第二話 おしゃれの意識


 俺たちは準備を終え、すでにもぬけの殻となっていた家を出る。

 ガキんちょたちにとっては滅多にないお祭りだからな、一瞬でも長く楽しみたいのだろう。



「義兄上! 楽しみです!」



 ミコトとエマ以上に楽しそうなジークが、しっかり俺の左手を掴みながら言う。

 なんで手をつないでくるんだこいつ。

 ミコトとエマはお互いに手をつないで入るけど、最近は俺やエリナ、クレアといった保護者と手をつなぐのを少し恥ずかしがるようになってきたのに。



「王都には無いものが沢山あると思うぞ」


「おいしいたべものもいっぱいあるんだよジークにー!」


「すごくおいしいよ!」


「そっか! じゃあその美味しい食べ物を僕に教えてくれるかい?」


「「うん!」」



 頭にヤマトとムサシを乗せたミコトとエマは、ジークのその反応に満足したようだ。



「それにしても義兄上、今日は町に出るために地味な服を用意してきたのですが、この様子ならいつも着ている服でも良かったかもしれないですね」



 ジークは道行くファルケンブルクの人々を見ながら自身の着ている物を見てそう言うが、今のジークの服でも十分に豪奢だ。

 レースや金糸をふんだんに使っているし胸元には宝石まであしらわれているという、どこからどうみても超高級品。これのいったいどこが地味なんだ?

 外套なのかしらんが裾の長い服だし、着ているジークが中性的だからより女性っぽく見えるのも色々残念な気がする。


 そしてきょろきょろ周囲を見渡すジークにつられて俺も道行く人々を見てみると、たしかに周囲を歩く人たちの服はかなり豪華に見える。

 貴族街にでも入ったのかと思うほどだ。

 魔導紡績工場を作って糸や布の値段が下がった影響で衣服の値段も少しずつ安くはなってきているけど、普段着るような服はともかくおしゃれ着はまだまだ高価なはずだ。



「所得が増えたってことなのかな?」


「王都に住む領民より良い服を着ていますね」


「うーむ。まあほかに娯楽が無いからこういう所に散財してるってことなのかな? 消費のはけ口をもっと増やさないと駄目かな……」



 と言ってもギャンブルはなあ。おしゃれに散財するのは健全と言えば健全なんだが、魔導具みたいに生活が便利になるようなものとかの方が良いのか? あと娯楽は現状では魔導遊園地とリゾート地くらいだし他にも何かいいアイデアが……などとぶつぶつと考えていると――



「パパ! ジークにー! あのおみせのたべものがおいしいんだよ!」


「へー! 朝食抜きで出てきたからちょうどいいや。食べてみようか! ねえ義兄上」


「ぱぱ?」



 ミコトとエマ、ジークが俺に顔を向けていた。



「おっとすまん。考え事をしていた」


「お兄ちゃん、今日くらいはお仕事を忘れて楽しもうよ」


「そうですよ兄さま」



 エリナとクレアにも注意される。

 ついつい考えこんじゃうのは俺の悪い癖だな。



「わかったわかった。じゃあミコトとエマおすすめの店で朝飯にするか……って肉屋の親父の屋台じゃねーか」


「おいしいよ? ね、エマちゃん!」


「うんおいしーよね!」


「それは知ってる」


「義兄上! 早速頂きましょう!」



 ジークがぐいぐいと俺の手を引っ張って親父の店の前まで連れて行く。何度もここのサブウ〇イ方式のサンドイッチは食べてるんだけどな。



「お、兄さん。相変わらず別嬪さん連れてるのな」


「親父、昨日も同じこと言ってただろ」


「ああ、そういや男なんだっけか。じゃあ綺麗な兄ちゃんだな」


「綺麗な兄ちゃんって……」



 ジークのテンションが一気に下がる。



「あのねー、わたしはパンはこれで、これとこれをはさんでください!」


「えまもおなじので!」



 えらく慣れた感じでサブウ〇イ方式のサンドイッチを注文するミコト。休日の昼間に良く外食するので覚えちゃったか。



「あいよ可愛い嬢ちゃんたち。いつもありがとうな!」


「パパ! わたしたちかわいいって!」


「ああ、ミコトとエマは可愛いぞ」


「「わーい!」」


「義兄上、これは自分の好きなものを選んで挟んでもらうシステムなのですか?」


「そうそう。基本的な組み合わせなら銅貨三十枚だぞ。もちろん追加料金を払えば肉を増したりできるけどな」



 肉屋の親父はずっと銅貨三十枚、日本円で約三百円という価格でこのサンドイッチを売っている。

 俺がこの世界に来た当時ですら原価ギリギリなんじゃないかというくらい高品質で具沢山だったのに、最近は流通が良くなったせいかさらに品質を上げてきているのだ。

 原価率とか聞きたいけど、官営でも競合するサンドイッチ店を出しているしあまりそのあたりを聞くのはな……。

 本業の肉屋の宣伝も兼ねているとは言っていたけどな。



「はいよ綺麗な兄ちゃん」


「あ、ありがとうございます……」



 ミコトとエマから教わりながら注文したサンドイッチを、納得のいっていない表情で受け取ったジークは周囲をきょろきょろしだす。



「どうしたジーク」


「えと、義兄上、どこで食べるのでしょうか?」


「あーそっか。買い食いは初めてか。ちわっこもそういやそうだったしな。あいつは即適応したけど」


「ジークにー! たべながらあるいたりしてもおこられないんだよ!」


「じーくにー! じゃああそこにすわろう!」



 エマが露店街に置かれているベンチを指さす。

 いくら歩き食いを許可していても、危ないし零すから可能な限り座って食べなさいとは教えているんだよな。

 あとジークがサンドイッチを受け取るときに手を離してくれたので、これ幸いと逃走は完了している。

 また舌打ちされるのは嫌だからな。



「ありがとうミコトちゃんエマちゃん」


「「うん!」」



 ミコトとエマに案内されてベンチに腰掛けるジーク。俺とエリナとクレアも近くのベンチに座って食事をする。



「えっと、これは……」



 ジークが戸惑っているのはどうやって食べるのか? だろうな。結局ミコトとエマがそのままかぶりついているのを見て、ジークも同じように食べる。



「ジークにーおいしい?」


「うん! とても美味しいよ!」


「よかったー!」



 ミコトとエマがジークを挟んで左右に座り、ジークに零さない食べ方などを教えている。

 もうすっかりお姉さん気分だ。



「さて、俺たちもさっさと食べちゃうか」


「うん!」


「はい兄さま」



 いつもよりかなり着飾っているエリナとクレアの表情も晴れやかだ。

 収穫祭の挨拶の時に着ていた貴族風の服からわざわざ着替えてしまったけど、普段着のままの俺って浮いてないかな?


 少しだけ後悔しながらも、いつものように美味い親父のサンドイッチにかぶりつくのだった。



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