第六話 中華麺


「兄さま! ラーメンを販売しましょう!」



 屋台でラーメンを食べてから数日後、朝食後のお茶を飲んでいたところ、クレアが声をかけてきた。

 あれからぶつぶつ言いながら何やらノートに色々書きこんでいたクレアだが、どうやら商売として成り立つ目途がついたらしい。



「ラーメンは利益率が良いってのは聞いたことあるけどさ、パスタとかだってかなり良いんだしわざわざラーメン屋をやる必要はないんじゃないか?」


「いいえ兄さま、ラーメンそのものを販売するのではなく中華麺を製造販売しましょう」



 中華麺という名称に何の疑問も抱かないのな。亜人国家連合由来の地名とか思っているんだろうけど、全然関係ないからな。



「そういや先日食べたラーメン屋の店主も、手打ち麺を使ってるって言ってたな」


「品質が良ければ是非買いたいと言ってましたよ」


「そんな話までしてたのか……」


「スープは秘伝とのことで教えてもらえませんでしたけどね」


「聞くなよ……」


「亜人国家連合では、手打ち麺でラーメンを提供する店も一部存在するそうですが、基本的には大手の製麺所から麺の太さなどを指定して購入するそうですし」


「大量生産で品質のいい中華麺が供給できれば民間も出店しやすくなるか」


「ご家庭でラーメンや焼きそばを食べられるようになりますしね」


「イニシャルコストとかすでに計算済みなんだろ? ならやってみようかクレア」


「わー! ありがとうございます兄さま! 準備はできているので早速給食室に行きましょう!」


「準備が出来てるってクレア……」


「お兄ちゃん私も行く!」



 リビングで座ってる俺の腕を引っ張って立ち上がらせようとするクレアを見て、エリナも一緒になって俺を立たせようとする。



「パパ! ミコトも!」


「えまもー!」



 娘ふたりも一緒になって俺を立たせようとする。



「わかったわかった。じゃあみんなで行くか」


「「「わーい!」」」



 いつもの学校に行かないメンバーで家を出て給食室へ向かう。

 給食室は校舎兼学生寮を建てる前に、解体した旧貴族の建材を使って建てた建物だ。

 無駄にデカく作ったので、軽く千人以上の料理を作れるほどのキャパシティがあるが、現在の寮生を含めた在校生は五百人とまだまだ余裕がある。



「エリナは給食室って見たこと無いだろ?」


「そういえばないね!」


「校舎の裏だしな。まあ趣のある建物だけどあまり気にしないように」



 また仲良く手をつないでいるミコトとエマの歩幅に合わせてぽてぽてと歩いていくと、あの給食室が見えてくる。



「お兄ちゃん……あれって……」


「そうだ、あれが給食室だ。魔女の実験場じゃないぞ。絵本で似たようなのは見たことがあるが」


「あそこで給食を?」


「そうだぞ。給食は美味しいし何も問題はない」


「……ソウダネ」


「パパ! これって魔女のおうち?」


「まじょ! まじょ!」


「さあ兄さま入りましょう!」



 娘ふたりは完全に魔女の家だとテンションを上げ、のりのりのクレアは外見などまったく気にしない様子だ。

 少しビビっているエリナの背中を押し給食室に入ると、すでに中華麺の試作を始めていた。



「もう作ってるのか」


「兄さまの許可の前に作り始めてしまってすみません。でも食事に使えるので無駄にはなりませんから」


「おうトーマ! 待っておったぞい!」


「爺さんがいるってことは……」


「製麺機の開発じゃな。トーマがここにおるということはクレアの嬢ちゃんが説得に成功したんじゃろ?」


「全部手打ちってわけにはいかないしな。まあそうなるよな」


「兄さますみません!」


「いやいいよ。ラーメン好きだし、少し考えてたこともあったしな。で、肝心の麵の方はどうなんだ?」


「ふふふ、任せいトーマ! 亜人国家連合から派遣してもらったラーメン三銃士が……」


「帰って貰って」


「何故じゃ!」


「めんどくさそうだし、スープと具の二銃士は必要ないし、麺の問題もカン水を使わずに卵と塩だけで作るから」


「確かにカン水は使っていないが」


「モチモチプッチンでシコシコした麺を作るから必要ない」


「スープはどうするんじゃ? 秘伝のスープを教えてくれると言うておるのじゃぞ」


「ナムプラーか長期熟成天然醸造醤油を使えば解決するからいらない」


「せっかく来てもらったのにのう」


「うるせー」



 そう俺にいわれると、ガタイの良い亜人のラーメン三銃士が肩を落として給食室を出ていく。

 すまんな。でもそんなに役に立ったイメージが無いんだよ。特に具。



「とりあえずクレアの嬢ちゃんから渡されたレシピ通りに何種類か打ってみた。試食して問題が無ければ、同じ麺を作れる魔導具を開発するぞい」


「兄さま、とりあえず鶏ガラと醤油で簡単なスープを作ったので、これで麺の試食をお願いします」


「モチモチプッチン?」


「どうでしょう?」



 職員が茹で終わった麺をジェット湯切りして、クレアの作った簡単なスープに麺を入れる。



「どうぞ兄さま。材料はタンパク質の多い小麦に塩、卵だけです」


「朝飯を食い終わったばかりなんだけどな」



 クレアに差し出された小さな器を受け取り、麺をすすってみる。



「おお、良いんじゃないか? あとはスープに合わせて太さとか縮れ具合とかを調整できるようにすれば問題ないと思うぞ」


「良かった! ありがとうございます兄さま!」


「しかしいきなりここまでの麺を作っちゃうとはな」


「頑張りましたから!」



 ふんす! と両手を握りしめるクレアが相変わらず可愛い。

 スープのレシピも俺の知ってる限りの情報をクレアに教えておくか。でもナムプラーか長期熟成天然醸造醤油を教えたらあっという間に完成させそうだけどな。



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