第七話 陰謀
ガラガラと馬車はラインブルクの貴族街を進んでいく。
貴族街にある宿屋という事で、城からすぐに着くそうだ。
「駄姉、ファルケンブルクの暗殺ギルドと盗賊ギルドに工作員を入れられるか?」
「今回の件で王国宰相から何か伝わるかもしれませんしね。内部に敵を作る事にもなりますから早急に対処致します」
「話が早くて助かる。すまんな、相談も無く勝手に馬鹿王に話をしちゃって」
「いいえ、むしろこのタイミングで無ければ交渉にすらならなかったでしょう。結果的に不許可だったとしても背後の関係が透けて見えましたから、いくらでも今後の対応策を講じる事が出来ます」
「まーあいつだよな。まさに利権の中心人物って感じがする」
「はい」
「とりあえずその件は置いておくか、三日後までやることないし、ぶらぶら適当に王都見物でもしよう。一応新婚旅行目的もあったしな」
「わーい! お兄ちゃん、留守番してるあの子たちにお土産も買おうね!」
「おばさまや市場のみなさんにも買わないといけませんね」
「でしたらわたくしは騎士団に買おうかしら」
「アイリーンや文官の分はわたくしが買いますわシルヴィア」
移動中に馬車の中から見る貴族街は、新鮮だが何か違和感を感じた。
そうか、通行人や馬車がほとんどいないんだな。
ファルケンブルクには、貴族と言っても縁戚の周辺諸侯から子弟を騎士団員として入団させていたり、官僚としての働きや武功で名を挙げ、叙爵した領地の無い法服貴族や、同じく領地も継承権も無い騎士爵や准男爵がいる程度だ。
それでもファルケンブルクの貴族街は人の出入りはあるし、商人を呼んで物を買ったりするたびに店の使いが貴族街を行き来するので、このラインブルクの光景はやはり少しおかしい。
「景気が悪いんかな」
ぽつりと呟く俺の言葉に駄姉が反応する。
「このあたりは貴族街と言えども下位貴族の屋敷が多い場所ですからね」
「じゃあ宰相やその取り巻きの住んでるあたりは大盛況かもしれんな」
「非主流派なんてそのようなものですよ旦那様」
格差か、世知辛い。
「そういや地竜はどうなったんだろ」
「親衛騎士団に付けた連中は多分宿で待っていると思いますよお兄様。報告があるでしょうしそれを聞いてみましょう」
「それにここには魔導士協会もありますしね。あそこの連中が希少な素材を放置するわけがありませんし」
「ああ、そうか。なら安心か。その魔導士協会の連中が素材をちょろまかしたりしないだろうな?」
「資金だけは豊富ですからね、オークションに出品されようが欲しいものは必ず手に入れる性質なので、わざわざ危険を冒す必要はありません」
「地竜の売却益で公共事業がもっと楽になるな」
「南部の森を新規開拓する案件も早く進みそうですよ旦那様」
「良い稼ぎになったな。まさに地竜様々だけど」
「親父殿への土産話にもなりますねお兄様!」
駄妹の言葉に、下手な土産よりよっぽど親父が喜ぶだろうな、と思っていると、ふと気づく。
「怪しくないか? 何故ちわっこが外出中に地竜が沸いて、野盗に襲われるんだ? 偶然にしちゃ出来すぎだろ。しかもわざわざちわっこを連れて行った騎士は野盗のアジトに向かうとか」
「私見ですが」
「言ってみろ駄姉」
「宰相を殺しましょう」
「うむ、相変わらず色々すっ飛ばしているが、言いたいことはわかる。あいつ怪しすぎだしな、ギルドの件もあるし」
「王女……、シャルちゃんに思い切り警戒されていますからね。亡き者にしようと企むのは道理かと」
「だから降嫁にも賛成だったんだろうな。体のいい追い出しになるし、その後なんやかや理由をつけてファルケンブルクを陥れるってところか」
「兄さま、でしたらシャルちゃんをあのお城に置いて来たのはまずかったんじゃないですか? 危なくないんですか?」
「今のところは城内の方が安全だろうとは思う。城内や王都内で手が出せないから外出中を狙ったんだろうし。ただ今回の失敗で焦って無茶をしてくるかもしれん。ただシャルを城から出す口実が無いしな……」
「それに兄さま、先程モルガンという方を治癒した時なんですけど……」
「そういやクレアは何か反応がおかしかったな」
「はい、あの方、ケガをしていませんでしたから。もちろん疲労で倒れていただけかなとも考えましたが、明らかに負傷したようなそぶりでしたので。その後馬にヒールと治癒を行使した時にはちゃんと治った手ごたえというか感覚がありましたし」
「……なるほど、そいつが野盗のアジトの方へシャルを誘導したのかもしれんな」
「クレア様はかなり有能な使い手ですね。治癒やヒールの反応を視力に頼らず感じ取れるのは魔力操作に相当な素質があると思われます」
「てへへ、ありがとうございますクリス姉さま」
「そうか、ケガをしたふりをしてても気づかれないと確信していたから演技をしていたと」
「そうですね、治癒魔法を行使してなんの効果も得られなかったと知覚するには微妙な魔力を探知する素質が必要です。他者の魔力を励起出来るような使い手でないと不可能だと思われます」
「ってことはあのモルガンって奴も一枚噛んでるな。イザークとか言う馬鹿は多分いいように使われただけだろう。下手したら野盗に殺されててもおかしくない状況だったし」
「兄さま、シャルちゃんの護衛をする人間にそんな人が混じってたら危ないですよ」
「そうだな、どうするか。ベルナールに言い含めておくかな」
「旦那様、ブルダリアス卿も完全に味方とは判断しきれません。それにブルダリアス卿自身は問題無くても直近の上司や部下に宰相の息のかかった者がいれば、こちらが敵の手の内を看破したことが発覚致しますし」
「ならばクリスの側近を使えるか?」
「わたくしだけの側近だけだと手が足りないと思われます。旦那様エリナ様クレア様に付けている側近を少しずつお借りして対応いたします」
「えっクリス姉さま、私にもそういう人を付けていたんですか?」
「はい、旦那様とは違って、主に護衛を主任務にした女性の側近のみを三名程ローテーションで、ですが」
「全然気づきませんでした……」
「護衛とか連絡係をエリナやクレアに付けるのは良いけど、男とかつけるなよマジで、生活を覗いてるようなもんだしな。女性でもプライベートなところは見せるなよ」
「それは当たり前ですよ旦那様。今回はわたくしたちで纏まって行動するのであれば、護衛は各一名とさせて頂いて、シャルちゃんの護衛や騎士団への調査に回したいと思います」
「凄い便利だけど育成とか大変そうだな。金もかかってそうだし。でもその忍者とか隠密っぽいのも人数を増やしたいな」
俺と駄姉とクレアが話をしている最中、エリナと駄妹のアホコンビは馬車の窓から外を眺めている。「わー、あの建物すごーい。すごいねシルお姉ちゃん!」、「そうですね、すごく高い建物ですねエリナ様!」とか言ってて別世界のようだ。
ま、大人しくしてくれればいいか。
「旦那様、それ以外の側近に関しては、城内に入った時に数名忍び込ませました。王や宰相に何か動きがあればすぐに知らせるよう申し付けてあります。並行してシャルちゃんの身辺を警戒するようにも申し伝えておきますね」
「有能なのは良いけど、最初から宰相を疑ってたのか、それとも何か馬鹿王の弱みでも握ろうとしてたのかどっちなんだ駄姉」
「どちらもですね」
「あっそ」
「流石クリス姉さまです!」
「クレア様も将来有望です。モルガンの件に気づいたのは素晴らしかったですよ」
「えへへ、ありがとうございます」
やっぱり面倒ごとに巻き込まれるのな。
とは言え放置できんし、なんとかしないと。
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