第二十三話 誕生日
料理が完成したので、シルや一号にも手伝わせてどんどん運び込んでいく。
クリスマス会と同じように託児所メンバーの家族も呼んだので、今回も大人数だ。
サプライズの誕生日プレゼントの服も、家族分用意した代わりに、一人一着ずつに加えて部屋着二着だ。服自体も、新品ではあるが、庶民には少し贅沢かも程度の質にしてある。部屋着に至っては新品なだけで安さ重視の品質だ。
「一号、蒸籠の蓋を開けるなって」
料理を運んでいる最中、一号が蒸籠の中が気になったのか蓋をずらして開けようとしていた。
マナーはちゃんと躾られていたのに珍しいな。
「ごめん兄ちゃん、蓋がちゃんと隙間なく閉まってるかが気になって」
すまんな。食欲かと思ったら一号たちが作った蒸籠の品質を気にしていたのか。兄ちゃん失格だな。
「一号ごめんな。兄ちゃんちょっとお前をみくびってたわ」
「また兄ちゃんが変なこと言い出した。ちゃんと蓋が閉まってないと冷めちゃうから気になっちゃうんだよ」
しっかり一人前になってきた一号たちと料理を運運び続ける。最後はクリームシチューの大きな寸胴を運び込んで終了だ。
「じゃーみんなー! いただきまーす!」
「「「いただきまーす!」」」
エリナの挨拶で食事が始まった。
クリスマスの時もヤバかったが、一度クリスマスを経験したからなのか、託児所メンバーもその家族も、いきなりトップスピードで食べ出した。
それでも食い散らかすとか、こぼすとかそういう
ことはなく、秩序だって粛々と高速で食べているという不思議な光景だ。
なんなのこいつら……。
ま、いいや。と蒸籠の蓋を開け、焼売をひとつ取り、からし醤油をつけて食べる。
「美味いわ、クレアは天才か」
「てへへ、兄さまありがとうございます」
今日は俺とクレアがクリームシチューのおかわり係だ。俺の隣にちょこんと座って、俺と同じように焼売を食べて味の確認をしている。
ちなみに箸の使い方は孤児院メンバーも託児所メンバーもすぐに覚えた。食に関することだからか異様な学習速度だ。
「肉まんの餡とは違うのになんで俺の話を聞いただけで再現できるんだ?」
「兄さまがホタテの貝柱を使わないとしゅうまいじゃないらしいぞって言っていたので、今回はホタテの貝柱の乾物を使って味を兄さま好みにしてみましたからね」
「それはシウマイの話だけど合ってるしいいか」
「? しゅうまいとしうまいは別なんですか?」
「いや、一緒でいいぞ。俺もガキんちょの頃は区別できてなかったし。それより俺のから揚げにレモンを絞るな」
焼売の味を確認したあと、俺の取り皿にから揚げを取り分けてくれたクレアが、流れるような所作でから揚げにレモンを絞ろうとするのを咄嗟に止める。
「えっ、兄さまはレモンを絞らないんですか?」
「クレアも絞る派かよ。レモンが出回る季節になってから、衝撃的事実が次々と判明して兄さまはビックリだわ」
「だよな兄ちゃん! から揚げにレモンを絞るなんて邪道だよな!」
取り皿に大量のマヨネーズをまぶしたから揚げを乗せた一号が、何やら声を掛けてくる。
「一号、お前と一緒にするな。俺もマヨラーの自覚はあるけど、お前ほどじゃないわ。それに、そもそもそんなにマヨネーズをつけたら衣のさくさく感が無くなるだろが!」
「兄ちゃん細かいこと気にするのな」
「お前、レモンを批判しておいてその言いぐさは無いだろがよ……」
ギャーギャーと騒がしい時間が過ぎていく。
デザートも無くなり始めた頃、服屋の女性店員がぞろぞろとリビングにやって来る。
「ちょっと早いけど、誕生日プレゼントだ! 服を用意したから袖を通してみてくれ。丈や裾の調節はその場でやってくれるからな!」
「「「はーい!」」」
服を受け取った順に、男女それぞれの寝室に着替えに行く。
あんなに大量の飯を食った後だと体型変わってるんじゃなかろうかと思ったが、去年も飯の直後だったなと思い直した。あいつらの食欲と体型についてはあまり深く考えないいうにしよう。
服の試着とお直しの間に、年越し蕎麦ならぬ年越し天ぷらうどんを作りに行く。海老がないから玉ねぎと人参のかき揚げ天だ。去年はスープパスタだったから普通に受け入れられたけど、完全な和風出汁のつゆってあいつら大丈夫かな?
ま、食べられないって子がいたら何か適当に食い物を出してやるか。ラスクもまだマジックボックスの中にしまってあるし。
「お兄ちゃん手伝うね!」
「兄さま手伝います!」
「お、エリナとクレアは試着終わったのか?」
「私たちは結婚式の時にも服を作ったばかりだからね、試着しなくても大丈夫!」
「そういやそうか。じゃあエリナはうどんを茹でてくれるか? クレアはつゆを頼む。俺は天ぷらを揚げちゃうから」
「わかった!」
「はい兄さま」
ジャージャーとガンガンかき揚げを揚げていると
「うーん、<
エリナが難しい顔をしながら治癒魔法を唱える。
「どうしたエリナ、大丈夫か?」
「姉さま、体調悪いんですか? 私が治癒しましょうか?」
「ううん、大丈夫! 食べ過ぎちゃったみたい! もう治ったから平気!」
「エリナも大量に食ってたからな、気を付けろよ」
「姉さま、また気持ち悪くなったら言ってくださいね」
「うん。ありがとうお兄ちゃん、クレア」
治癒魔法で治ったエリナがうどんを茹で終わったので、どんぶりに入れ、クレアの作ったつゆを注いで、俺の揚げた天ぷらを乗せて天ぷらうどんの完成だ。完成したものからマジックボックスに収納していく。
便利すぎだなマジックボックス。あれ? 晩飯もこうやって運んだほうがよくね? いやでも完成した料理をみんなで厨房から運んだほうが、美味しい感じがするし、ガキんちょどものわくわく感も煽れるしまあいいか。と考えていると、クリスとシルが厨房に入ってくる。
「お姉ちゃんたち、丁度よかった!」
「まだ渡してなかったんですかエリナちゃん」
「うん、みんな揃ったときがいいと思って!」
そういうと、エリナは片付けの手を止めて、マジックボックスから白木の箱を取り出す。
「はいお兄ちゃん! これ私たちからお兄ちゃんのお誕生日プレゼント!」
「お兄様の成人祝いも兼ねてるんですよ!」
エリナが嬉しそうに箱を俺に差し出し、シルが補足してくる。
そうか、俺って二十歳になるんだな。まだ元旦の誕生日に慣れてなかったわ。
「ありがとうな、お前たち」
「どうぞ、ご覧くださいませ旦那様」
箱を受け取り、中を見ると脇差サイズの日本刀が入っていた。
クリスに促されて抜刀してみると美しい刀身が現れる。
「刃文は
「えっとね、『刃長は一尺九寸五分、魔宝石は仕込んでないしミスリルではないが、玉鋼で打った本物だ』だって!」
暗記が得意なエリナが、あごに指をあてて、こてんと首を傾けながら親父の言葉を伝えてくる。
「兄さま、武器屋のおじさまが言うには、『武士は二本差しが当たり前だ』とのことで、みんなでお金を出しあって打って貰ったんですよ! というか地竜の討伐報酬だって言って、いきなり金貨四十枚も貰っても困りますから、残りは兄さまが預かってくださいね」
そういや地竜の売却金の金貨二百枚を五人で分けたんだった。ファルケンブルクへの税金は魔導師協会で別に払ってくれたから、まるまる金貨二百枚が手に入ってかなりお得だった。
納刀して、マジックボックスに大脇差サイズの脇差を収納する。
「最高のプレゼントだよ、ありがとうな」
「「「はい!」」」
◇
今日は夜更かししていいぞと伝えてあるので、ガキんちょどもはわいわい遊びまくりだ。新しい服を着てご機嫌だなこいつら。
日が変わるまでもう少しか。もう寝ちゃってる子も出始めたので、年越し天ぷらうどんを出してやる。
「うおー兄ちゃん、うどんヤベえ! てんぷらもヤベえ!」
「わかったわかった。本当は生卵を落として天玉うどんにしたかったんだが、卵の生食が怖いからな、我慢してくれ」
「生で卵を食べるとか気持ち悪いぞ兄ちゃん」
「まあそういう反応だよな」
養鶏して生卵の美味さをわからせてやるかな、などと考えてると
「みなさん、そろそろ日が変わりますよ!」
子供たちの前でしか見せない笑顔で、クリスが懐中時計を見ながら、大声で年明けのカウントダウンを始める。
「「「さん! にー! いち! ぜろ!」」」
「明けましておめでとうございます!」
「「「あけましておめでとうございまーす!」」」
完全に保母さんモードのクリスが新年の挨拶をする。
城での会議じゃ、会議そっちのけでずっと俺の匂いを嗅いでる人間と同一人物に見えん。
ぽてて、とまだ少し顔色の悪いエリナが俺の側に来る。
「えへへ。お兄ちゃん、今年もよろしくね」
「ああ、今年もよろしくな。エリナ」
「うん!」
去年は色々ありすぎたけど、結果的には良い年だったな。来年も良い年になればいいけど。いや、頑張って良い年にしてやらないとな。
きゃっきゃとはしゃぐガキんちょどもを見ながら、俺はそう誓うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます