第五話 ラーメン


 手をぶんぶん振って歌いながらぽてぽて歩いてるミコトとエマをほっこり眺めながら歩いていく。



「パパ! お店!」



 ミコトが屋台街を指さし、振り返りながら俺を呼ぶ。



「お、ついたか。ミコト、エマ、食べたいものがあったら言えよ」


「「はーい!」」



 娘たちの素晴らしい返事に満足しながら、屋台街を眺めてみる。

 ファルケンブルクの屋台を始め、亜人国家連合やエルフ王国の屋台も出ているようだ。

 ファルケンブルクの屋台はサンドイッチの軽食以外にも、総菜やハム、ソーセージ、パン、チーズ、果実など、種類が豊富だ。

 屋台というよりもデリカテッセンのような趣だ。



「お兄ちゃんたくさんのお店があるね!」


「ここで出店する屋台は初年度の税金を優遇してるからな。既存の屋台もここに集まっているから一気に大きくなったとアイリーンに言われたぞ」


「たしかに一か所に集まると買い物が便利ですよね兄さま」


「魔導モノレールや魔導バスで町の中のアクセスが良くなってるからな。多少遠くなっても市場には行きやすいだろうし」



 ミコトとエマがきょろきょろと屋台を眺めながら進んでいく。



「まあ、可愛いお嬢ちゃんたちだねえ! ほれ、これあげるから持っていきな!」


「わー! ありがとうございます! お姉さん!」


「ありがとー! おねーさん!」



 小悪魔な娘たちがポシェットの中にガンガン貢物を入れていく。

 小さなポシェットの中には、飴玉やクッキーなどですでにパンパンだ。

 さすがに軽食や総菜などを扱っている屋台の店主からの貢物は無かったのが救いか。



「パパ! これ食べたい!」


「えまもー!」


「む、ラーメンか」


「らっしゃい! おっ可愛いお嬢ちゃんたち、うちのラーメンは美味いよ! 亜人国家連合一だからな!」


「? あっサクラお姉ちゃんと同じ耳!」


「おっと、ラインブルク語じゃなく公用語で喋っちまった。お嬢ちゃんたちサクラ様のお知り合いなのか」


「うん!」


「じゃあサービスするから食べてきな!」


「ぱぱ!」


「ああ、ここで食べようか」」



 ラーメン自体はファルケンブルクにもあったが、スープも麺も美味くなかったので敬遠していた。だが、けもみみをつけた亜人が経営してるということは期待が出来そうだ。

 店の前にはテーブルと椅子が置かれ、ここで食べるシステムのようだ。

 持ち帰りが出来ないしな。

 ……持ち帰り、そうか、カップ麺とか即席麺なんかがあれば便利かもな。


 あとでクレアに相談してみるかと思いながら、屋台をのぞき込むと、メニュー表が置かれている。

 文字ではなく、写真のようなわかりやすい詳細な絵なので、ラインブルク王国で使われている文字と亜人国家連合で使われている文字の違いを考慮したのかもしれん。

 店主はサクラのようにラインブルク王国語を使えるってことは結構な立場の人間なのかな? サクラを知っているみたいだし、公用語の日本語も扱えるようだからな。



「らっしゃいお父さん!」


「親父、サクラの知り合いなのか?」


「俺は犬人国の城で主席料理人として働いてたんだがな、今回アンテナショップを作るっていうんで立候補してここに派遣されてきたんだ」


「なるほど、こちらの言葉を使えるのはそういうことか」


「亜人国家連合の代表として送り込まれたんだぜ、味の保証はするから好きなものを選んでくれよ」



 改めてメニューを見ると、ラーメンだけ。しかし十種類以上のラーメンが並んでいる。



「犬人国の主席料理人なのにラーメンだけなのか?」


「安くて美味いからな! 亜人国家連合を知ってもらうにはこれが一番だぜ!」


「なるほどね」


「あとスマンな、冷やし中華はまだ始まってないんだ。始まったら『冷やし中華始めました』って看板を出すからよろしくな!」


「やっぱ亜人国家連合でも冷やし中華を始めたら告知するんだな」



 どこが始めたんだろうなあの告知。と思いながらメニューをエリナたちにも見せる。

 どれも一杯銅貨五十枚と日本円で約五百円とリーズナブルだ。

 場所代が無料、税金も初年度は優遇されているとはいえ安すぎないか?

 ある程度赤字覚悟でラーメンをアピールしたいという思惑もあるのかもしれんな。民間じゃなくて亜人国家連合の官営商店みたいだし。



「へー色々あるんだねー。ミコトちゃんエマちゃんどれ食べたい?」


「うーん、あれも美味しそうだしこれも美味しそうだし」


「うーんとね、うーんとね」


「どれも美味しそうすぎて決められないよね!」



 メニューをのぞき込んで悩んでいるエリナと娘たち。

 というかエリナも込みで三姉妹みたいだな。



「兄さまは前に食べたことあるんですよね? おすすめとかありますか?」


「好みもあるしな。オーソドックスな醤油ラーメンとか塩ラーメンをそれぞれ頼んでみんなでシェアしても良いと思うぞ」


「そうだね! そうしようミコトちゃんエマちゃん!」


「「うん!」」


「じゃあ親父、醤油ラーメンと塩ラーメン、味噌ラーメン、豚骨ラーメンと鶏白湯ラーメンをそれぞれ一つずつ。とりわけ用の器も貰えるか?」


「銅貨二百五十枚だ。出来上がったら持っていくから座って待っててくれな」


「わかった」



 銅貨を親父に渡し、みんなでテーブルについてラーメンを待っていると、ひとりの見覚えのある客が現れる。



「店主、豚ダブルヤサイマシマシアブラマシカラメオオメでお願いします」


「あいよ、ニンニクは?」


「今日はやめておきます」


「いつもありがとうなお姉さん」



 アイリーンがどこかで聞いたことがある呪文のような言葉を発して注文を完了していた。

 流れるように注文してたな。



「あ、アイリーンお姉さんだ!」


「あいりんねー!」


「あら? ミコトちゃんとエマちゃん……これは閣下、このような場所でお会いするとは」


「アイリーンは昼休みか?」


「ええ、近くで商工会の打ち合わせがありましたので」


「随分と注文慣れしてるな」


「美味しいですしね。最近ハマってしまいまして」


「まあここに座れ、一緒に食おう。あとアイリーンの頼んだラーメンも気になるから一緒にシェアしたい」


「はい、私は豚しか食べたことが無いので他のラーメンにも興味ありますからありがたいです」


「はいお兄さんお待ち!」



 テーブルの上に俺たちの頼んだラーメンが置かれる。

 見た目は非常に美味そうだ。丼も凝っていて、日本語で『らーめん』と書かれている物もある。

 とりわけ用の器も大量に置いていってくれた。サービス満点だな。



「じゃあ分けるぞー」


「「「はーい!」」」



 かなり期待して醤油ラーメンを食べてみる。ちゃんとしたラーメンを食べるなんてここに来て初めてだからな。



「美味い!」


「うん! 美味しいねお兄ちゃん!」


「「おいしー!」」


「やはり豚以外も美味しいですねこの店は」


「ふむ、なるほど。この中華麺も美味しいですが、やはり大事なのはスープですね。鶏ガラベースと中華調味料、醤油がすごく複雑ですね……ふむ……」



 クレアがいきなりスープのレシピを探り始めたがスルーだスルー。



「はいお姉さん、豚ダブルヤサイマシマシアブラマシカラメオオメお待たせ!」


「ありがとうございます」



 でかいチャーシューとモヤシが山のように盛られたラーメン? がアイリーンの前に置かれる。



「では皆さんもどうぞ」



 アイリーンが豚ダブルヤサイマシマシアブラマシカラメオオメを少しずつ取り分けてみんなの前に置いてくれる。

 というか名前が長い。そしてその豚なんちゃらなんだが、モヤシに麺が隠れてよくわからん。



「ヤサイと麺をひっくり返す天地返しをすると食べやすいですよ」



 ヤサイじゃなくてモヤシだろと思いながら、麺とモヤシを入れ替える。

 というか普通に取り分ければモヤシを下に出来ただろ。



「あ、でも美味い。チャーシューも赤身メインでさっぱり食べられるし」


「でしょう⁉ 閣下、私はこの味にハマってしまいまして。ヤサイもたっぷりで健康にいいですしね!」


「健康にはあまり良くないと思うぞ。背脂すごいし。というか背脂マシてるだろお前」


「ヤサイもマシてますからバランスはとれています!」


「モヤシな。あとバランス感覚おかしいぞお前」



 急にテンションをあげてギャーギャー騒ぎ出したアイリーンを無視して食事を続ける。



「パパ! 美味しい!」


「ぱぱこれも!」


「背脂をこんなに乗せるとはすごい発想ですね……でもこれだけのボリュームを欲している顧客層が相当数いるということですよね。そうするとコストが……」



 ラーメンはかなり好評だ。

 クレアもラーメンで商売でもするのかと言うくらい食べながら色々と考察をしているし。

 亜人国家連合の食べ物が流行れば米以外にも一気に需要が増えるだろう、より交易が活発になれば良いんだけど。



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