第十四章 ヘタレフェスティバル!

第一話 おめかししよう!


「じゃー収穫祭をはじめるぞー」


「「「おおおーーーーーー!!」」」



 城のバルコニーで、俺が半ばやる気のない開催宣言を行って収穫祭が始まる。

 いきなり城の目の前の庭で酒盛りが始まるという無秩序ぶりだ。

 暴れたり指定の場所以外にゴミを捨てたりした時点で即検挙される場所で良く酒が飲めるよなあいつら。許可を出したやつも大概だけど。



「クリス、シル、泊まり込みで準備させて悪かったな」



 昨晩はクリスとシルは西方守備の件と収穫祭の警備の関係で城に詰めていたために不在だったのだ。



「いえ、これで西方の守備はある程度強固にすることが出来ましたし問題ありませんわ」


「そうですよお兄様! 騎士団も総出で要塞守備と収穫祭の警備に出ておりますし、領民の安全はばっちりです」


「騎士団の本番は収穫祭後だからな、あまり無理の無いスケジュールで交代させておくように」


「任せてください!」



 いまいちシルの言葉は信用できないんだが、副団長が有能な人で細かな差配に関してはその副団長任せだし大丈夫だろう。



「とにかく一旦家に戻って着替えるか」


「「はい」」



 ひらひらした貴族然とした服をたなびかせながら、クリスとシルを引き連れてさっさと帰宅する。





「こっちはどうかな⁉」


「えー、こっちのほうがいいよー!」


「エマちゃん、こっちのピンクの服が可愛いよ」


「うん! これにする!」



 帰宅すると、エマとミコトが今日着ていく服を選んでいる最中だった。

 他のガキんちょどもはすでにお気に入りの服を着ていて準備万端だ。



「あ、お兄ちゃんお帰りー! クリスお姉ちゃんもシルお姉ちゃんもお帰りなさい!」


「兄さま、姉様たちお帰りなさい。お疲れさまでした」


「パパ! クリスねー! シルねー! わたしきょうこれをきるんだよ!」


「えまはね、このぴんくの!」


「そか、じゃあ着替えたら早速町に繰り出すか」


「「うん!」」



 ぽててーと服を大事そうに抱えて、着替えるために部屋へと向かうミコトとエマ。

 エリナとクレアが後をついて行くが、そのエリナとクレアも妙にひらひらとした服を抱えているから一緒に着替えるのだろう。



「じゃー準備が終わったやつから小遣いを配るから並べ―」



 わー! という声とともに俺の前に綺麗に列を作るガキんちょたち。

 毎年恒例なので慣れたものだ。



「ありがとー!」


「いいか、無駄遣いはするなよ。余ったら貯金しておくように」


「はーい!」



 ひとり当たり銀貨一枚を次々に手渡していく。

 こいつらは無駄遣いはしないので心配はないのだが、一応念のためだ。

 去年から小遣い制度を導入した上に学園でバイトを始めるのも出てきたせいで、個人で貯蓄できるようになったのも大きい。

 子ども向けの玩具なども流通するようになってきたので、欲しいものが出てきたというのもあるし、一号が就職した際に自由になる金があった方が良いなと実感したせいもあるんだが。


 一号はここで寝起きしてここから職場に通っているから特に生活費は必要ないんだが、それでも服やら身の回りの物は自分の給料で買うようになったし、家に給料の大半を入れるようになったんだよな。

 結婚して独立する時のために貯めておけと言ってあるけど。

 ひょっとしたら仕事でも独立して鍛冶屋とか始めるとなったら資金も必要だし。もちろんその時は最大限に援助するつもりだが。



「はい次ー」


「義兄上! ありがとうございます!」


「ほいよ……って、なんでジークまで並んでるの」


「お金を持ってないんですよね」


「ちわっこは?」


「僕の後ろに並んでますよ」


「側近に持ってこさせればいいじゃないか」


「義兄上が僕たちの連れてきた側近に休暇をくださったのでは?」


「そういやそうだったわ」



 ジークの差し出す手のひらの上に銀貨一枚を置くと、ジークはそれを嬉しそうに見つめる。

 現金を持つの初めてだったりして。



「義兄上、僕と一緒に回って頂けますか?」


「良いぞ。エリナやクレア、ミコトとエマも一緒だけどな」


「はい!」



 小遣いを貰ったガキんちょたちは仲のいい数人と固まって家を出ていく。

 皆それぞれ一張羅を着て嬉しそうだ。良い服を着るタイミングってこういう祭りの時くらいしかないからな。



「お兄ちゃん準備できた!」


「小遣い配ってるからエリナも手伝え」


「うん! 今年はいくら渡してるの?」


「銀貨一枚だが」


「……多くない? っていうか使い切れないよ?」


「残りは貯金させるんだよ」


「なるほどね! わかった!」



 俺とクレアで残りのガキんちょに小遣いを渡し終わった。

 初秋のこの日、俺がここに来て六回目の収穫祭が始まるのだった。



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