第九話 王都散策


 みんなで側近が淹れてくれた茶を飲みつつ、菓子をつまんでいると「あっ、クリスお姉ちゃん、シルお姉ちゃん、交代の時間だよ!」とエリナが急に言い出したと思ったら、「ありがとう存じますエリナ様」と駄姉妹が俺の両隣に座る。

 なるほど時間制なのな。

 妙に仲が良いし、いいことなんだが、なんか俺の関与していない所で色々決められてて困惑する。


 駄姉妹は俺の腕に抱きついて密着してくるからお茶が飲めないなーなんて思ってると、「お兄様あーんしてください!」とかさっきまでかっこよかった駄妹がティーカップを持って、俺に口を開けろとアホな事を言いだしてきた。

 エリナと同じ思考回路なのかなこの婚約者は。



「気管支に入りそうだから却下」


「えー」


「それより、まだ明るいうちに町の中を見て回ろう」


「王家に対する民衆の不満を調べるのですね」


「そういう側面もあるんだけど、駄姉はほんとすぐそっち方面の話をするのをやめろ」


「兄さま、私本屋さんとか見てみたいです」


「流石クレア。今後は託児所だけじゃなく、領地経営でもクレアの力を借りることになるだろうから頼もしいぞ」


「てへへ」


「お兄ちゃん私も頑張るからね!」


「そうだね」


「なんかクレアとずいぶん差がある気がする!」


「そんなことないぞ可愛い俺のエリナ」


「えへへ」


「そういや飯も食ってないんだよな。市場で買い食いでもしながらぶらつくか」


「「「はーい!」」」





「物価が高いな……」


「そうだねー、お肉屋のおじさんのお店の倍くらいするね」


「兄さま、味も……」



 馬車で宿屋から出て、商業区域の手前から徒歩で市場をぶらつく。

 両腕は駄姉妹にがっちり抱きしめられて、エリナとクレアが手をつないで俺達の前を歩いている。

 先程買ったばかりの薄切りの食パン二枚で具材を挟んで半分にカットした雑なサンドイッチをパクつきながら歩いているが、エリナとクレアは価格と味に不満なようだ。



「はいお兄様!」


「お前、あまり美味くないって前の二人が言ってるのに食わせようとするなよ……ぱくっ。……んく、たしかに美味くないな。うちで売ってるサンドイッチの方がダントツに美味い。具材も少ないし味付けも薄いしパンも良い小麦を使ってないのか時間が経ってるのかパサパサだ」


「クレア様のテリヤキチキンサンドの方がずっと美味しいですよ!」


「シル姉さまありがとうございます!」



 そういや嫁とイチャコラしてるとツバを吐いてくる独身のブサイクなおっさんがいないな。

 あれってファルケンブルクだけなんかな。

 顔とかブサイクとだけしか覚えてないけど、今託児所の工事で働いてるおっさんがそれ?

 もし一人だったら遭遇率高すぎて怖いな。


 などと考えながら、串焼きとか色々買っては食べてみるが、やはり高いし味も微妙だ。

 エリナと駄妹の腹ペココンビはあからさまにしょぼーんとした顔をしているし、クレアは不味い原因を探してるのか、難しい顔をしてちびちび口に入れては時間をかけて咀嚼している。



「駄姉、晩飯は王都で一番のレストランで食ってみるか。多分糞高くて不味いだろうけど、俺が金を出すから予約しておいてくれ」


「かしこまりました旦那様」


「レストラン!」


「あまり期待するなよエリナ、多分がっかりすると思うから。クレア、食材を買って部屋にあったキッチンで何か作るか。その方が美味い物を食えそうだ。どうせ高級レストランの飯じゃ食った気しないだろうからな」


「わかりました! お任せください!」



 ふんす! と小さく握りこぶしを作って気合を入れるクレア。

 普段委員長キャラのクレアのちょっと子供っぽいしぐさが可愛い。



「良い材料も少なそうだし、難しいだろうけど可能な限りで良いからな」


「はい兄さま!」



 そのままてくてくと食材を買ったり、露店などを冷かしながら散歩をする。

 なんとなく寂れた雰囲気があるんだよな。活気が無いというか。

 広さはファルケンブルクの市場の倍以上はあるけど、多分人の数は半分以下だろう。

 食い物だけじゃなく、工芸品やハンドメイドの品などもファルケンブルクより高価だ。



「物流が滞ってたりするのか?」


「それなりに物は入ってきてはいるのですが、安定してはいないですね。ただそれよりも一番の原因は税金が高いのですよ旦那様」


「ファルケンブルクの前の領主よりも無能なのか馬鹿王は」


「というよりは宰相か財務担当官か、というところでしょうか。我が領地はアイリーンや能力のある官僚がなんとか踏ん張っていましたから。あとは長く続いた腐敗体制かと思われます」


「どこにもクズがいるんだなー」



 そうこうしてるうちにクレアの希望だった本屋にたどり着く。

 貴族街ではなく商業区域の本屋なので中古本が大半だ。



「わー!」



 はしゃぐクレアというのも珍しい。

 大量の本を見て目が輝いている。



「クレア様、わたくしと一緒に見て回りましょう。クレア様のお役に立ちそうな本があればお教えしますよ」


「お願いしますクリス姉さま! 兄さまいいですか?」


「ああ、好きなだけ見て来い、欲しいのがあれば好きなだけ買ってやるから遠慮するなよ。といってもレストランの予約時間までだけどな」


「はい! ありがとうございます兄さま!」



 駄姉を引っ張って店内に突入するクレア。

 うむ、連れてきて良かったな。



「お兄ちゃん私たちも託児所の子たちの絵本とか勉強になる本を探してあげようよ」


「グロ無しでな」


「お兄ちゃんのヘタレ―」


「ミコトちゃんのお土産に絵本というのも良いですねお兄様」


「ミコトは俺が純粋培養してるんだから、決して登場人物が血まみれになるような絵本を買うなよ」


「はいお兄様」



 流石王都だな、取り扱ってる本の量はファルケンブルクの比じゃない。

 ファルケンブルクはやたらと多色刷りで血の色が綺麗な本しか勧めてこない中古本屋と、専門書などを扱う本屋しかないからな。

 絵本を眺めていると、日本の童話の絵本が売られている。<転移者>の記憶で作られた本か。

 浦島太郎とか比較的安全な本も多いし買っていくか。浦島太郎が理不尽な目にあう理由がいまだにわからんが。

 むむむとガキんちょ用の絵本をいくつか選んでると、それぞれ本を抱えて戻ってくる。



「じゃあ買っちゃうか。んで馬車まで戻って晩飯だな晩飯」


「「「はーい!」」」



 宿屋まで買った本を運んでくれるというので、本屋に任せて馬車へと戻る。

 絶対に美味くないと思うけどな。

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