第二十二話 大晦日の準備


 慌ただしい年末の日々が過ぎていく。

 ラインブルク王国では新年のお祝いが一番盛大に行われる。

 公的な年齢も一律で加齢する扱いとなるため、庶民は誕生日のお祝いも一緒にやってしまうのだ。


 一月一日から三日まではどこも休日となり、商店も閉まるので、大晦日の市場は大賑わいだ。

 公共事業で日当を貰って従事している作業員には年末特別手当として、雇用月数に応じて寸志を渡して一日から三日までは休日とした。

 作業員には、午前中に道具の整理整頓や掃除だけして貰って、寸志を配って終了だ。もちろん日当は満額支払った。

 また、アンナの母親のように、託児所の職員として内定の出ている者の中で、希望者には三が日は研修期間として、託児所で簡単な作業を担当して貰うことになった。

 帰る家が無い者、簡易宿泊所で寝泊まりできるのを当て込んで家を引き払ったりした者もいるので、現場の簡易宿泊所を解放し、一日二食だが簡単な食事も提供する。

 アンナの母親たち内定者には、そちらも担当して貰う。

 ゆくゆくは朝の弁当販売も手伝って貰う予定だが、これは正式採用後になるだろう。


 早い昼飯を簡単に済ませた俺とエリナは市場に買い物に来ている。

 残りのメンバーは職員棟兼住居の大掃除だ。

 クレアと婆さんは帳簿、クリスとシルは報告に来たアイリーンや武官の対応をしている。



「お兄ちゃん、買い物はこれで大丈夫かな?」



 俺と腕を組んでご機嫌なエリナが、クレアから渡されたお買い物リストをぴらぴらと俺に見せながら聞いてくる。



「去年は食材が足りなくなりそうだったからな、クレアの見積りより少し多めに買っておきたい。簡易宿泊所分の食材も多めに買っておこう」


「じゃあ保存食を多めに買うの?」


「マジックボックスがあるから生鮮食品でも良いんだぞ」


「あ、そっか! じゃあお肉もお野菜も小麦粉も多めに買うだけだね!」


「その多めが問題なんだけどな」


「あの子たちいっぱい食べるからね」



 一応肉屋の親父にも野菜売りのおばちゃんにも大量に買い付けにいく事は伝えてあるし、作業現場が休業するので、一度に購入する食材は減っているんだが、在庫は大丈夫かな?

 などと考えながら買い物をどんどん済ませていく。



「そういや結局あいつらへの誕生日プレゼントは服になっちゃったな」


「託児所の子たちも服をあまり持ってないから丁度いいと思うよ」


「月二回の買い食い日くらいしか着る機会なさそうだけど、孤児院メンバーみたいに男女ともおしゃれに気を遣うようになれば良いんだけどな」


「お兄ちゃんがいつも言ってる、『いしょくたりてれいせつをしる』だっけ」


「原文はもうちょっと長いんだがそういうことだ」


「えへへ!  あの子たちにいつも優しいお兄ちゃん大好き!」


「家族なんだから当たり前だ」


「照れてるお兄ちゃんも好き!」


「優しいのはエリナの方だろ、こんな俺をずっと好きでいてくれるんだから」


「お兄ちゃん……」



『ペッ!』



「ほら、独身のブサイクなおっさんが、俺達に嫉妬して道端にツバ吐いてるから、イチャつくのはあとにしようぜエリナ。あと今年はお世話になったなブサイクなおっさん」


「はーい!」


「それに結局エリナたちへのプレゼントも服になったけど良かったのか?」


「私たちもあまり服を持ってないしね、お姉ちゃんたちも平服は少ないって言ってたし」


「ならいいんだけどな。他に欲しいものとか無いのか?」


「うーん、お兄ちゃんにキスして欲しいかな!」



『ペッ!』



「ほら、独身のブサイクなおっさんが、また俺達に嫉妬して道端にツバ吐いてるから、イチャつくのはあとにしようぜエリナ。あと来年もよろしくなブサイクなおっさん」


「はーい!」



 同一人物かはわからないが、俺たちは嫉妬されつつ市場を練り歩き、買い物を終わらせる。


 家に戻ったら早速料理の開始だ。

 晩飯を作る前に、おやつとして大量のラスクを作るんだけどな。

 定期的にラスクを出さないと怖い子がいるので。



「お兄ちゃんラスクをそんなに作るの?」



 俺がマジックボックスから取り出した大量のパンの耳を見て、エリナがビックリした声をあげる。



「半分はおやつとして出すけど、残りは晩飯で出すからな」


「ミリィが喜びそうだね」


「うるさいからなあいつ」



 巨大な鍋に油を注いで、コンロに火を着ける。

 俺の横では、エリナが大量のジャガイモを茹でる準備を始めている。

 ポテサラにコロッケなど今日は大量にジャガイモを使うからな。


「そういえば、ミリィに『お兄ちゃんとラスクどっちが好き? 』って聞いたらお兄ちゃんって言ってたよ!」


「エリナ、それは『頼めばいくらでもラスクを作ってくれる俺』が好きなだけだぞ。目先のひとつのラスクより、俺を選んだ方が、結局たくさんラスクが食えるから。とかそんな理由だぞ」


「そっかなー?」


「そうなんだよ、ミリィの好き嫌いは全てラスク前提なんだよ」


「そう言われればそんな気もしてきた!」



 お姉ちゃんに残念な評価を下されたミリィの為に大量のラスクを作る。

 いつもの砂糖味とシナモン味の他に、ハチミツ味とキャラメル味も作ってやる。

 抹茶やメイプルシロップ味も用意したかったが、売ってなかったので、プレーンなラスクも用意して、ジャムをつけて食べて貰うようにしよう。

 なんで俺はこんなにラスクを熱心に作ってるんだと思いつつ、ラスクを揚げ終わったので、いくつか味付けをしてマジックボックスに収納する。


 マジックボックスのおかげで揚げたてを提供出来るし、出来上がり時間を調節して料理をする必要がなくなったのでありがたい。

 貴重なマジックボックスをこんな使い方してる奴なんかいないだろうけどな。


 さて、おやつ作りも終わったのでメインの料理に取り掛かるか。



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