第十七話 領主代行
ピザをどんどん焼いてる間に、戻ってきたクレアが鶏からを揚げている。
唐揚げというよりは竜田揚げに近いのかもしれんが、衣に片栗粉を使うと竜田揚げなんだっけ? どっちでも良いけど。
弁当用にパンにはさむのは、冷めたり、衣が水分を吸っても美味しいように、衣は小麦粉で揚げてるけどな。
その場で食べるなら竜田揚げサンドとか作っても良いかも。
「お兄ちゃんポテサラ出来たよ! 今日はカリカリベーコンを入れてみた!」
「素晴らしいぞ嫁。そういや日本にもカリカリベーコン入りポテサラがあったわ。独自の発想でそこまでたどり着くとか天才だなエリナは」
「えへへ!」
「兄さまから揚げできましたよ!」
「うむ。一目見ただけで完璧だとわかる素晴らしい俺好みの竜田揚げ風から揚げだ。流石クレアだ、将来の台所はお前に任せたぞ」
「はい兄さま! てへへ」
「お兄様! 足がしびれてきました!」
「俺、お前のそういうアホなところすごく好きだわ。ピザ窯からピザどんどん出していくからリビングに運んじゃってくれ」
「ありがとう存じますお兄様!」
ピザの具材をスライスさせていた駄妹がその後馬鹿正直に正座していた。
料理に夢中で突っ込むの忘れてたわ、反省。
凄くうれしそうにしてるけどなんか悪い気がしてきたから精一杯優しくしよう。まったく文句を言ってこないから逆にこちらの罪悪感がヤバい。
なんか家の中に入れ忘れて玄関でずぶぬれになっても尻尾振って喜んでる犬みたいだ。
ちなみに駄姉は今アンナにせがまれて絵本を読みまくってるらしい。
アンナもミコトに遠慮してなかなか駄姉に構って欲しいと言えず、ミコトが満足するまで黙ってたらしいので、駄姉が滅茶苦茶構ってやっているとの事。
まあ何とか食材を切れるようになった駄妹とは違って、駄姉は最初から料理に関しては諦めてリビング係に徹しているからそれは別に良いんだけどな。
「よし、どんどん運んでくれ。駄妹、そのピザ持って行ったら一号たちにも声かけてくれ」
「はい!」
ピザ第二弾をピザ窯に入れたら、完成したシチューに茹でたブロッコリーを大量に投入して巨大な寸胴鍋ごとリビングに運ぶ。
アイリーンも呼ぶかと、残りの配膳を一号に頼んで、孤児院のリビングに行く。
「おい、アイリーン、飯だぞ。食って行け」
「閣下、いえ私はまだ仕事がありますし食事までご迷惑をお掛けするわけには」
「良いから食って行けって美味いから。命令だぞ」
命令と言われて、にこっと笑ったアイリーンが、「かしこまりました。閣下、ご厚意感謝いたします」と答えて立ち上がる。
いつもの冷静な表情から、柔らかな笑みをたたえた表情になり、俺に大人しく着いてくる。
仕事モードをオフにしたのかな。こうしてると凄く綺麗なお姉さんなんだよなアイリーンは。
仕事モードがオンになってると、綺麗は綺麗なんだけど、ちょっとキツめのキャリアウーマンみたいでそれはそれで魅力的だとは思うけど。
「そうだ、アイリーン。お前貴族になる気は無いか?」
「貴族……ですか?」
「領主代行という役職にはどうしても爵位が必要でな。条項は撤廃しても、どうしても平民の命には従えないという文官や武官なんかが出るんだと。見下してるとかそういうクソみたいな理由じゃなく、格式や慣例だとかでどうしても肩書としての爵位は今の段階では必要なんだってさ。俺としてはお前の地位を上げて、現場の担当なんかじゃなく、もっと業務を統括する立場になって貰いたいんだよ」
「大変光栄ではございますが、私には貴族の格式などもわかりませんし……」
「俺だってそうだよ、伯爵になる前はクズ扱いの冒険者をやってる平民だったからな。それでも周りの助けでなんとかやれてる。アイリーンも俺や駄姉妹が補佐してやるからなんとか考えてくれないか?」
「閣下……」
「最初は騎士爵だけど、アイリーンなら継承権のある男爵までは
「爵位を継ぐような家族はいません。私は一人っ子でしたし、両親は配属が決定した後にこれまでの苦労が祟ったのか相次いで亡くなりました」
「そうか、でもその内子供が出来たりするんじゃないのか」
「貧しい中、必死に勉学に励んでファルケンブルク領で採用されてからも仕事一筋でしたからね。恋人など作る暇もありませんでした」
「それでも継承権のない騎士爵や准男爵なら問題無いだろ?」
「閣下にそこまで言われては、お受けする他ございません」
「良かったよ、どうしても領主代行は設置したかったからな。投げだすつもりはないけど、俺はここでの生活を一番大事にしてるから」
「いえ、閣下がそれを望まれているというのは群臣全て了承していますので問題ありません」
「押し付けるようなことになってアイリーンには本当に申し訳ないが」
「お気になさらないでください。私は今とても充足しているのです」
「そう言ってくれると助かるよ。お礼じゃないけど、何かあればいつでも言ってくれ。俺にできることがあれば可能な限り聞くから」
「まあ、そんなことを仰って大丈夫なのですか閣下」
「アイリーンの頼み事ならいいさ」
「では考えておきますね」
「おう」
報告時とは違う、アイリーンの弾んだ声を背中に受けながら、リビングへ向かう。
豪華なメニューに歓喜の声が沸いているようだ。
テンション高いなガキんちょどもは。
「兄さま! 今外にシャルちゃんの反応がありました!」
「クレアの防御魔法って敵味方だけじゃなく、誰が触ったかも判断できるの? すごくね? っと感心してる場合じゃ無かった、ちわっこを連れてくるわ。駄姉、アイリーンも一緒に飯を食うから皆に紹介してやっておいてくれ」
「かしこまりましたわ旦那様」
駄姉にアイリーンを任せると、俺は一人玄関に向かう。
丁度飯時にくるのな、ちわっこは。
まさか狙ってないよな?
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