第十六話 ちちゅーを作ろう


「兄さまお帰りなさい!」



 孤児院全体に張られた防御魔法で感知したのだろう、クレアが一人で出迎えに来る。

 良くわからんがクレアが認知した人間なら弾かれない防御魔法らしい。

 婆さんの時は誰かが外出してる間は防御魔法を解除して施錠魔法だけだったが、随分とセキリュティが上がった。

 敵味方識別機能付きとかもはやわけわからんが、駄姉やクレアなら可能らしい。



「クレア、みんなは?」


「姉さまたちはみんなに絵本を読んでとせがまれて動けないので私だけ来ました」


「そか、食材買ってきたから一緒に料理作っちゃうか。量も種類も多いけどクレアがいれば助かるしな」


「はい! 頑張りますね兄さま!」


「頼もしすぎる」



 託児所の台所に晩飯と弁当の食材を置いたら、残りは炊事場へ持っていく。

 指輪もとりあえず部屋に置き、さっさと台所に戻ろう。

 孤児院と託児所の名称がめんどくさいな。どっちのも台所はあるし。

 そのうち学校と職員棟になりそうな気もするがまだ気が早いな。増築もどんどんしていくし。


 そんな事を考えながらクレアの待つ台所に戻り、早速料理を開始する。

 ちゃんとピザ窯も用意された豪華キッチンだから料理がしやすくて助かる。



「兄さま、今晩のメニューはどうするんですか? 材料を見れば大体予想が付きますけれど」


「ハンバーグピザにポテサラとサラダに鶏のから揚げ。あとミコトがシチューを食べたいと言ったからこれは全力で作るぞ。柔らかい鶏もも肉買ってきたし」


「わかりました!」



 まずはミコトの為に鶏もも肉を柔らかく仕上げたいからシチューから取り掛かる。

 圧力鍋が無いんだよな、蒸気機関が実用化された頃に発明された物だし。知識というか設計は伝わってるはずだし探せばばあるのかな?

 まあ無いものねだりしても仕方がないので軽く具材を炒めた後に、小麦粉、バターを加えてさらに炒める。

 そうしたら牛乳、を注いで、生クリームを入れて弱火で煮込む。

 鶏肉や人参が柔らかくなるように煮込む時間は普段より長くする。



「シチューの仕込みはとりあえずこれで良いか。ピザの生地の発酵をやって、ジャガイモを大量に茹でて、唐揚げの下味か、流石に手間がかかるな」


「兄さま、ジャガイモは洗っておいたので茹でちゃいますね」


「というかクレアの指示に従った方が効率良いだろ、クレアが仕切ってくれよ」


「兄さまの料理が好きなんです。なので私は兄さまのお手伝いをしたいです」


「じゃあジャガイモ茹で始めたら唐揚げの鶏もも肉の下味付けて貰えるか? 俺はピザ生地の仕込みをやる」


「任せてください。生姜多めの兄さまの好きな味付けにしますね」


「衣は片栗粉多めの竜田揚げ風でな」


「兄さまの好みはわかってますから大丈夫ですよ」


「愛されてるなー俺」


「ふふふっ」



 イチャつきながら料理を作ってると、うるさいのが飛び込んで来た。



「お兄ちゃんごめん! ミコトちゃんと遊んでたらお兄ちゃんのこと忘れてた!」


「お兄様申し訳ありません! ミリィ様がなかなか離してくれなくて!」



 相変わらず嫁のストレートな言葉がちょっと傷つくし、駄妹は胸を触らせ過ぎだ。少しは抵抗しろ。



「エリナは得意なポテサラを頼むな。これはエリナが一番美味しく作れるし」


「うん! 任せて!」


「駄妹はリビングの隅の綿埃でも拾っておいて」


「酷いよお兄ちゃん!」


「流石に言い過ぎたな」


「掃除はしっかりあの子たちでやってるから綿埃なんか落ちてないよ!」


「そっちかよ。じゃあ駄妹はピザの具材のカットを頼む。それが終わったら正座な」


「はい! お兄様!」



 うむ。駄妹はなんかエリナとは違ったアホ可愛さがあるな。

 そういや死ねとかクズとか言ったのに全然めげずに俺に会いに来るほどだからな。

 とはいえ本気にしそうだからほどほどにしてやるか。



「兄さま、誰か来たようですよ? 敵意は無いようなので開錠しますね」


「敵意の有無までわかるんか。まあ俺が行ってくるわ。訪問販売だったら追い返すけど、悪意のない訪問販売ってめんどくさそうだな」



 あとはピザ生地を発酵させるだけだったのでちょうどいい。託児所の台所から玄関に行くと、アイリーンが焦った表情で立っている。



「閣下、急にお伺いして申し訳ありません」


「それは構わんが、どうした?」


「城に王都から先触れが来まして、急遽こちらにお知らせにあがりました」


「王都から先触れって、ちわっこ……シャルロッテが来るのか?」


「はい、それも多分、今日中には」


「マジか。で、お前が直接来たって訳か」


「はい。ギルドの件や孤児院のお話があるかと思いましたので」


「本当にすまんなアイリーン。現状駄姉を除くとお前しか頼れる人間がいないから来てもらって助かる」


「光栄です閣下。他の業務は引き継いできましたので問題ありません。王女殿下が来られるまではこちらで書類の事前準備をさせて頂いて宜しいでしょうか?」


「それは構わないんだが、執務机がある部屋が孤児院長室くらいしか無いんだよな、それか俺とエリナの部屋なんだが」


「それは申し訳ありませんので、食卓などでも構いません」


「わかった、じゃあこっちだ。託児所じゃなくて孤児院のリビングならガキんちょもいないし丁度良いと思う」


「お手数をおかけして申し訳ありません閣下」


「いやいや、助かってるのはこっちだ」



 恐縮してるアイリーンをリビングに案内する。

 筆記用具なんかは持参していたらしく、「このテーブルでいいか?」と聞くと、「ありがとうございます。十分です」と言ってすぐに執務を始める。



「じゃあ俺は託児所の台所で料理してるから何かあったら呼んでくれ」


「かしこまりました」



 台所に戻ると、エリナはポテトマッシャーで茹で終わったジャガイモを潰してるところだった。



「ちわっこが今日来るかもしれないってさ」


「えっ、お兄ちゃん、シャルちゃんが来るの?」


「うむ。先触れが城の方に来たってアイリーンが知らせに来た」


「先触れが来る日に到着というのも慌ただしいですねお兄様」


「まあちわっこのやることだから、『みんなに会いたくて早く来ちゃった!』とか言い出しそうだ」


「シャルさんなら言いそうですね兄さま」


「そうだ、クレア。それの件で部下のアイリーンが託児所の方のリビングに来て、ちわっこに見せる資料を急遽纏めてるんだ。悪いがお茶を淹れてやってくれないか? あと今後もちょいちょい来るだろうからIFFの設定をしておいてくれ」


「あいえふえふってなんですか兄さま」


「敵味方識別装置の略だ。アイリーンは味方だから防御魔法を突破できるようにしておいてくれ」


「相変わらず意味の分からないこと言うんですね兄さまは」



 さっきまであんなに仲良く料理していたのに、クレアは冷たい言葉を残してティーセットとお菓子を持ってリビングへ行く。

 ちょっと悲しい。

 でも敵味方識別装置ってすごく浪漫溢れる言葉なんだぞクレア。



「シチューも大分良さそうだな。煮崩れしやすいジャガイモとブロッコリーを入れて塩コショウで最終的な味付けをしちゃうか」


「私は煮崩れたジャガイモも好きだけどね! 味が染みてるし、シチューにとろみも出るし!」


「それもわかるんだがな、ホクホクと食いたいじゃないか。あ、でもミコトのこと考えたら煮崩れした方が良いのか。よしジャガイモだけ先に入れて少し煮込もう」


「お兄様はミコトちゃんに甘いですよね」


「可愛いからなー」


「お兄様わたくしはどうですか?」


「可愛いと思うぞ普通に。少しアホだけど綺麗だし、女騎士バージョンの時はかっこいいと思うぞ」


「はわわっ! ありがとうございますお兄様! すごく嬉しいです!」


「お兄ちゃん私は?」


「可愛いに決まってるだろ。俺のエリナなんだから」


「お兄ちゃん大好き!」


「お前らチョロ過ぎだけど、そういう所も可愛いぞ」



 ジャガイモをいつもの半分以下のサイズに切って巨大な鍋にぶち込んでいく。

 面取りしないでわざと煮崩れさせるスタイルだ。ブロッコリーは最後の最後だ。


 さて、先に軽くハンバーグに火を通したらピザを焼き始めるか。

 久しぶりの料理は楽しいな。

 あれ? ちわっこも食うのかな? まあ食うだろうな。ついでにアイリーンにも食わせてやるか。大量にあるし。

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