第四話 スライム材を使った玩具(水着回Ⅲ)
リゾートホテル滞在二日目、茅ヶ崎感満載の真っ黒なビーチにもなんとなく慣れてきた。
ビーチの名前は聞かなかったが、サザ〇ビーチかチャ〇の海岸とかどうせそのあたりだろうと聞いてはいない。
ホテルも迎賓館としての機能を持っているだけのことはあり、温泉をはじめとした施設は素晴らしく豪華だったし、今回の俺たちは大部屋だがスイートルームも完備された高級ホテルだった。
そんな設備を持つホテルの食事も素晴らしく美味しいので、俺の機嫌もだんだん良くなっていったのだ。
昨日は一日デッキチェアで横になっていただけなので、今日は水に入ろうと意気揚々とビーチに向かうことにした。
「あー、おにーさんだー」
飲み物を買ってから行くかと海の家に入ると、ミリィが海の家で菓子をバリバリ食べていた。朝食バイキングを食べた直後なのに。
「ミリィ……朝食バイキングで大量に食べた後だろ……」
「おいしーからねー」
「滅茶苦茶食べてる割には体は細いままなんだよな」
黒のビキニという年の割には大胆な水着のミリィの細い体を眺める。この体のどこにあの量の料理やお菓子が入ってるんだ……。
「おにーさんも食べる?」
「ミリィが自分の食べ物を他人に進めるのって初めて見たわ。でも腹いっぱいだから俺は飲み物だけを買って行くからいらないぞ」
「おいしーのに」
「小遣いが無くなったら言うように。でも食べ過ぎは駄目だからな」
「はーい。ありがとーおにーさん」
バリバリとラスクを食べ始めたミリィをその場に放置して、スライム材で作られた透明カップの飲み物だけを買う。
すでにガキんちょどもが水際でバチャバチャ水遊びを始めているのを眺めつつ、空いていた適当なデッキチェアにタオルやら飲み物を置き、水際に向かう。
「パパ!」
「兄さま」
波まで完全再現されているこの巨大湖に入ろうとすると、ミコトとクレアに声をかけられる。
「パパ! いっしょにあそぼー!」
花を模した赤い飾りのついた黄色のタンキニを着たミコトが、浮き輪を持って一緒に遊ぼうと言ってくる。
……浮き輪? ビニール?
「兄さま、先ほどロイドさんがみんなの分の浮き輪を持って来てくれたんですよ」
「そういや昨日、爺さんがなんか次の準備をしてくるとか言ってたな……」
「スライム材が加工する時の温度によって性質が変わるのを利用して、薄く延ばして柔軟性を持たせた防水性の素材を開発したとのことですよ」
「それで浮き輪を作ったのか。というか玩具じゃなくもっと有効利用できる分野があるだろ……」
「なんでも兄さまを落とすにはまず子供たちからの方が手っ取り早いとかなんとか言ってましたね……」
……たしかに俺はガキんちょどものことになると少しだけ甘くなる傾向があるからな。
地元感溢れるリゾート地で意気消沈した俺の反応を見た爺さんが、急遽スライム材作った新素材を使ってガキんちょどもの為に浮き輪を用意したのか。多分徹夜で。
債務の減免に関しては一応アイリーンに一言言っておくか。
余った竜の素材を市場に流せば債務の大半は無くなるから自業自得なんだけどな。
というか素材の独占って良くないんじゃないのか? ファルケンブルクが異常過ぎて他の場所じゃ竜種そのものがレア過ぎて一年に一回程度の頻度で王都のオークションに出てくる程度だしな。
「まあ魔導士協会の債務に関しては考えておくよ」
「そうしてあげてください。すごく必死だったので……」
「パパ!」
「おう、ミコトすまんすまん。じゃあ一緒に水に入るか」
「うん!」
カニタイプの浮き輪を装備しているせいか、全く水を怖がらないミコトの手を引いて水に入る。
クレアも一緒に入るが、泳げるクレアは浮き輪を装備していない。
数年前に川でガキんちょどもに水泳を教えたらあっという間に習得したんだよな。
何故か海と同じ塩分を含む水を湛えたこの湖は、穏やかな波があっても浮きやすくなってるし泳ぎやすいみたいだ。
「ミコト、足をバタバタやると前に進めるんだぞ!」
「やってみる!」
「ミコトちゃん上手ですよ」
「えへへ!」
俺に両手を引っ張られながらバタ足をするミコトが、クレアに褒められてご機嫌だ。
「そういやエマは? いつもミコトと一緒なのに珍しいな」
「エマちゃんはね、エリナママといっしょにすごいのをつくってるよ!」
「すごいの?」
「ないしょ! できたらパパに見せるんだって!」
「へー。じゃあ楽しみにしておくか」
なんだろう? 「ぱぱのおかお!」とか言って俺の顔でも砂浜に描いてくれてるのかな。
真っ白なビーチじゃなくて黒に近い灰色の砂だからわかりにくいかもしれないけど。
エマの見せてくれる創作物に思いを馳せながら、今日一日はたっぷりとミコトと遊んだのだった。
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次回も水着回です!
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