第三話 江の島(水着回Ⅱ)


 あの江の島みたいな島ってどうなってんのかな。まあいいか。

 テンション駄々下がりのまま、デッキチェアに横になってふてくされていると、クリスが両手にタピオカドリンクを持って歩いてくる。



「旦那様、お飲み物をどうぞ」


「ああ、ありがとう」



 クリスがデッキチェアに寝そべっている俺にタピオカドリンクを差し出してくる。

 ビキニを着たクリスが少し屈むと、ついその部分に目がいってしまう。

 SUGOIDEKAI。



「旦那様、官営商店でのタピオカドリンクの売り上げが順調とのことなので、こちらの海の家でも取り扱っているとのことです」


「あれ? このリゾートホテルって官営なのか?」


「はい、格式の高いホテルがあれば各国の賓客をもてなすのにちょうど良いですからね」


「なるほど、だから高級志向なんだな」


「迎賓館はありますが大分老朽化していますしね。改築を予定しておりますが、それまではこちらを使えますし」



 ラインブルク王国からの使者や亜人国家連合所属の王国の使者など、最近は他領の高官が頻繁に訪れる状態になっているのだ。

 以前からある迎賓館は規模も小さめだし何より老朽化しているので改築を検討していたのだ。



「ではアンナちゃんに呼ばれておりますので失礼いたしますわ旦那様」


「ああ、面倒見てやってくれ」


「かしこまりました」



 クリスはそう言うと、ゆっさゆっさと揺らしながら女子チームの方に向かっていく。

 あんな面積の少ない布でこぼれたりしないんかな……。



「お兄様! 一緒に遊びましょう!」



 クリスの去っていった方向とは逆の方角からシルの声が聞こえる。

 前回に見たビキニ姿ではなく、ワンピースの水着だ。それでも胸元の主張が激しいタイプだが。



「俺はここで休んでいるからガキんちょどもと遊んでやってくれ」


「えー!」


「今ちょっと沖縄やハワイを期待してたところに地元の海水浴場というギャップにテンションが下がってるだけだから放っておいてくれ」


「よくわかりませんがわかりました! ちょっと他の子たちと遊んできますね! そのあと絶対に遊んでくださいね!」


「一週間も滞在するんだ、そのうちテンションも戻るだろうからそのときな」


「約束ですからね!」


「わかったわかった」



 シルが念押しして去っていく。

 しかしみんなテンションが高いな。江の島なのに。

 いや、ただ俺の地元だというだけで、江の島の見える海水浴場は元々地元民は元より他県の人にも人気だったしな。


 ひとりテンション下げてるのもよくないなと気持ちを切り替えようとしたところに、今度は爺さんが現れる。



「トーマよ、どうじゃ! 素晴らしい再現度じゃろ!」


「なんで江の島なんだ爺さん! どうせなら沖縄やハワイで良かっただろ!」


「冒険しないことで有名なヘタレのトーマには、こっちの地元感が溢れる方が安心するじゃろ?」


「リゾートで冒険も何もないだろ! 近所の海水浴場に出掛けることのどこがリゾートだ!」


「えー。ヘタレの癖にめんどくさいのう」


「うるせー。江の島だけじゃなく烏帽子岩まで再現しやがって無駄に懲りすぎだぞ。配置はめちゃくちゃだけどな!」


「じゃってトーマに気に入ってもらわんと債務の減免をしてもらえないじゃろ」


「気に入らないから減免は無しな」


「何故じゃ!」


「だから地元感満載でリゾート感が皆無だっつってんだろ!」


「めんどくさいのう。でもホテルはどうじゃ? 迎賓館としても使えるようにとかなり凝っておるぞい」



 クリスからもらったタピオカドリンクを飲みながら先程のホテルを思い出してみる。

 部屋といっても団体客用の大部屋だけどな。他国の高官を迎えるスイートルームなんかもあるんだろうか?



「まだ部屋とロビーしかみてないが良さそうだとは思うぞ。職員もしっかりしてたし」


「じゃろ? じゃろ?」


「設備はまだ見てないけどな」


「もちろん温泉もあるぞい!」


「おお、それはいいな」


「なんせ『パシフィックホテル』じゃからの!」



 ダメじゃね? いやオッケーなのか?



「債務の減免はまだ未定だからな」


「わかった、じゃあ次の準備をしてくるからの!」



 次の準備ってなんだよ? と思いながらも、今日は何となくモチベーションが戻らずに、デッキチェアで一日中ずっと横になっていたのだった。



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次回も水着回です!


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