第十話 魔法訓練(水着回Ⅸ)


 いちゃいちゃしてたエルフ姉妹が揃って水の中で遊ぶと言い出したので、俺にかまわず遊んで来いと言って見送る。


 平和だなーとタピオカ入りオレンジジュースをずるずるすすっていると、クリスとシルに率いられた集団のガキんちょどもが波打ち際を歩いていた。

 何をしてるんかなと様子をうかがっていると、烏帽子岩に向けて攻撃魔法を撃ちだした。

 そういや烏帽子岩って戦時中は射撃訓練の目標として使われたことがあったんだっけ。

 っていやいやいや! あいつら何をしてるんだ……。


 もー、めんどくせー。とタピオカ入りオレンジジュースを飲みほしてからクリスの元へ向かう。

 ガキんちょの中にはエリナやクレア、ミコトとエマも混じっている。



「クリス」


「これは旦那様。これから水の中に入られるのですか? すみません、この一帯は魔法訓練のために使用するので少し距離を取ってくださいませ」


「いや水に入るためじゃなくてだな、急に烏帽子岩に攻撃魔法を当ててたから気になってな」


「左様ですか。あのエボシ岩は攻撃魔法の標的として使っていいと言われましたので、せっかくなので魔法科の課外授業をと思いまして」


「それでガキんちょどもに順番で魔法を撃たせてたのか」


「はい。そろそろ実践段階に入っても問題がないところまで来ていますし」


「兄ちゃん! 俺の魔法を見てくれよ!」


「お前って火と土属性持ちだっけ?」


「おうよ。クリス姉ちゃん、いいか?」


「ええ、アラン」



 そういやいつの間にかクリスが一号を呼ぶときにアラン君からアランになったんだよな。養子縁組したあとくらいからだっけ?

 我が家は人間関係が複雑なんだけど、全く問題が起こらないのは良い事だ。



「よっしゃ! 見てろよ兄ちゃん! 石弾ストーンバレット!」



 一号が百メートルほど先にある烏帽子岩に向かって手をかざし、土属性の初級魔法を行使すると、翳した手のひらから握りこぶし大の石が生まれ、高速で射出される。

 <パカン>と烏帽子岩に見事命中させた一号はドヤ顔を俺に見せてくる。



「やるじゃないか一号」


「へへへっ! だろ?」


「お兄ちゃん! 私もやる!」


「お兄様! わたくしも!」



「エリナ、シル。お前ら変な対抗心を出すのはやめろ。メギドアローやハイドロプレッシャーなんか撃ったら烏帽子岩に穴が開くだろ」


「「えー」」



 ミコトとエマを連れてガキんちょどもの魔法訓練を見学していたエリナとシルが自分もやるとか言い出した。流石にアホコンビだな。

 初級魔法をやっと使えるようになったガキんちょどもに、上級魔法を使えるエリナやシルが対抗意識を持ってもしょうがないだろ。



「パパ! わたしもやりたい!」


「えまも!」



 エリナとシルが騒いだせいか、娘ふたりもやりたいと言い出した。



「危ないから駄目」


「「えー!」」


「だってまだ魔法は習ってないだろふたりは」


「でもアランにーとかのみてたからわかるよ!」


「えまも!」


「駄目だっての」


「……旦那様。よろしいでしょうか?」


「なんだクリス」


「今ミコトちゃんとエマちゃんの体内の魔力を見て見たところ、魔力移動までできています」


「えっ、まだ魔力の励起はしていないんだろ?」


「はい。それはこのバカンス前の身体測定でも確認しています」


「なら一号たちの魔法を見てて自力で励起したってことか」


「ですね。ついでに魔力移動までできているようです。使い方を教えておかないと却って危ないかもしれません」


「もう魔力を行使できる直前まで来てるってことか」


「ですのでいい機会です。ここで魔力の行使が危険だということを教えておきましょう」


「あとは今後だよな。魔法科の授業だけでも受けさせるか。難しい言葉とかはわからないかもだけど」


「そのあたりはお任せくださいませ」



 俺とエリナが魔法を使えるようになったのは爺さんに魔力を励起させてもらってからなんだよな。

 ミコトもエマもこんなにちっちゃいのに自分で魔力を励起するとか……。

 これはしっかり魔法科の授業を受けさせて正しい魔法の使い方を教えておかないと大変なことになるかもしれん。



「パパ?」


「魔法を使っていいぞミコト、エマ」


「「いいの⁉」」


「ただし、クリスの言うことをちゃんと聞くんだぞ? あと夏休みが終わったら、魔法の授業を受けに学校に行くこと。約束できるか?」


「「うん!」」


「じゃあクリス、教えてやってくれ」


「かしこまりましたわ」


「クリスねー! だいたいわかるから平気!」


「えまもわかる!」


「背伸びしたい年ごろなのかね。ならまずはやらせてみるかクリス」


「ですね。じゃああのエボシ岩に向かって魔法を使ってみてくださいねミコトちゃん、エマちゃん」


「「はーい!」」



 娘ふたりが仲良く手をつないで水際まで移動する。

 まあいきなり魔法は使えないだろうけど、もし暴発とかでもしたら大変だ。ちらりとクリスの方を見ると、頷いてきたので、防御結界の方もばっちりだろう。

 なら安全が担保されているこの状況で、とりあえずは魔法を失敗させておいたほうが良いのかな。トラウマになるようなのは困るけど、流石にそのあたりの心配はいらないだろう。

 クレアの方を見ると、こちらもしっかり俺に向かって頷き返す。

 娘ふたりと周囲の防御はばっちりだ。

 さすがにここまで警戒する俺は相変わらずヘタレだなと思いながら、娘ふたりを見守る。



「気をつけてな」


「「うん!」」


「じゃあどちらから魔法をつかうのかしら?」


「違うよクリスねー! エマちゃんと使うんだよ!」


「そうだよくりすねー!」


「「へ?」」



 俺とクリスの気の抜けた反応を意に介さず、手をつないでいたミコトとエマは体をくっつける。



「「ごうえんきゅーばーすとふれあ!」」



 ミコトとエマが行使した火属性の魔法によって生み出された二メートルはある火球が火線を描きながら時速百キロ以上の速度で烏帽子岩に向かっていく。



 <ドバアアアアアアアアアアン!!>



「「「へ?」」」



「わ! できたよエマちゃん!」


「うんみこねー!」



 その場にいる全員が呆然とするが、当の本人たちは嬉しそうだ。

 いや待て待て、バーストフレアってエリナが得意にしてた魔法だろ?

 地竜にはいまいち通用しなかったが、ブラックバッファローを一瞬で蒸発させた魔法だぞ。

 しかもこれって夫婦魔法というか合体魔法なのか?



「いやこれは……クリス?」


「……上級魔法をいきなり行使するなんて……。しかも旦那様、エボシ岩を見てください」



 クリスに言われて烏帽子岩を見てみると、水面から突き出ている烏帽子岩の上半分が消失していた。

 なんだこれ……。

 エリナもバーストフレアを使った時には直径三メートル、深さ二メートルほどのクレーターを作ってたけど、威力もあの時のエリナを超えてないか?

 エリナがよくミコトとエマにせがまれて、初めて地竜と戦った時の話をしてたから、バーストフレアの説明もしてイメージ出来てたのかもしれん。

 というか『ごうえんきゅう』ってしっかり発音してたのになんでルビが『バーストフレア』なんだよ。ちゃんと仕事しろ言語変換機能。メタいけど。



「お兄ちゃん! 私も魔法を使う!」


「お兄様! わたくしも!」


「そんな場合じゃねー!」


「「えー!」」


「アホコンビは置いておいてどうするか……。クリス、今すぐふたりに可能な限り魔法のことを教えてやってくれるか? 俺たちがいない場所で勝手に使ったりはしないと思うが、魔法が危険なものだということと、普段は魔法をつかっちゃいけないってことをしっかり覚えさせないと」


「かしこまりました」


「シルは引き続きガキんちょどもの魔法訓練を見てやってくれ。クレアは万が一のために防御結界の展開を頼む」


「わかりました兄さま」


「じゃあミコトとエマは少しここから離れるぞ。魔法を使うときに覚えておかないといけないことをこれからクリスとエリナと一緒に教えるから」


「「「はーい!」」」



 なんでエリナまで一緒になって返事をしてるんだ……。

 ミコトとエマの魔法の才能に嬉しさ半分不安半分と言ったところか。

 しっかり魔法の扱いを教えておかないと。明らかに俺より強い魔力っぽいから反抗期とか心配だ……。



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次回も水着回です!


同時連載しております小説家になろう版では、今回の水着イラストを含め100枚超の挿絵が掲載されてます。

是非一度小説家になろう版もご覧いただければと思います。

小説家になろう版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。


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