第八話 魔導士協会との伝手


 とりあえず今対応できることを話し合った後は、客車内でまったり会話をしながら馬車はガラガラと舗装された道を進んで行く。

 街道も舗装されてりゃファルケンブルクから王都までは三日じゃなく二日で行けるんだけどな。

 今は野営できるように二、三ヶ所に開けた場所がある程度だけど、宿場町とか設置すれば一泊して……って。



「駄姉」


「なんでしょうか?」


「ファルケンブルクから王都まで舗装できないかな、んで中間地点辺りに宿場町を作ったりすれば雇用も生まれるし。うちの管轄にしていいのかとかあるけど」


「なるほど、流石旦那様ですね。慧眼です。一泊で王都への移動が可能になりますね」


「ただ舗装なんだよな、アスファルトなんか無いし。というか石油をほぼ使用してないからなこの世界」


「ろーまの軍用道路が役に立つのではないでしょうか?」


「異世界の本の知識もちゃんと身に着けてるんだな、尊敬するわ。粘土と砂利を固めた上に石を敷いたんだっけ? マジックボックスの所有権移転がまだ済んでなかったからスマホの百科事典アプリが使えん」


「詳しい構造は王都にある図書館の蔵書にございますわ。後ほど資料に纏めさせます」


「平坦な道も多いし、ローマ街道よりは簡単にできるかもしれん。しばらくは砂利道になるだろうが。ローマンコンクリートって道路にしても良いんだっけか? でもコンクリートっぽい建物はそこそこ見かけるし、敷設費や補修費なんかも出して費用対効果に良い方法を選んでくれ」


「はい、そのあたりの調査も含めまして、設計に少し時間をかけた方が良いかと思いますわよ旦那様」


「施工事例が無くて経験が無いとか? 調査やら設計に数年かかるとかならまずは砂利道でも先に敷設しっちゃった方が良さげだが」


「いえ、軍用道路として敷設するのは、王都から我が領地に侵攻してくる敵軍にとってもメリットになりますから」


「うーん、この危険思想。そういう所だぞ、駄姉が残念美女なのは」


「まあ美女だなんて、光栄に存じます」


「残念って単語がつくけどな」



 ガラガラと進んでいた馬車が減速を始める。

 そろそろ宿屋かと窓から外を見ると、高級感漂う四階建ての建物のポーチに入っていく。

 たしかに伯爵位を持つ人間ならこれくらいの場所に宿泊しないと駄目だろうな。

 警備の問題もあるだろうし。


 馬車が停止すると、ドアマンみたいな宿屋の係員が複数人で出迎えてくる。

 前世でもそんな高級ホテルに宿泊すらしたことない俺は、軽くビビりながら降車して、嫁たちをエスコートして降ろす。

 もちろん抱きかかえたりしないで手を貸すだけだ。


 町を出てからというもの、あまりにも事件に巻き込まれ過ぎなので、思わず姉のいるレッドリバーって名前のベルボーイとかいないか確認したくなったがやめておこう。

 ここでも巻き込まれるのはごめんだ。



「お兄様、地竜の件で報告があるそうです」


「じゃあ部屋で聞くか」


「はい」



 係員に最上階の部屋に案内されて入室すると、三十畳とかそれ以上ありそうな空間の中央に応接セットが備えられた部屋と、更に奥に繋がる扉が三ヶ所ほどある。

 奥の部屋は寝室とかかな? 一応エリナ以外は未婚の女性だけだし。

 他に部屋は取って無さそうな感じだしな。

 むしろ駄姉が男の俺だけ別の部屋を取るわけがない。


 早速お誕生日席に座ろうとすると、五人掛けソファーの真ん中に座らされ、左右にエリナとクレア、その左右に駄姉妹が座る。

 なにこれ、嫁の中で序列が決まってんの?



「では報告を」



 駄妹の数少ない見せ場だ。

 女騎士タイムになると印象が変わる。

 普段はアホなのに。



「はっ。地竜の回収は全て終了いたしました。こちらが素材として回収できたものと損傷状況の報告書になります。問題無いようでしたら署名の上、魔導士協会までお持ちくださいとの事です。また魔導士協会で金貨二百枚で買い取らせて頂きたいとのご提案も頂いており、そちらに関する売買契約書も頂いてまいりました。その場合、地竜の回収料金は無料にさせて頂くとの事です」


「二百枚か。前回は頭部損傷ありで、税金とオークション利用料合わせて十五%引かれて百六十枚だっけ? 妥当っちゃ妥当なのか」


「旦那様、このまま魔導士協会に引き取って頂いた方がよろしいかと存じます。わたくしに伝手がありますので、旦那様個人の取引ということにしましょう。そうすれば王都でなはく、ファルケンブルクの税金として徴収する事が出来ますから。近衛騎士団が地竜を回収していたら、回収の手数料を取られない代わりに、この手は使えませんでしたけれど」


「王都に金を落とすのは嫌だからそうするか」


「それに、魔導士協会に貸しを作ることになります。魔導士協会は王、いえ現政権とは距離を置いた独立独歩の気風なので、今回の件では非常に心強い味方になりましょう」


「俺はお前が味方で良かったよ駄姉」


「ありがとう存じます旦那様」


「ではお兄様、こちらに署名を」



 駄姉の提案に俺が賛同したのを確認した駄妹が、護衛騎士から二枚の書類を受け取ると俺の前に置く。

 更にいつの間にか取り出した万年筆を差し出してくる。

 普段からこんな感じだったらなー。

 アホな駄妹も可愛げがあって良いんだけど、アホ成分が多すぎなんだよなと少し残念に思いながら、地竜の回収確認書と、金貨二百枚での買取を承諾する売買契約書にサインをする。



「旦那様。この書類は直接魔導士協会に持ち込みませんか?」


「なるほど、直接協力を頼む必要があるかもしれんしな」


「なら、卿は後日直接書類をお渡しすると魔導士協会に伝えてきてくれ」


「はっ」



 駄妹が護衛騎士に指示を出す。

 魔導士協会に行く前に情報収集が必要だな。

 駄姉の工作員の情報が入るまでは王都内を回ってみるか、新婚旅行も兼ねてな。

 

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