第十五話 冒険者ギルド名物のあの事務員
クズゾーンにたどり着くと、目的地の両隣の暗殺ギルドと盗賊ギルドが目に入る。
両ギルド組合長が捕縛されたのはすでに連絡が来ているだろう。
王女暗殺に加担したとあっては極刑は免れないだろうし、ギルド自体も廃止になるかもな。そうしたらここもさっさと更地にしないと。
そうすれば託児所をこのあたりまで拡張してもいいかもな。元々領主家所有の土地だし。
冒険者ギルドが近くなることでクズが託児所付近を出歩くことになるが、警備兵を置いておけばあいつら何も出来ないし。
潰した後は、現地雇用のギルド職員に有能なのがいればアイリーンの部下にしても良いんだが……。果たして普段仕事が無い職場の職員なんて戦力になるのだろうか?
色々考えながら、ま、まずは潰してからだなと冒険者ギルドに入る。
「おいっす」
「おや、領主さま。いらっしゃいませ」
「今まで通りトーマで良いよ。どうせお飾りだ」
「かしこまりました、トーマさん」
「これお土産な。んで金を下ろしに来た。金貨五枚、いや十枚で」
「まあ、ありがとうございます。職員全員で頂きますね。では登録証をお願いします」
いつもの処理が終わり、金貨十枚が差し出され、それを受け取る。
領主だから信用取引で指輪を買えそうなんだけど、まあいいか。
「ここの事務員は人数足りてるのか? いつもお前がいるし休み取れないほど忙しいとか」
「十分とは言えませんが、まあなんとかやってますし、私も好きでここにいますからね」
「なら良いんだが、口が悪い以外は有能な上に働き者なのか……」
「残業手当も休日出勤手当も出ますからね」
「労働基準監督署がないから労働時間が多くても業務指導できないんだよなこの世界。手当がきっちり出てるのは安心したけど」
「まあ普段は座ってるだけですし、気楽でいいですよ」
「それで満足してるなら良いんだが、何かあればギルド長か城の人間に言ってくれ。あと冒険者がうちの工事現場に来てるけど、酷いのは首にするからな」
「無礼討ちして頂いて、そのまま本当に首だけにして頂きたいというのが本音なんですけれど」
「縁起が悪いわ。あの土地の上で暮らすんだぞ、処理はそっちでやれ」
「解雇だとペナルティが付きますからね、優遇処置が無くなりますので、そのまま食い詰めて貨幣造幣ギルドの依頼を受けると思いますよ」
「あ、あと冒険者ギルドは残すからな、間引き任務は治安維持にかなり効果があるって調査結果が出たし。ただ名称は変えるかも知れん、冒険者の意味が未だに分からんからな」
「ではさっそく解雇された連中の為に依頼を用意しておきますね」
「凄い笑顔でさらっというお前に軽く恐怖心を覚えるが、お前の経歴見たらすごいのな、是非城で働いて欲しいくらいだ」
冒険者ギルドの調査報告書に、この事務員の経歴書もあったのだ。
元々冒険者ギルドは社会不適合者を相手にする必要上、有能な職員をあてていたのだが、この事務員は平民出身ながら中級魔法を使いこなし、採用試験を優秀な成績で突破して幹部候補として国に採用された経歴の持ち主だ。
ただここのギルド長たっての希望で引き抜かれここに配属されたという経緯で、給料は一般公務員よりは高いが、明らかに能力には見合っていない。
なので暗殺ギルドと盗賊ギルドが無くなり次第、冒険者ギルドの待遇改善をする予定だ。実績もあげてるしな。
「クズが駆逐されると失職しますから、その時はよろしくお願いしますね」
こいつがいればアイリーンが随分楽になるんだがなーと思いながら、「おう」と返事をして、冒険者ギルドを出る前に掲示板を確認する。
いつものルーティーンだな。
あれ? 魔王捕縛依頼が無いな。王都に行く前まではあった気がするんだが。
「事務員、魔王は納税できたのか? それとも捕まった?」
「魔王さんなら今トーマさんの所で働いていますよ?」
「解雇予定者リストには魔王なんて名前が無かったが、真面目にやってんのかな?」
「気に食わなかったら手討ちでお願いしますね」
「真面目にやってたら別に間引かなくても良いだろ……」
いつも通り過激な発言をする事務員を背に、高級ゾーンへ行く。
俺の周りって変な奴多いな……と今更ながらに思うのだった。
高級ゾーンにたどり着くと早速宝飾店に行き、指輪を三個購入する。
魔法石をどうするか迷ったが、クレアは白魔法だけだし、駄姉は全属性、駄妹は風と雷以外が使えるが、水の魔法石は一期一振影打に仕込んであるので、結局全員ダイヤにした。
汎用性高いからな。割れないし。
デザインも俺とエリナと同じ意匠にしたので、魔法石以外五人が全員同じものだ。
もちろんリング内側にはそれぞれ名前を刻印してもらったので、見た目は同じでもちゃんと区別はできている。
さて、結婚指輪を渡すのは結婚式当日でも良いけど、早めに言っておかないと準備しちゃいそうだしな。
高級ゾーンから再び商業区域の市場まで歩いていく。
今日すげー歩いてんな俺と思いながら、野菜売りのおばちゃんの店にたどり着いた。
「おばちゃん久しぶり、これ王都のお土産ね」
「あら、悪いね、お兄さん。そういえば領主さまになったんだろ? 詳しくは知らないけどおめでとうね」
「めでたいかどうかは別として、まあ今まで通り買い物に来るからよろしくなおばちゃん」
「あいよ。で今日はどうするんだい? お弁当用とか現場用のも箱に入れて準備できてるよ」
「今日はピザとシチューとポテサラ、サラダなんかを作る予定だから、いつものように二十五人前より少し多めで適当に籠に放り込んで欲しい」
「あいよ」
カートを取り出した籠に、ぽんぽんと次々に野菜を入れていくおばちゃん。
いやー楽だわこの方式。メニューを決めてないときは野菜見て決めるから適当に入れてって言えば入れてくれるしな。
うちの二十五人前の分量もわかってるから頼もしい。
とにかくすげー食うからなあいつら。
カートを組立て、用意してもらった現場用と弁当用の野菜の入った箱を乗せていると、おばちゃんから「入れ終わったよ」と言われたので、籠を背負う。
「おばちゃんありがとうな。預け金が足りなくなりそうになったら言ってくれよ。あとおまけは絶対駄目だからな! ちゃんと請求するように。なんだったら少しくらい多めに取っても良いから」
「多めには取らないけど、ちゃんと正規料金で伝票処理するから大丈夫だよ。明日の分に変更は無いのかい?」
「特に聞いてないから平気だと思うぞ」
一週間毎の献立表を作ったので、一週間ごとに弁当と現場分の野菜の発注書を書いて渡しているのだ。
受け取るだけなのは楽だな。いちいち考えないで済むし。
献立表作ってるのはクレアだけど、栄養バランスもバッチリだ。安いし。
その後はカートをゴロゴロと押しながら市場を回り、足りなかった調味料やら小麦粉やらパンを買った後、肉屋で荷物を回収して終わりだ。
一人だとやっぱ移動中寂しいな、結構な距離歩き回るし。
一号あたり無理やり引っ張ってくればよかったわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます