第十一話 バーベキュー(水着回Ⅹ)
ミコトとエマの魔法問題に関しては、魔法の正しい使い方や危険さなどをしっかりと教え込むと同時に、ふたりがどこまで魔法を使えるのかの確認も行った。
これは夏休みが終わったらミコトとエマのふたりを魔法科の授業に参加させるためだ。
元々魔法適性はふたりとも全属性が使えるのはわかっていたのだが、実際に魔法を使わせてみた結果、それぞれ単独なら初級から中級までの魔法を使えるということが判明した。
エリナから夫婦魔法の存在や地竜戦でエリナが使ったバーストフレアやメギドアローの話を聞いてイメージはできていたようで、夫婦魔法ならぬ姉妹魔法であれば上級魔法のバーストフレアが行使出来るレベルにまで達していた。
流石に最上級魔法であるメギドアローは使えなかったが、五歳児と三歳児が上級魔法を使えるというのは過去でも例が無いらしい。基本的には十五歳から本格的に魔法技術を修めていくのが一般的なので当たり前なのだが。
昼飯を挟んでミコトとエマの魔法訓練に付き合っていると、周囲がだんだん暗くなってくる。
今日はホテル側の好意で野外でバーベキューをすることになってるからな。もうそろそろ設営会場に移動しないと。
「そろそろ終わりにしてバーベキュー会場に行くぞー」
「「「はーい!」」」
「ミコトとエマは、俺とか他の大人の許可がないと魔法を使っちゃ駄目だからな」
「「「はーい!」」」
ミコトとエマ、そしてエリナの完璧な返事が返ってくる。
なんでエリナまで返事をしてるんだ……。アホな嫁をスルーしつつ、娘ふたりの訓練に付き合ってくれたクレアとクリスも連れてバーベキュー会場へ向かう。
「しかしこのふたりがねえ。魔法適性は全属性だったし年齢の割には魔力総量も多いってのはクリスが言ってたけど」
「やっぱりご飯をいっぱい食べたからじゃないのかなあ」
ミコトとエマは離乳食からずっと、俺かクレアの作った物を食べてたからな。魔力を帯びた食事、魔力飯の影響を一番受けてるんだよな。もちろんエリナの言う通り、食べる量も成長するにしたがってどんどん増えているしな。
「そうですね。月一回の健康診断の時に魔力総量も計測してますが、やはり伸び方が以上ですわね旦那様」
「そうか。ならこの夏休みが終わったら魔法科の授業を受けさせたほうが良いな」
「お兄ちゃん! 私がミコトちゃんとエマちゃんを連れて行くよ!」
「ちょっと不安だから、時間が合えばクレアも一緒に行ってくれるか?」
「わかりました兄さま」
「ぶー! そうだお兄ちゃん、私たち軽くシャワーを浴びて着替えてくるね」
と結局俺以外が一旦ホテルに戻ることになった。
俺は海パンの上にパーカーを羽織ってる状態だがどうするかな。まあ別にいいか。
ホテル側が設営してくれたバーベキュー会場に到着すると、もうすでに他のガキんちょどもも会場に到着しているようだ。
ガキんちょたちと、ガキんちょたちへの魔法訓練を引き継いでいたシルもいるし、ほとんどのガキんちょが水着から着替えていた。
「お兄様!」
「シル、魔法訓練ありがとうな。ガキんちょどもはどうだ?」
「大変優秀だと思います! 授業内容に実戦形式の授業を取り入れてもいいかもしれません!」
「実戦って、戦わせたりするのは駄目だぞ。柔道や剣道みたいなものならともかく」
「いえ、実際に魔物を狩る訓練ですね。お兄様の言う将来の職業の選択肢を増やす結果になると思いますが」
「む。人生の冒険者にはさせたくないが、ハンター稼業なんかは割と一般的だしな」
「是非ご一考ください!」
「わかった。ご苦労だったなシル」
「はい!」
シルが随分とまともな献策をしてくる。たしかに魔物との闘いを経験しておくことは必要かもしれん。
クリスやシル、魔導士協会の連中や騎士団を動員して、ガキんちょどもを護衛させながら狩りを経験させるのはありかもな。
そうこうしてるうちにエリナたちも合流し全員が会場に揃ったようだ。それを確認したのか、ホテルの従業員が話しかけてくる。
「チーオムさま、皆さんお揃いになりましたので始めさせていただいてよろしいですか?」
「頼む。あとチーオムはやめて」
「かしこまりました」
かしこまったのはバーベキューを始めることで、多分チーオムって呼ぶなということに関してはかしこまってないんだろうなあと半ば諦めながら、用意された大量のグリルのうち、ひとつのグリルの側に備え付けられた椅子に腰掛ける。
「バーベキューって初めて!」
浴衣に着替えてきたエリナが言う。たしかに今まで外で肉や野菜を焼いて食べるバーベキューってしたことが無かったんだよな。
従業員がぞろぞろと出てくると、グリルの周りに置かれたテーブルの上に、肉や野菜の盛られた大皿を並べていく。
それと一緒に、すでに火のついた炭もグリルに入れてく。
相変わらずすごい量だ。これ追加の注文もできるのかな。
「ではチーオムさま、お声をかけて頂ければ調理補助もさせて頂きますので」
「ありがとう。あとチーオムはやめて」
「兄ちゃん! もう始めていいのか⁉」
「一号、お前ら料理できないだろ。各グリルに担当をつけるからいうことを聞くように。火を使ってるんだからな、気をつけろよ」
「わかった兄ちゃん!」
各テーブルにメイドさんやちわっこの侍女なんかがついてくれて、肉や野菜を焼いてくれることになった。
「よしじゃあ始めるか!」
「「「いただきまーす!」」」
メイドさんや侍女たちが一斉に肉や野菜を焼き始めると、ガキんちょどもは一斉に各グリルの前に移動し、焼きあがった肉や野菜を食べ始める。
「おいしー! パパ! このおにくおいしー!」
「ぱぱ! おやさいもおいしーよ!」
「そかそか、いっぱい食えよ」
「「うん!」」
やはり外で肉や野菜が焼けるのを待ちながら、ワイワイやるのがガキんちょどもには楽しいようだ。
ホテルの従業員もひっきりなしに追加の肉や野菜、ドリンクなどを給仕してくれている。
チーオム弄り以外に関しては百点満点だな。流石に迎賓館代わりに使えるほどの施設だ。
「センセ! あのステージを使わせてもらって良いですか?」
「お、何かするのか?」
「エカテリーナの演奏に合わせて私が踊るんです!」
「ほう、いいぞ。楽しみだ」
「おおきにセンセ! では早速! エカテリーナ!」
「ええ姉さん」
マリアとエカテリーナが、バーベキュー会場に備え付けられた小さなステージの上に移動する。
もうすでに周囲は暗くなっているのだが、魔力の明かりや篝火が用意されていてステージ上を照らしている。
「ええで! エカテリーナ!」
「はい姉さん」
ステージ上の椅子に座ったエカテリーナは、チェロのような楽器を奏で始める。
エカテリーナは水着のままだが、チェロのような楽器を抱える必要があるためか下半身にはズボンを履いている。
エカテリーナの奏でる音に合わせ、水着姿で下半身にタオルのような布を巻いたマリアが踊り始める。
んー、光の中浮かび上がるステージ上のエルフ姉妹が凄く優雅だ。
エルフ族は仕事もしないでこういう遊興に励んでいるんですよなんてエカテリーナが言っていたが、流石に寿命が平均で千年もある種族だ。
何十年も趣味に没頭できる環境に置かれているせいか、素人の俺でも趣味をはるかに超えた芸術レベルの演奏とダンスのように感じる。
しかしこの音楽どこかで聞いたことあると思ったら、ザ・ベン〇ャーズのダイアモン〇ヘッドじゃないのかこれって……。
ダイアモンド〇ッドどころか、ここには江の島か、ミコトとエマが抉った烏帽子岩しか見えないが。
それになんでチェロでエレキみたいな音が出てるんだ? エレキギターとベースの音が普通に聞こえてるんだがおかしくね?
ただ疑問に思ってるのは俺だけで、エリナたちやガキんちょどもはエルフ姉妹の演奏とダンスに大興奮だ。
取り皿に大量に料理を乗せ、エルフ姉妹の余興を楽しんでいる。
音楽とダンスの授業の講師は決まったな。
「はいお粗末様でした!」
三曲ほど踊り続けたマリアが挨拶をすると、ガキんちょどもをはじめ、その場にいる全員がスタンディングオベーションだ。まあみんな立ってたけど。
「ご主人様っ! お父さんからご主人様たちに用意した贈り物があるんですっ!」
さっきまで肉をメインにがふがふ食べていたサクラが声をかけてくる。贈り物って何だろうか?
「贈り物? 食べ物かな?」
「いえっ! みなさんも見てください!」
サクラが江の島と烏帽子岩の間あたりを指さすと、その場にいる全員が注目する。
何があるんだ? と目を凝らしていると、湖上から上空に向かって明るい光が昇って行く。これって……。
<ドーーーーーーーン!!>
「「「おおーー!!」」」
夜空に大輪の花が咲く。
花火も伝わってるんだ……。
ドンドンとそれから何輪もの花が夜空に咲いていく。
「きれー! きれーだねエマちゃん!」
「うん! きれーだねみこねー!」
「お兄ちゃん、凄く綺麗だね」
「ああ」
花火を眺めるエリナの横顔を眺めつつ
「綺麗だ」
俺はそう答えるのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【あとがき】
茶山大地です。
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。
これにて十一章は終了です。
次回更新より、ミコトとエマの魔法エピソードを中心とした第十二章が始まります。
「ヘタレ転移者」を引き続き応援よろしくお願い致します!
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