第十五話 追われる身


「じゃあ仮採用ということで面接は終わりだ」


「ありがとうございます! 頑張ります!」


「魔素の研究費に関してはできるだけ優遇するつもりだが……。爺さん、魔導士協会からも出資しないか? 共同研究に参画させてやるから」


「ぐぬぬ……。また儂らから搾り取る気かトーマよ!」



 公式の場ではあるが、面接が終了したので爺さんは砕けた口調になる。

 というかそんなに搾り取ってるのかアイリーンは。たしかにクレア印の調理魔導具の特許料は結構な金額だったが。

 ちらりとアイリーンを見ると、にやりと口角をあげていた。怖い。



「今回は俺が聞いただけでも難しそうだし費用も掛かりそうだからな。魔導士協会に対して優遇案をアイリーンと検討しておくから手伝ってくれよ爺さん」


「……どちらにしても魔素を取り込んで蓄積する技術というのは魅力じゃしの。わかったぞい」


「じゃあ解散! マリアはどうするか……」


「旦那様、仮採用の間はうちで過ごしていただきましょう」



 たしかにクレアとクリスがいれば防衛面では安心だし、シルもエリナもいるしな。

 ガキんちょもいるから巻き込まれないか不安だけど、アイリーンを見ると何か側近に指示を飛ばしてるから厳重な警戒態勢を敷きそうだし問題ないだろ。



「わかった。じゃあ今日はマリアの歓迎会をするか。クリス、マリア、市場で食材を買ってから帰るぞ」


「かしこまりましたわ旦那様」


「お世話になります!」



 クリスとマリアを伴って城を出る。

 馬車には乗らないで市場までてくてくと歩いていく。



「そういやマリアは好きな食べ物とかあるのか? エルフって何を食べるんだ? 野菜とか?」


「へ? エルフが野菜好きって初めて言われました」


「旦那様、エルフはむしろ動物性たんぱくを好んで食べる狩猟民族ですよ。そもそも農耕をほとんどしませんので」


「え? そうなのか。自然と共生してるイメージだった」


「旦那様の世界の書籍でもエルフは弓使いのイメージではないですか」


「そういやそうだな、狩猟してるよな。畑を耕すエルフってイメージできないし」


「それにこちらの世界のエルフは耳は尖ってませんし」


「え? マジで?」


「耳が尖るってどういう構造なんですか? 私は普通だと思いますが」



 マリアが髪をかき上げると、隠れていた耳が見える。たしかに尖ってない。俺たちと同じ形だ。



「ただしマリア殿は、随分とこちらに伝わるエルフ族とはかなりイメージが違いますが……」


「それは自覚ありますね。私以外のエルフ族は髪を短くしませんし、体形も貧相ですから」


「貧相?」


「旦那様、エルフ族の女性は細身なのです」


「なるほど」



 細身なのにEカップはありそうなマリアの胸をチラ見する。

 ふむ、マリアは例外なのか。なら細身、貧乳という俺のイメージは前の世界と変わらないな。



「あの……旦那様?」


「すまんすまん、なんというか認識の違いというか確認というか……」


「あっ! おいそこの姉ちゃん!」



 ジト目で俺を睨むクリスに釈明をしていると、明らかに一般人じゃない風体のおっさんがこちらに声をかけてくる。



「あっ! あの時の……」


防御結界ディフェンスシールド



 クリスが俺とマリアの前に立ち防御結界を展開すると同時に、俺もマジックボックスから愛刀の一期一振を取り出す。

 しまったな、シルも一緒に連れてくればよかった。あいつにはそのまま騎士団の連中と警備のローテーションについての打ち合わせを任せてしまったのでここにはいないのだ。

 ぶっちゃけシルがいなくてもその辺の打ち合わせとかは問題ないしな。



「おう姉ちゃん! 随分と探したぜえ!」


「まておっさん、この娘とどういう関係だ」



 ちと怖いがクリスもいるし相手は武装もしてないおっさんだ。何とかなるだろうと、一期一振を見せながらおっさんに問いかける。

 以前シルとの対決の時のようにクリスは俺たちにぴったりと合わせた防御結界を展開していた。

 マリアはそんな結界に気づいてないようで、ただ顔見知りなのかおっさんの顔を見て気まずそうな表情をしている。



「おいおい、武器をちらつかせるな。こっちはアンタじゃなく、こっちの嬢ちゃんに話があるんだからよ」


「だから要件を言えっての」


「ちっ……そこの嬢ちゃんに金を貸してるんだよ。銀貨十枚」


「えっ! 私が借りたのは銀貨五枚じゃないですか!」


「おいおい、契約書をちゃんと確認したのか? 複利で今はもう銀貨十枚になってるんだよ」


「そんな!」


「おい待ておっさん。それって闇金融だろ」


「うるせーぞアンタ。こっちはそういう契約で身分証も無いそこの姉ちゃんに金を貸したんだ、リスクも抱えてるんだから高利なのは当たり前だろ」


「普通に違法だからなそれ」


「うるせー関係ないやつは黙ってろ! それともお前が銀貨十枚を代わりに払うか?」


「メイドさーん」


「はっ、お側に」



 困ったときはメイドさんに任せよう。



「このおっさんを拘束。んで組織のメンバーとか事務所の場所をゲロさせちゃって」


「「「はっ」」」


「えっえっ?」



 いつの間にか三人いたメイドさんにあっという間に制圧されて縛り上げられるおっさん。



「おいおい、待てよ! 俺が何をしたって言うんだ! っていうかそもそも誰なんだお前は!」


「お前は貸金業規制法違反だ。というか貸金業は官営でしか認めてないから。あと俺はここの領主な」


「なっ!」


「はいはい、メイドさんよろしくね」


「「「はっ」」」



 縛られたおっさんがメイドさんに連行されていく。

 貸金業自体は元々身分証で収入が把握できてたから官営でやってたんだけど、身分証の無い連中相手に金を貸してるのもいるんだなあ。

 身分証を比較的取得しやすいようにしつつ、こういう業者は潰していかないと。



「クリス」


「申し訳ありません旦那様。すぐに闇金業者の撲滅と、身分証を発行しやすくするための法案を作成致します」


「あれ……? 私もうお金返さなくていいんですか?」


「んー、まあ返す相手も組織も無くなるからなあ」


「ありがとうございます! センセ!」


「いやいや、先生ってなんだ。それにもしあいつの組織がまともな業者だったら、貸金業務はできなくなってもほかの業種で生き残るかもしれないし、お前への負債が完全に消えたわけじゃないぞ。利息もまともな利息で計算されて請求起こされるかもしれないし」


「いやいや! あないな高利悪徳業者がまともなわけあらしまへん! こらうちの丸儲けいうやつや!」


「なんで急に方言出てるのお前……。京都弁かこれ」


「おおきに! おおきになセンセ!」



 キラッキラした目で俺を見ながら京都弁? でお礼を繰り返すマリアを見て、なぜ俺の周りにはまともな奴が少ないんだろうとため息をつくのだった。



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