないと思うけど。



「トーマお兄さん、ミコトちゃんたちが心配?」



 アンナがニヤニヤしながら、俺の顔を覗き込むようにして聞いてくる。



「まあな」


「来年ミコトちゃんとエマちゃんが学園に通うようになったらトーマお兄さん子離れできるのかな?」


「平気だぞ。むしろ騒がしいのが学園に行ってくれるならありがたいな。最近なんだかんだ忙しいし」



 俺の毅然とした返答をニヤニヤしながら聞いていたアンナが、思い出したように声を上げる。



「そうだ、今日これからお客さんが来るんだった! 早く頼まれていた制服を仕上げないと。トーマお兄さんまたあとでね!」



 そういうとアンナは部室の最奥に置かれた自身の作業デスクに戻って行く。

 服飾部はアンナをはじめ優秀な部員が多数揃っているらしく、収穫祭の時に出す模擬店というか屋台を出す部からの制服作成の依頼が殺到しているのだ。

 サクラがカフェテリアでバイトしているときのメイド服を見て、同じような可愛い制服を作って欲しいということらしい。

 サクラのメイド服は服飾部が用意したんじゃないんだけどな。


 まあそんなこんなで服飾部は今とても忙しいのだ。

 部員がミコトとエマを構いまくっていてとてもそうは見えないけどな。


 あまり邪魔するのもなんだし、そろそろミコトとエマを連れ出して他の部室でも覗きに行くかと思っていると、背後の扉がガラッと勢いよく開く。



「ラインブルク王女、シャルロッテ・エーデルシュタイン殿下のお成りである!」



 ラインブルク騎士団長ベルナールが兜こそ脱いでいるものの、全身鎧フルプレートアーマーをがっちゃがっちゃ鳴らしながら入ってくる。

 儀礼用なのか、やたらと装飾が施された儀礼用全身鎧パレードアーマーと言った方が正しいのかもしれない。

 しかも儀礼剣まで佩いているので、これはもう危険人物と言っていい。



「ベルナール、うるさい」


「はっ! 殿下、申し訳ありません!」


「客ってちわっこだったのかよ。というかノックをしろよベルナール。ここは女子部員しかいない服飾部だぞ。着替え中だったらしょっ引かれてるぞお前」


「こ、これはクズリュー閣下! 大変失礼を致しました!」


「もうベルナール! 学園内ではそういうのやめてって言ってるでしょ!」


「さらに言えば武器携帯してる時点でお前アウトだから退場な。メイドさーん」


「そんな! 殿下をお守りする任務はどうすれば! ってやめて、痛い痛い痛い!」



 わさわさとどこからか現れた四人のメイドさんが、手慣れた手つきで全身鎧の隙間に何かを差し込むと同時にベルナールが動きを止め、あっというまに拘束される。

 何をつっこんだのかは確認したくない。

 屈強なラインブルク王国の騎士団長といえども、メイドさん部隊相手には無力なようだ。



「騒がしくしてごめんねお兄さん」



 ぐったりしたまま連れていかれたベルナールを一瞥すらしないちわっこが謝罪する。

 扱いが酷い。



「まあお前は護衛無しでの移動なんか絶対許されない立場だし仕方がない」


「学園の中なら大丈夫だよって言ったんだけどねー」


「そういや、手紙の件なんだが」


「それなの。一応公式の謝罪ってことで、王国宰相代理としてやってきたんだよね」


「随分と大物を謝罪に出すんだな」


「じゃないと貴族の子弟に本気なのが伝わらないでしょ?」


「あー、『お前らが校則を無視して貴族の身分を振りかざしたせいで、わざわざ王国宰相代理がファルケンブルク伯爵に謝罪しに下向した』っておおごとにしたいのか」


「そうそう。公式にはお兄さんの婚約者ってことでファルケンブルク伯爵夫人の立場で王国宰相代理の役職に就いているけどね、まだ私のことを王女扱いして殿下って呼ぶ人も多いから」


「ベルナールもまだ敬称が殿下だったしな」


「そうなの。だからお兄さんお兄さん、ごめんね!」


「公式な謝罪でそれかよ。ま、こちらは構わんどころか、貴族相手に無体をしたから逆にちわっこに迷惑がかかるかと思ってたくらいだし」


「実際イザベラ学園ファルケンブルク校の授業は評判良いからね。特に魔法科の授業は王都でも貴族の間で話題になってるし。だから学園が貴族の留学生枠を減らすとか言うような事態は避けたいのが貴族の本音だから」


「爺さんはじめ魔導士協会の連中は、債権を減らすために必死こいて結果を出そうとしてるからな」


「お兄さんは魔導士協会も牛耳ってるんだね」


「そういうわけじゃないんだがな。あいつらの自業自得だぞ」



 ベルナールが騒いだせいか、ミコトとエマを囲んでいた人垣がいつの間にか崩れている。



「あっ! シャルちゃんだ!」


「シャル姉さまお久しぶりです! 一ヶ月ぶりくらいですか?」


「エリナお姉さんクレアちゃん久しぶりー!」



 ミコトとエマについていたエリナとクレアがちわっこに声をかける。

 こいつなんだかんだ月一ペースで飯を食いに来るからな。久しぶりでもなんでもないだろ。



「あ! シャルねー!」


「しゃるねーだー!」



 遅れて人垣から抜け出たミコトとエマがちわっこを発見し、ぽててーと嬉しそうに駆け寄る。



「ミコトちゃんエマちゃんお久しぶり! ヤマトとムサシも!」


「「ピッピッ!」」



 飛び込むように抱き着くミコトとエマを受け止めたちわっこは、ふたりの着ている服をじっと見つめる。



「ミコトちゃんとエマちゃんの着ている服可愛いね!」


「うんどうぎっていうんだよ!」


「これをきてね、おどったりするんだよ!」


「そうなんだー!」



 そういってミコトとエマをぎゅっと抱きしめるちわっこ。



「あのね! それでね!」


「うんうん!」


「んとね! ぱぱがね!」


「そうなんだ! すごいね!」



 ミコトとエマも一ヶ月ぶりに再会した大好きなお姉さんに、最近あった出来事を一生懸命に報告する。

 ちわっこはミコトとエマのマシンガンのように次々と出てくる話題全てに相槌を打つ。


 ふたりはちわっこに滅茶苦茶懐いてるんだよな。

 流石ラインブルク王国の国民に大人気なだけのことはあるな。持って生まれたカリスマってやつかな?



「へー! それでそれで?」


「んでね!」


「あはは! ミコトちゃんとエマちゃんはすごいんだね!」


「「えへへ!」」



 ……いや、単に子どもが好きなんだな。


 終始楽しそうにミコトとエマと会話をするちわっこを眺めながらそう思うのだった。



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